第17話:写真映えしない料理を、若者が「うまい」と言った日。
「すいませーん、お店、開いてますかぁー」
開店準備中、若者の声が聞こえた。何事だ、と俺は手を止める。
「ただいま、開店準備中なんで。もうしばらくお待ちいただけますか?」
俺は、若者二人に向けてそう告げた。
若者は言った。
「開店まで、あとどのくらいですかぁ」
「30分ほど、お待ちいただければ」
「わかりましたぁ、じゃ、またきまーす」
そう言って、若者二人は、屋台から離れていった。
――スマホ持ってれば、開店時間くらい……あぁ、この屋台は、特にネットに情報公開してなかったか。
しかし、オヤジさんは、特に情報公開することなく、今の客足を獲得したのである。
情報公開した結果、一見客が増えて、常連客が入れなくなるのも、俺的には好ましくないことだった。
一応、オヤジさんにも相談してみるか。俺はこの問題を、一旦保留にした。
そして、俺は、黙々と屋台の開店準備をするのだった。
開店直後、さっきの若者二人がやってきた。てっきり、それきりこなくなるものと思っていた。
「開いてますかぁ」
「はい、開いてますよ。いらっしゃいませ。お待たせしました」俺は答えた。
「この屋台、お肴が美味しい、って聞いたんですよねぇ。おすすめ、お願いできますか?」
「お客さん、苦手なものとかって、ありますか?」俺は尋ねた。
「……納豆が苦手ですねー。おすすめ、納豆巻きとかだったりします?」
「うちは、魚介がメインの屋台なんで。納豆はメニューにないです。ご安心ください」
そうして、俺は、今日のおすすめ――白身魚のお造り――の準備をするのだった。
「はい、お待ちどうさん」俺は、今日のおすすめを二人に出した。
「ありがとうございます。でも、あんまり映える見た目じゃないですね……」二人づれの一人が言った。
「そうですね。映えることに気を取られて、味を殺しては、なんの意味もないので。うちの場合は、こんな感じです」俺は答えた。正直な気持ちだった。
「写真撮っても大丈夫ですか?SNSで公開しても?」もう一人が尋ねた。
「構いませんよ。ただ、私は撮らないで下さいね。あくまでも料理だけでお願いします」
嬉しそうにお造りの写真を撮る二人。
一段落して、おすすめを肴に、ビールを飲み始める。
お造りを一口食べると、客の顔が変わった。
「……美味しい……本当に美味しいですね、このお造り……」
「……すげえや……写真映えとか、味に関係ないんだな……」
二人は、あっという間にビールを飲み干すと、おかわりを頼むのだった。
「こんな美味しい店、SNSで宣伝しないともったいないですよ!」客の一人が言った。
もう一人の客もうんうん頷いていた。
「……いや、ご覧の通り、手狭なんで、捌ける客の数もそれほど多くないんでね」
俺は答えた。そうか、と俺は思った。先ほど保留していた問題の答えが見えた気がした。
次回予告:
常連客の心配。「この屋台がなくなると困る」
しかし、客が増えることへの弊害を、俺は危惧するのだった。




