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最弱スキル【記憶喰い】

 成人式の日。

 俺は神殿の中央で、自分の右手を見つめていた。

 掌に浮かんだ光がゆっくりと文字へ変わっていく。


『固有スキル――【記憶喰い】』


「……記憶喰い?」


 神官が首を傾げた。

 周囲から、微妙な笑い声が漏れる。


 この国では十五歳になると、誰もが神殿でスキルを授かる。


 剣士。

 魔法使い。

 治癒師。

 鍛冶師。

 珍しいものなら、聖騎士や賢者なんてものまである。


 そして俺に与えられたのが、聞いたこともない【記憶喰い】だった。


「どんなスキルなんです?」


「物に残った記憶を……読む?」


 神官が説明書をめくりながら答える。


「正確には、物に染みついた記憶を取り込む能力だそうです」


「それって……何に使うんだ?」


 誰かが言った。

 笑い声が少し大きくなった。

 俺は笑えなかった。


 その日から五年。

 俺は冒険者になった。

 理由は単純だった。

 戦えなくても、珍しいスキルなら役に立つと思ったからだ。


 だが現実は甘くなかった。

 俺の仕事は荷物持ち。

 それも、普通の荷物持ちより少し便利なだけ。


 古い剣を拾えば過去の映像が見える。

 古い宝箱を触れば、誰が使っていたか分かる。

 でも、それだけだった。


 魔物は倒せない。

 魔法は使えない。

 怪我を治せない。

 だから俺は、いつまで経ってもFランクだった。


 そして今日。


「レオン。悪いけど、今日で終わりだ」


 リーダーのガイルが言った。

 俺が所属していた【黒狼の牙】は、五年前とは比べ物にならないほど有名になっていた。

 Bランク。

 もうすぐAランクに届くと言われている。


「お前のスキルは、もう必要ない」


「……そうか」


「荷物持ちなら普通の奴を雇った方がいい。戦えないお前を連れて歩く理由もないしな」


 俺は黙って荷物を置いた。


「今までありがとう」


「それだけか?」


 ガイルが笑う。


「五年もいたんだぞ?」


「だから言ったんだ。ありがとうって」


 それ以上、何も言わなかった。

 宿を出る。

 財布の中には銀貨三枚。

 俺の人生で初めて、自分一人で生きなければならなくなった。

 町を出る前に、露店で古びた剣を一本買った。

 銀貨一枚。

 刃は錆び、柄もボロボロだ。


「そんなガラクタ買ってどうする?」


 店主が笑った。


「分からない」


 俺は剣に触れた。


 ――瞬間。


 頭の中に、知らない景色が流れ込んできた。


 赤い空。

 燃える街。

 そして、一人の男。


『まだ……終わっていない』


 男は血だらけになりながら剣を握っていた。


『俺たちは魔王を倒した』


 そこで映像が途切れた。

 俺は息を呑む。


「……魔王?」


 今から三百年前。


 魔王は勇者によって討伐された。

 これは子供でも知っている歴史だ。

 でも。

 あの男は言った。


『俺たちは魔王を倒した』


 ――俺たち。

 勇者は一人だったはずなのに。

 もう一度、剣に触れる。

 そして。

 最後に残った記憶が、俺の耳元で囁いた。


『もし、この剣を拾う者がいるなら』


 男がこちらを見る。


『俺たちの名前を――忘れないでくれ』


 俺は剣を握りしめた。

 初めてだった。

 自分のスキルを、役に立つかもしれないと思ったのは。


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