31 佳音と汐音の苦悩
お久しぶりです!
そろそろ書き始められるかと思いますので、のろのろではありますが、また投稿していきます!
〈佳音side〉
インヴィアタ王国皇太子様である、祐樹=インヴィアタ様の侍女兼秘書になって何年か経ちますが、こんなに長い間真っ黒な空気を纏っていらっしゃるのを見るのは初めてです。
彼はいつも、わたくしを心配させないようにと、あまりマイナスな感情を表に出しません。ですから祐樹様の感情を読み取るのは至難の業なのですが、このところ、わたくしの前ではどす黒オーラを撒き散らしております。迷惑です。
ご家族と食事をしているときなどは、オーラなど微塵も見せずに明るく振る舞っておられるので、できればわたくしの前でも明るくしていてほしいものです。
祐樹様が執務室では感情駄々漏れなのは、わたくしを信頼してくださっているからなのでしょうか? …わたくしと致しましては、わたくしの心労が増えるだけなので勘弁していただきたいですし、嬉しくな――あ、言い過ぎですね。仮にも皇太子様ですからね。いつも侍女兼秘書としてお側に居ると忘れてしまいそうでございます。
原因はもうはっきりしすぎております。
妹が侍女をしている、絶世の美女である学者さま、流華=シャネリア様です。
あの方の美しさは、もう言葉にはできません。流れるようなプラチナブロンドに、輝くアメジストの瞳。肌はつやつやすべすべで透き通るように白い。花びらのような唇。そして、全てのパーツが最高の配置となり、それはもう芸術品のような美しさ。
ああ、内面も美しいです。とても博識であられ、お優しい方だそうで。
はうぅぅ。汐音が羨ましいの一言に尽きます。
…あっ、祐樹様の侍女兼秘書が嫌だと言っているわけではございませんのでっ!
――お話を戻しましょう。
祐樹様はサマーパーティーで流華様と何かあったようでございます。帰ってきたときから疲労困憊、溜息のオンパレードでした。
彼が帰ってくるなりわたくしに発した言葉が、これでございます。
――女性って、難しいね。
苦悩されているようです。眉間に皺が寄っていました。でも、美形でありました。美形は得です。
そういえば、祐樹様はわたくしが侍女兼秘書になる以前も含め、モテモテです。豊満なバディの麗羅様が言い寄ってもふらつくようなことは無く、散々にあしらってきたようでございますが、それでも彼女は祐樹様が大好きです。その他の、さまざまな美しさを兼ね備えた令嬢にも、彼は心を動かされませんでした。でも、令嬢たちは祐樹様が大好きです。
彼は、女性に拒絶されたことが無いのです。
理由が理解できないのでしょう。
自分が拒絶される理由が。
そもそも、恋愛感情というものを祐樹様は持ってこなかったのでしょう。その時点で、彼は気持ちを持て余しています。
汐音情報によりますと、流華様の方も恋愛経験はないようです。
子供の頃は人形のようで、本だけが楽しみだったと。
そんな流華様を人間にしたのは、桜子=アルフェリータ侯爵令嬢だと。
…最近、巷で悪いほうの噂が流れていますが。
とにかく、流華様は恋愛をしたことが無いのです。
ついでに言うと、男性も、大学で出会ったおおらかな方しか関わったことが無いそうです。イケメンなんていなかったそうです。
恋愛初心者は大変です。
………え? わたくし? わっ、わたくしは当分祐樹様の侍女兼秘書ですからっ! いっ今まで? わたくしの周りには、わたくしの心を揺さぶるような殿方はいらっしゃらなかったのでございます! もうすぐ行き遅れなんてこともありえませんからっ!
…こほん。すみません。少し取り乱してしまいました。
そして、祐樹様は今、栞を大事そうに眺めていらっしゃいます。
水辺に、睡蓮が儚く咲いている絵柄の栞です。
もう分かりますね。
流華様から頂いたものですね。とお尋ねしても首を縦に振ってくださるほど祐樹様は素直ではございませんが、わたくしにはお見通しです。
祐樹様はいつも持ち歩いていらっしゃるのですが、一度落としてしまったことがあります。
わたくしが拾いました。
そのとき、栞の端っこに書かれた文字が目に入ったのです。
『会えて嬉しかったです』
流麗な文字でした。教養を感じさせる、読みやすい文字です。
流華様だと、これで確信いたしました。
祐樹様は、この栞を見て時折すごく柔らかい顔をします。愛しくて仕方がないというような。でも、すぐに変わるのです。苦しくて仕方がないというように。
わたくしまで苦しくなるのでやめてほしいです。
よくよく考えると、祐樹様と流華様が会ったことは、数えるほどしかございません。
……運命なのでしょうか?
運命ならば、早く結ばれてほしいものです。
そして、わたくしの気苦労を減らしていただきたいものです。
〈汐音side〉
また泣いていらっしゃいます。
きっと気づいていないのでしょう。
夜、時折ベッドの中で静かに泣いているのです。
それを見ると、わたくしの胸もきゅっとします。
寂しいのでしょうか。
切ないのでしょうか。
わたくしは恋をしたことが無いのでまだ分かりません。それが、どんな気持ちなのか。
わたくしには気づかれていないと思っているようですが、わたくしは強かなのです。
もう読み終わったというのに、祐樹様から頂いた『眠り姫』を見ているのです。
表紙を見て、涙を零すのです。
もう元気になったなんて言って、明るく振る舞って、でも本当は苦しくて仕方ないのでしょう。里帰りして、砂糖菓子をプレゼントしましたが、傷は完全には癒えていないようです。
と言ってはいますが、わたくしは実際何があったのか知りません。サマーパーティーで何かがあったのは分かっています。姉の佳音も言っていましたし、その日から元気がありません。でも根掘り葉掘り聞くわけにもいきません。
ヒントは、祐樹様の『女性って、難しいね』です。
それから、流華様の、自分を責めるような態度です。
流華様が何かをしたのでしょうか? でも、何だか違う気がいたします。
……正直、さっぱりです。
わたくしも姉も恋愛経験がありませんので、予測がつかないのです。
とりあえず、恋愛経験のなさが影響しているとは思います。
どうも、流華様の男性に対するスキルは低すぎる気がするのです。わたくしから見ても分かるほどに。
ひとりだと、思ってほしくないです。わたくしに話して少しでも楽になるなら、話してほしいです。
でも、無理なのでしょう。
迷惑を掛けたくないと思っているのかもしれません。
流華様は、15歳とは思えないくらいしっかりしていますから。
そういえば、彼女はかつて〝人形〟であったとおっしゃっていました。また、わたしを人にしてくれたのは桜子さんなんだとも。
桜子=アルフェリータ侯爵令嬢の名は、今、社交界でひっそりと囁かれています。
人を裏切ることをしていると。
彼女の存在も、流華様を苦しめている気がします。
そんな奴、成敗してやりたいのがわたくしの本音です。流華様を傷つける奴は誰一人許しません! …あ、祐樹様は別です。
流華様を取り巻いているものは、少女には重たすぎる気がします。
早く、流華様が気付かないうちに泣くことのない夜が来てほしいです。
早く、流華様が心から笑える日が来てほしいです。
そのために、………祐樹様との関係が良くなることを望みます。
佳音が黒い……




