俺が食べた記憶
魔王は俺たちを攻撃しなかった。
ただ座っていた。
「三百年間、待っていた」
「なぜ?」
「記憶喰いが現れるのを」
俺は剣を握る。
「俺を知ってるのか?」
「知らない」
魔王は首を振った。
「だが、お前の力は知っている」
彼は語った。
かつて【記憶喰い】を持つ男がいた。
その男は、世界から消された記憶を拾う役目を負った。
しかし。
全てを拾った結果。
世界中の人間が、自分たちの犯した罪を知ってしまった。
悪は善に、善は悪に。
信じていたものが崩れた人々はどうなるか。
争いが起きる。
国が崩れる。
だから人々は記憶を捨てた。
「つまり、世界は嘘を選んだ」
俺が言う。
「そうだ」
魔王は答えた。
「私は、人間が自分たちを滅ぼさないようにした」
俺は信じられなかった。
「だったら、どうして魔王なんて呼ばれてる?」
「都合がよかったからだ」
敵を一人作れば。
人々は団結する。
そして。
真実を隠せる。
「俺たちは……三百年間、騙されてたのか」
魔王は俺を見る。
「だから選べ」
「何を?」
「記憶を世界へ返すか」
「返したらどうなる?」
「また、争いが起きる」
「返さなかったら?」
「同じ歴史を繰り返す」
俺は黙った。
その時。
俺の頭の中で、今まで食べてきた記憶が一つに繋がった。
古い剣。
村。
廃坑。
魔法学院。
勇者。
全部が一本の線になる。
俺のスキルは。
世界の嘘を暴くために存在していた。




