銀貨一枚の依頼
黒鎧の男たちは、村人を見るなり剣を抜いた。
「記録を回収する」
先頭の男が言った。
「抵抗する者は殺せ」
俺は少女を見る。
「何なんだ、こいつら」
「知らない」
少女は弓を構えた。
「でも、以前にも来た」
俺は村の老人から古い箱を受け取った。
「これを持って逃げて」
「何が入ってる?」
「記憶だ」
箱に触れる。
映像が流れた。
三百年前。
五人の冒険者が、この村で何かを話している。
『王都は俺たちを消すつもりだ』
『理由は?』
『俺たちが知ってはいけないことを知った』
俺は息を呑んだ。
勇者たちは魔王討伐後に英雄になったのではない。
魔王を倒す前から、消されることが決まっていた。
黒鎧が村へ入ってくる。
「箱を渡せ」
俺は立ち上がった。
「嫌だ」
「貴様、何者だ」
「Fランク冒険者」
男が笑う。
「なら死ね」
剣が振り下ろされる。
俺は避けた。
戦えない。
だから真正面から戦うつもりはなかった。
地面に落ちた男の剣へ触れる。
記憶を喰う。
――剣を握る男。
訓練場。
上官。
『村人を殺せ。命令だ』
俺はその記憶を使った。
「お前たちは王国騎士じゃない」
男が止まる。
「王国騎士なら、そんな命令を受けた記憶は残らない」
「……何?」
「これは偽装された命令だ」
男の顔色が変わった。
仲間たちがざわめく。
その隙に少女が矢を放った。
「走って!」
俺たちは村の裏手へ逃げた。
森の中を走りながら、少女が叫ぶ。
「どうしてあいつらのことが分かったの?」
「剣を見た」
「……やっぱり」
少女が立ち止まる。
「あなたのスキル」
「ああ」
「物の記憶を読むんでしょう?」
「正確には、喰う」
「喰う?」
「記憶を、自分の中に取り込める」
少女はしばらく黙っていた。
そして。
「それなら、あなたにしかできない」
「何が?」
「この村に残った、最後の記憶を拾うこと」
俺は振り返る。
遠くで村が燃えていた。
俺は拳を握った。
この時。
俺は初めて思った。
自分の力を。
誰かのために使ってみたい、と。




