剣が喋った
剣の記憶は、それ以上読み取れなかった。
だが、俺には十分だった。
翌朝。
俺は町の図書館へ向かった。
「三百年前の魔王討伐について調べたい」
司書にそう言うと、分厚い歴史書を渡された。
そこには確かに書かれている。
魔王を倒した勇者。
勇者の名前は――アルド。
それだけ。
仲間の名前はない。
「おかしい」
俺は呟いた。
剣の記憶には、少なくとも数人いた。
その日の夜。
俺は再び剣に触れた。
今度は意識を集中させる。
【記憶喰い】。
俺はこのスキルを、ずっと「記憶を見る力」だと思っていた。
だが違う。
記憶を読むだけなら、五年間も使っていればもっと便利な能力になっている。
俺のスキルは、記憶を喰う。
そして、喰った記憶は自分の中に残る。
つまり――。
俺は剣の記憶を、自分の記憶にできる。
意識を集中した。
映像が始まる。
アルド。
彼の隣には、赤髪の女。
大男。
小柄な魔法使い。
そして最後に、白いローブの少女。
『五人で行こう』
アルドが笑っている。
俺は息を止めた。
歴史では、勇者アルド一人が魔王を倒したことになっている。
でも実際には。
五人だった。
さらに映像が進む。
魔王城。
玉座。
そこに座る魔王は、俺が想像していたような怪物ではなかった。
疲れた顔をした青年だった。
『俺を倒せば、本当に終わると思っているのか?』
アルドが剣を構える。
『終わらせる』
『そうか』
魔王は笑った。
『ならば、お前たちの勝ちだ』
その瞬間。
映像が途切れた。
俺は頭を押さえた。
「……なんだよ、これ」
魔王は何かを知っていた。
そして。
勇者たちも何かを知っていた。
翌日、俺は冒険者ギルドへ向かった。
「依頼を受けたい」
「Fランクだと、薬草採取くらいですね」
「それでいい」
受付嬢が依頼書を出した。
俺はそれを受け取る。
だが、その瞬間。
依頼書から奇妙な感覚が伝わってきた。
記憶。
誰かがこの紙を握りしめている。
そして。
『この依頼は受けるな』
声が聞こえた。
俺は紙を見つめる。
受付嬢が怪訝そうにする。
「どうしました?」
「この依頼、誰が出した?」
「え?」
「依頼を出した奴は……この村の人間じゃない」
俺はまだ知らなかった。
その依頼が。
俺を「地図にない村」へ導くことを。




