表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
将門炎舞記 上巻  作者: 浮島太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

第二章 北辰の冥影 【1.落葉の誓】

第二章 北辰の冥影 (ほくしんのめいえい)


【1.落葉の誓】(らくようのちかい)


数え十五で元服を終えた相馬小次郎は、父・平良将の命を受け、初めて洛中へと上った。京にたどり着いた小次郎は、藤原北家一門の氏長者である忠平の門を叩いた。


小次郎すなわち平将門たいらのまさかどは、高望王たかもちおうの三男、鎮守府将軍・平良将の嫡子である。高望王は桓武天皇の曾孫にあたり、その血筋は皇統に連なる。

寛平元年(889年)、平朝臣の姓を賜って臣籍に下り、上総介に任じられて坂東へ赴いた。平高望たいらのたかもちは正室が生んだ三人の息子――国香、良兼、良将――を伴い、任期が過ぎても帰京せず、この地に館を構えて未開の地を開墾し、在地の豪族と姻戚を結び、やがて常陸・下総・上総にまたがる一大勢力を築き上げた。

その三男・良将は、下総国豊田郡・猿島郡一帯の所領を継ぎ、利根川流域の湿地帯を開墾して豊かな私営田へと変えた。さらに水運を掌握することで物資の流通を支配し、地の利を最大限に生かしたのである。

良将は、これらを基盤として武威を示し、坂東平氏の棟梁としてその名を轟かせていた。


鎮守府将軍を賜った良将は、嫡男に、中央貴族としての立身出世を強く望んだ。

父親の目から見ても、東国の受領で終わらせるには惜しいと思うほどに、将門は優れた資質に溢れ、才に恵まれていた。


――この子を、ただ“坂東の雄”で終わらせてしまうのは、あまりにも惜しい。

その日、下総相馬の館には晩秋の気が満ちていた。

平良将はひとり庭に立ち、遠く霞む山脈を眺めていた。

山の端は薄く霞み、風に揺れる木々は、赤や黄の葉を静かに散らしている。

良将はゆっくりと振り返った。

その眼差しには、武家の棟梁としての厳しさはなく、父親の深い情が滲んでいる。

「小次郎……いや、今日よりは将門と呼ぶべきか」

小次郎将門は膝をつき、静かに頭を垂れた。

良将はその肩に手を置き、しばし言葉を選ぶように沈黙した。

「其方を、我は誇りに思う。」

将門の眉がわずかに動いた。


――土と汗にまみれた日々

それが道であり、誇りであり、すべてだった。

――だが、

受領としていかに励もうと、高き位階を望むことは叶わぬ。

どれほど武威を示そうとも、武士は殿上人の風下に置かれる。


「其方は、主上の御代を支える卿となることも、夢ではあるまい。

将門よ――京へ発て。」

父の口から初めて告げられる言葉に、驚きと緊張が入り混じる。

それが、父としての愛であり、武家の棟梁としての決断であり、そして、若き日の父が果たせなかった夢の、最後の残り火であった。

「戻るも残るも、そなたが決めればよい。」

良将はそう言うと、息子の両肩をしっかりと抱いた。

その掌には、武家の棟梁としての力強さと、父としての慈しみが同時に宿っている。それは父としての願いであり、武家の未来を見据える者の祈りでもあった。


将門は静かに息を呑んだ。

 庭を渡る風が、金木犀きんもくせいの香を運んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ