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硝子屋  作者: 九藤 朋
3/3

事終わりと始まり

 硝子硝子屋 この明細工 何の色に染めましょか


 硝子硝子屋 この麗細工 何の形にはめましょか


 事の始まりも終わりもいつも突然。

 硝子のとろめきを見ながら暁はそう思う。

 唐突に始まり唐突に終わる。

 唐突に終わり唐突に始まる。


 どこからか迷い込んできた桜の花びらが暁の白い肩に乗った。

 どこからか甘い風が吹いてくる。

 何かの予感を暁にもたらす。


 今日の客は自分を終わらせる物を依頼してきた。

 末期の病ゆえそれを抱いて死ぬのだと。

 依頼の品は翼だった。

 両翼の真白い翼を老人は望んだ。

 地に縛りつけられるような人生だった。

 常にもがき苦しみながら生きてきた。

 だから死後は翼を得て自由に空を翔けたいのだと。

 暁に老人の苦悩を知る術はない。

 ただ推し量り生み出すだけだ。

 真白い両翼を。

 そして思う。

 自分にも。

 あの娘にもこんな両翼があったなら。

 つがいの鳥のように自由に共にいられただろうかと。


 とろとろとした微睡むような白い羽が生えそろい両翼が出来上がる。

 老人は歓喜した。

 その両翼を押し戴くようにして店をあとにした。

 あの純白をもう一度。

 もう一度作ろうと暁は思った。


 硝子硝子屋 事の終わりは いつも突然訪れる


 硝子硝子屋 ふと過ぎゆけば 時の長さも知れたもの


 暁は宙に手をかざす。

 新雪のような白が微睡む。

 微睡むように一対の両翼を形作る。


 作り上げた両翼の片方を暁は娘の硝子像の背につけた。

 それだけで満足した筈だった。

 なのに。


 硝子硝子屋 思いの外に 長き眠りであったかと


 硝子硝子屋 これから先の 旅路は計り知らねども


 

 娘の像が目を開けた。

 目を開けて暁を認めると微笑んだ。

 暁は余りの驚きにしばらく言葉を失くした。


 翼をつけた娘は見る間に硝子から生身の人間へと変化した。

 それは稀なる奇跡。

 足りぬものはこれであったかと暁は悟る。

 自分たちを縛りつけていた現世の理。

 そこから飛び立つ為の羽。

 暁は自らも両翼を背につけた。

 それから娘と抱擁を交わした。

 温かい体温と。


 どこへでもゆける。

 愛しい人は傍らにいる。

 

 ――――――どこへでもゆける。



 セロファン師が硝子屋を訪ねた時。

 そこには誰もいなかった。

 珍しいこともあるものだと思う彼の足もとには白い羽が落ちていた。




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