第125話 情報交渉
精霊から明かされた衝撃の事実に気を取られている間に宝石商の準備が整ったらしく、クラリッサ様と一緒にサロンへ向かう。
気持ちを切り替えないとね。よし。
サロンの扉をくぐると以前のように宝石が並べられ、色とりどりに煌めいている。
この光景は何度見ても眩しいわ。
「本日はルミーユ商会へお声がけいただき、ありがとうございます」
「急がせてしまってごめんなさいね。この子の希望をできる限り早く叶えてあげたくて」
「ご期待に応えられるよう、全力を尽くさせていただきます」
クラリッサ様との挨拶を区切り、こちらへと笑顔を向けてくる。
「お嬢様、先日のお品はお役に立ちましたでしょうか?」
「ええ、とても」
元々使う予定だったキー二つだけでなく、魔力認証に関するものには魔力維持の一部として利用している。
それだけ使ってもまだ半分も使ってないのよね。絶対すごく高かったのだと思うのだけど……いまだに怖くてお値段聞けない……
「本日はかなり難しい条件の依頼がありまして。無理なら断っていただいて構いません」
情報を求めていることと、どんな情報を求めているか。大まかに書いた紙を渡す。
「普段はお取り扱いしていない品だと思います。まずはこれらの準備が可能かどうか、お伺いできればと思いまして……」
すっと視線が下がっていくと僅かに表情が硬くなる。
……商人は情報屋ではないものね。ここまでの情報は難しいかしら?
ある一点。エルフ語で記した辺りで目が止まり、あたしの耳へと視線が移る。
……エルフ語の意味を理解しているかはともかく、エルフ語ということは分かっている感じね。エルフとの取引に魅力を感じてもらえれば、と思って書いておいたけど、どうかしら?
もう一度上から視線が下がって、いろいろ思案しているようだ。
「お待たせ致しました。内容を拝見しましたところ、準備することは可能です。ただ、少々手配にお時間をいただきたい内容ですので、いつ頃までにお届けが必要でしょうか?」
できるだけ早く欲しいけど、急がせて薄っぺらな情報を貰っても役に立たないのよね。
「できれば三ヶ月以内に、待てても半年ですね」
相手が人間で高齢だと、五年以内には決着をつけないと復讐が果たせないわ。そうなると、準備は一年くらいで済ませたい。
それに、情報は時間が経てば経つほどに古くなっていく。そんなに時間をかけたところで意味はないだろう。
「かしこまりました。我々の持つ力の限りを尽くさせていただきます」
手に持っていたマジックバッグから用意しておいた報酬を取り出す。
「報酬はお金ではなく、こちらの魔道具となります。足りなければこれに見合うだけでお願いします」
ますます表情が硬くなったような気がするわ。
物じゃダメだったかなぁ? お金だと相場がはっきりとわからなかったのよね。情報を買ったことなんてないし、相談するわけにもいかないし……
「魔道具の効果や注意事項はこちらにまとめています」
口頭で説明してもいいけど忘れちゃうこともあるから、取り扱い説明書はつけておかないとね。
魔道具は簡単な結界を張るものにしてみた。ただし、この魔道具は発動させた魔力に沿って結界が展開される。だから魔道具を発動させた本人にしか結界の効果が及ばない。
使用者の魔力をあまり使わないように、結界の維持には魔石が必要となるようにしてみた結果、魔石の大きさで結界の継続時間が変わるのよね。
だからといって大きな魔石で発動させると結界が長時間維持される代わりに、外から物を受け取ることもできなくなって、食事すらできなくなる。
魔石の魔力が無くなるまで結界を切ることができないのは欠点よね。
あとは勝手に量産されるのを防止するために、魔石を入れる場所じゃないところを開けると魔法陣が塗り潰されて魔道具は二度と稼働しなくなる。
せっかくだから長く使って欲しいし、この注意は書いておかないとね。
「依頼もこの報酬も、できる限りどこからのものかは伏せていただけると助かります」
そうしないとルミーユ商会も危なくなるわ。
エルフの森ですら攻め込むのだから、なんの守りもない商会の一つや二つ。簡単に蹂躙してみせるだろう。
「承知いたしました」
よかった。この報酬で引き受けてもらえるようだ。
情報がどれくらいの内容で届くかはわからないけど、これで誰があたしを狙っているのか、はっきりするといいな。
◇◇◇
長く商売をしていると情報を請われることも珍しくない。そのことには驚きませんでしたが、まさかエルフの方から依頼がくるとは……
その求める情報もほとんどが国に関することだ。
ドゥルガルド王国とドラグナール帝国との戦いに誰がどのように関わったのか。
最近のエルフの森に関わりがあるのはどこか。
それらに関わった主要人物の情報。
一商人が扱うには幅が広すぎる。
最初は断ろうかと思ったのですが……
報酬を手にして思わずため息が出る。
「エルフの方との縁が惜しくて引き受けたら、とんでもない報酬を渡されてしまいましたね……」
おそらく、あの方はこの魔道具の価値をわかっていらっしゃらない。
界隈に出回る既存の魔道具の真似ではない。結界などという一品物。
箱も新しく、遺跡などから出てきた物ではない。
他の場所を開けば使えなくなるという、情報の流出防止も施されている。
「これはあの方が作られた物なのでしょうね」
そんなものを渡されては生半可な情報を売るわけにはいかない。
ドラグナール帝国に出入りしている者に連絡と、エルフの森といえばルドニア公国ですか。あちらはあまり出入りがないはずですが、商人が中心の国ですから情報は集めやすい。
あとはそれらに関わった人物の詳細情報。
普段なら顧客情報を求められても断って関係を断つのですが……
「これだけの価値に見合うには、表面の動きをまとめるだけでは足りませんね」
そう考えると価値がわかって……いや、『足りなければ』などと不安そうにおっしゃっていた。絶対にわかっていらっしゃらない。
これだけのものを受け取った以上、依頼された情報だけでなく、秘密を守ることまで含めて相応の仕事をしなければならない。使えるものは全て使って情報を集めるよう手配を始めた。




