もう一度、名前を
数日後。
王都は静かだった。
大混乱の後。
人々は少しずつ、自分たちの過去を受け入れ始めていた。
王家は新しい制度を作ることになった。
歴史を一つに決めるのではなく。
複数の記録を残すための制度だ。
勇者アルドの像も。
一人ではなく五人で作り直されることになった。
そして。
地図から消えていた村も。
正式な場所として記録された。
リゼは村へ戻ることを決めた。
ミアは魔法学院で古代魔法の研究を続ける。
勇者の末裔だった青年も。
自分の名前で生きることを決めた。
俺は。
冒険者ギルドの前に立っていた。
「これからどうするの?」
リゼが聞く。
「冒険する」
「また?」
「ああ」
俺は笑った。
俺のスキルは。
まだ消えていない。
世界にはまだ。
誰にも拾われていない記憶がある。
誰にも知られていない村。
忘れられた英雄。
失われた魔法。
誰かが置き去りにしたもの。
俺はそれを拾う。
全部を元に戻す必要はない。
ただ。
無かったことにはしない。
それだけでいい。
王都を出る前。
俺は空を見上げた。
三百年前。
最後の記憶の中で見た空と同じだった。
「……綺麗だな」
リゼが隣を見る。
「星、好きだったっけ?」
「いや」
俺は少し笑う。
「前は、あんまり好きじゃなかった」
理由は分からない。
ただ。
昔から星を見ると。
胸の奥が少し苦しくなった。
でも今は違う。
空には無数の星がある。
その一つ一つに。
誰かの人生があるような気がした。
「行こう」
俺は歩き出す。
最弱と呼ばれた青年。
世界から忘れられた英雄。
そして。
まだ名前のない物語。
全部を拾いながら。
俺はこれからも歩いていく。
――いつか。
誰かが忘れたものを。
もう一度、名前で呼ぶために。




