隠された場所
通路は、まだ続いていた。
先ほど聞こえた音を追って、俺たちは奥へ進んでいく。
足音だけが、暗い地下に響いていた。
「……結構、深いですね」
フィアが小さく呟く。
「ああ」
俺は前を向いたまま答えた。
しばらく進むと、通路の先に扉があった。
古びた木の扉だった。
カイルが手をかける。
軋んだ音を立てて、扉が開いた。
その向こうには、さっきまでの部屋よりも広い空間があった。
壁際には、いくつもの棚が並んでいる。
けれど、何が置かれているのかは暗くて分からない。
中央には、大きな台座があった。
「……何でしょう、これ」
フィアが近づく。
俺も台座を見る。
その表面には、細かな傷がいくつも残っていた。
何かを置いて、何度も使ったような跡だった。
カイルが周囲を調べる。
「ここも記録にはなかった」
「隠された場所なんだろう」
「たぶんな」
そのとき。
カン――。
地下に鐘の音が響いた。
俺たちは顔を上げた。
台座が、かすかに震える。
次の瞬間。
俺の中に、何かが流れ込んできた。
「……っ」
頭の中に、知らない景色が広がる。
誰かの笑い声。
子供の泣き声。
仕事をする音。
食卓を囲む時間。
あまりにも多くて、整理することができない。
「レオンさん!」
フィアの声が聞こえる。
けれど、俺は動けなかった。
流れ込んでくる記憶を、俺の中へ取り込んでいく。
一つ。
二つ。
数えられないほどの記憶が、次々と重なっていく。
俺は必死に耐えた。
やがて、流れが弱くなる。
俺は台座から手を離した。
「……はぁ」
その場で息を吐く。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫」
そう答えてから、目を閉じた。
頭の中には、まだ大量の記憶が残っている。
けれど。
その中に、一つだけ気になるものがあった。
町の記憶とは少し違う。
古い。
ずっと昔のものだ。
誰かが、この場所について話している。
――鐘は、忘れられたものを集めるためにあるんじゃない。
――守るためにある。
そこで記憶が途切れた。
「……何だ、今の」
思わず呟く。
「どうしました?」
フィアが振り返る。
「今、昔の記憶が混ざった」
「昔の?」
「ああ。この場所について話してた」
カイルの表情が変わった。
「何と言っていた?」
俺は思い出そうとする。
けれど、記憶は途切れ途切れだった。
「鐘は……忘れられたものを集めるためじゃない」
そこで一度、言葉を止める。
「守るためにある、って」
カイルは黙った。
しばらくして、呟いた。
「……それなら、話が変わってくる」
「どういうことですか?」
フィアが聞く。
「俺が見つけた記録にも、鐘について似たような記述があった」
「鐘は、なにか目的があって作られた?」
「ああ」
カイルが答える。
「この場所は、まだ終わっていない」
今の町では知ることのできない過去があった。
鐘が何のために作られたのか。
そして。
いつから、今のように変わったのか。
俺の中に入ってきた、この記憶の先。
そこに答えがある気がした。




