30 休暇明けから散々な
最近、話の内容がタイトルとあらすじから掛け離れていってる気がするのは、わたしだけでしょうか…?
昨日で夏季休暇は終わり、今日からお仕事が再スタートです!
というわけでして。
久しぶりに皆で朝御飯を取ることに。
休暇中は皆起きる時間も違ったし、里帰りしたり旅行に行ったりしてる人もいたので部屋で食べたり、数人で食べたりしてたけど、今朝は全員勢揃い! 夏季休暇の前に会ったきりの人もいる。
現在は、皆の休暇のお話で盛り上がっている。
「私は、スピニアで優雅に過ごしてきましたよ。空気がとても新鮮で、海がとっても美しい、良いところでした」
そう語るのは、王宮直属学者団一の古株――おっとりしたおじいちゃんな、天文学者のベルリオーズさん。目を細めて遠くを眺めているところを見ると、スピニアを思い出しているんだろう。いいな、スピニア。カスカードも良いところだけど、いつかスピニアにも行ってみたいな。
スピニアは王国一の避暑地として有名な、海に面した街だ。その海の透明度は世界一とも言われ、砂浜のさらさら度もハンパないらしい。しかも、食べ物が美味しい。そして、建物が美しい。石灰でで白く塗られた壁と、青い屋根がすごく綺麗で、そんな建物がいっぱい並んでいるというから、もう素晴らしい。確か、ナントカ公爵家の領地だったと思う。どこの公爵家かは知らない、わたしは元引き籠もりなので。
一方、リトポールさんも負けじと語っている。
「俺はずっと王都にいて、日帰り旅行とか、王都の散策とかしてたんですよ。王都の隣のブルームって、意外と楽しいところでした。ちょっと昔な感じがして、あったかい雰囲気が気に入りましたよ」
わたしが皆さんのお話を聞いて楽しんでいると、凍砂さんに話を振られた。
「流華ちゃんはどっか行って来たの?」
「あ、はい」
わたしはもぐもぐしていたものを飲み込んでから話す。
「シャネリア伯爵領のカスカードに里帰りしてきました。フォンテーヌの森って、行ったことあります? あの不思議な森は、あそこ以外のどこにもありませんよ」
「へえ~」
感心している凍砂さんに、わたしも尋ねる。
「凍砂さんはどこか、行かれなかったんですか?」
「行った行った」
凍砂さんはにやりと笑った。
「カミングアウトね。流華ちゃんだけが知らないと思うけど、僕、一応貴族。ジュナカリエ子爵家の末っ子なんだ」
「え!」
「で、そこに里帰りしてきたんだ」
「えー」
初耳だ。早く教えてほしかった。というか、普通の貴族ならきっと〝ジュナカリエ〟で分かるんだろうなぁ。わたしは全っ然ピンとも来なかったけど。
「まぁ、何にも無いところだけど、家族とのんびりしてきたよ」
「それもそれで良いですね~」
こんな感じの朝食は、御飯を食べ終わってからも続き、仕事をするためにちりぢりになったのはお昼前のことだった。
「今年は、落下と加速についての検証をしますよ」
ロレンスさんが、紐で留められた分厚い紙の束を机に置く。
ドサッという音に、一様にげんなりとする物理学者の面々。わたしもその一人。
「嫌な顔はしないでくださいよ。読んでみてください。なかなか興味深いと思いますよ」
そう言われて、まず最初に手を伸ばしたのはアンゲアさん。今日も額が光っています。その両脇からそーっと覗き込むリトポールさんとわたし。
「あらー」
「まー」
「大変そーな」
三者三様の反応をするわたしたち。
「とりあえず今日は、それを読み込みましょうか」
ロレンスさんが言った。
溜息が重なった。
しかし、すぐにお昼御飯である。
もともと、仕事を始めたのがお昼前。
軽食を持ってきてくれた侍女さんたちにお礼を言い、皆で実験に使う机を囲んで談笑。仕事をしている気がしない。
サンドイッチとスパゲティとサラダと果物があって、皆で分け合って食べているんだけど、リトポールさんのサンドイッチ占領率が高い。呆気にとられているロレンスさん&アンゲアさんが使い物にならなそうなので、わたしが苦笑しながら口を出す。
「リトポールさん、サンドイッチ取り過ぎですよ」
「…ぁ、うん。ごめんごめん」
頭をかくリトポールさんは、どこかぼーっとしていたようで、ぎこちなく笑った。
なんか変な感じ。
翌日。
本日は、古文学者の研究室の方に来ている。
「にしても、凍砂さんが貴族だったなんてめっちゃびっくりしましたよ。何で教えてくれなかったんですか」
わたしが古文書を片手に唇を尖らせると、凍砂さんはほわほわと笑う。
「いやー、ほんとに知らないとは思わなかったけどね。でも、大した家じゃないし、末っ子だから」
「うぅ、すみませんー」
わたしの世間知らずさが露呈してしまった。不覚なり。
「まあまあ。あ、そこの棚の二段目に入ってる緑の革表紙の本とってくれるー?」
「あ、はい」
椅子から立ち上がったとき、椅子の足に足を引っ掛けた。駄洒落じゃない。
「うきゃっ?」
「流華ちゃん!」
……だ、大丈夫。平気。何とか姿勢を立て直した。
「大丈夫?」
凍砂さんが心配そうにこちらを見ている。
「は、はい。……たぶん。えへへ」
照れ笑いすると、凍砂さんがわたしをじぃっと見てぼそっと呟く。
「なるほどねー。こういうところが―――なわけね」
「え?」
何を仰っているのか聞こえません。
「いやいや、何でもない。あ、それ取ってくれる?」
「あ、すみません。今取りますね」
今度は足に気をつけて。ちょっと背伸びして緑の背表紙の本に手を伸ばす。取り出したとき、横の本まで一緒に出てきてしまった。
ぁ……。
ゴスッ。
「……痛ぁーーーーい!!!!」
わたしは本を取り落として頭を抱え、うずくまった。
横の本が出てきて落下、そして加速しながら角がわたしの脳天に直撃した! じんじんする。
「ちょ、流華ちゃん! 待ってマジで大丈夫?」
「いたぁいー」
古い革張りの分厚い本はただでさえ重い。その角は、とてつもなく硬い。痛い。なんてドジをしてしまったんだ。
その後しばらく、痛い痛いと騒ぐわたしと、おろおろしながらわたしの頭をさする凍砂さんを覗きに来る人がちょくちょくやってきた。
ほとんどの人は、哀れそうにわたしを見て去って行った。むっきぃー! 人が痛がる姿を見たら何か言ってくれや! ……いや、何か言われても怒るかもしれない…。
仕事が終わって自室に帰ったら、心配性の汐音に騒がれた。
「流華様っ、大丈夫ですか! 本の角が頭に当たったとお聞きしたのですけれど、大丈夫ですかっ!?」
それでわたしが「まぁ、ちょっとは痛かったけどぉ」と言ったら、大騒ぎする汐音をなだめるのに苦労した。何時間も前の話だよ、もう痛くないからと言ったけど、なかなか疲れた。
実はちょっとたんこぶができてるんだけど、それを言ったら汐音はもっと騒ぎ立てると思うので黙っておく。あ、でも冷やした方がいいんだっけな? どっちにしても、ばれないようにしなきゃ。
――散々な一日であった。




