表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/60

第16話:仕込みに嘘はつけない――職人の朝。

ある日の早朝。俺は、オヤジさんと、魚市場にいた。今日の料理の仕込みのためだった。

場内を歩くもの、総料理長時代にはなかったことである。久しぶりの市場だった。

――俺の目利きは、落ちてはいないだろうか?

一抹の不安を俺は覚えた。

市場を歩く。いろんな魚介・食材に目を奪われる。その場で、料理が思いつく。

しかし、それは、「総料理長時代」の考えだった。金に糸目をつけない考え方だった。

今は、屋台の客のための料理を作るのである。質は高く、かつリーズナブルな物を見つけなければならなかった。

ふと、俺の目に、一尾のオコゼが飛び込んできた。立派なオコゼだった。でも、卸値が安い。

「……このオコゼ、なんでこんなに安いんですか?」

俺は市場の店主に聞いた。

「大きさは立派なんだが、荷上げの時に傷つけちまってね。味は悪くないと思うんだが、まぁ、訳アリってわけさ」

俺はその話を聞いて、オヤジさんへ振り向いた。

「今日は、このオコゼを使っちゃダメですかね?」

オヤジさんは笑っていた。

「好きにするがいいさ。あの屋台は、お前さんの屋台なんだから」

そう言って、ホッホッホと笑ったのだった。

その態度から、オヤジさんの目から見ても、このオコゼの品質に問題はないらしい。俺は、早速、そのオコゼを購入したのだった。

今日のおすすめが決まった。

オコゼのお造り、唐揚げ、肝刺し、赤だしのあら汁。オコゼを使った一品料理の数々。

これも、「訳アリ」を見つけたからこそ出来ることだった。

「総料理長」時代だったら、このオコゼは購入していなかったかもしれない。自分の目利きの変容に、我ながら驚くのだった。


早速、屋台に戻り、オコゼの仕込みを行う。オコゼの一品料理をオヤジさんに試食してもらった。

「……やっぱり、オコゼは美味いのう。このあら汁とか、客に出すのが勿体無いくらいじゃ」

オヤジさんの合格点を得た今日のオコゼ料理は、その日の常連客にも、大変好評だった。

「今日は特別いいのが手に入ったんでね。次はいつになるかわかりませんよ」

おひとり様一品でお願いします、と、俺は、おかわりを要求する客にそう伝えるしかなかった。

オコゼに負けない、いつでも手に入る食材を見つけないと、と、俺は気を引き締めるのだった。


次回予告:

屋台が少しずつ噂になり始める。

だが、それは、静かな波紋の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ