ブレインハックとは何か?
ここで、本書のもう一つの言葉を置いておきたい。
ブレインハックである。
少し強そうに聞こえるかもしれない。 けれど、言いたいことは単純だ。
人間の脳が反応しやすいポイントに働きかけて、注意、感情、欲望、習慣、判断を少しずつ動かしていく設計のことだ。
通知が気になる。 短い動画を次々と見てしまう。
おすすめに出てきたものを、気づけば開いている。
一度閉じても、また戻ってしまう。
そうしたことは、偶然起きているわけではない。
反応の起点が、最初から埋め込まれているのである。
勉強のためにスマホを開いたはずなのに、気づけば別の動画を見ている。
誰かに連絡を返すだけのつもりが、そのままおすすめを追ってしまう。
そんな小さなズレが、毎日くり返し起きる。 ブレインハックは、そういうところで働く。
通知は、ただの連絡ではない。
「今、何かが起きている」と感じさせる呼び出しでもある。
短い動画は、時間の切れ目を感じにくくする。
レコメンドは、「自分の好み」を学んでいるように見えながら、実際には「離れにくさ」を育てている場合がある。
無限スクロールは、終わりどころを奪う。
こうした仕組みは、SNSや動画配信だけにあるわけではない。
ゲームにも、通販にも、サブスクにも入り込んでいる。
ポイ活のような行動まで含めて、日常のかなり広い範囲が設計の対象になっている。
つまり、ブレインハックとは、一つのアプリやサービスの話ではない。
私たちの日常そのものに広がりつつある設計思想の名前である。
重要なのは、それが必ずしも悪意の顔をしていないことだ。
むしろ多くの場合、便利さや快適さや楽しさの形をしてやって来る。
使いやすい。気持ちいい。退屈しない。
だからこそ、抵抗しにくい。 次章以降で、その全体像を順に見ていく。




