第122話 エルフの連絡手段
宝石商から情報を得るためのやり取りを計画し、報酬を準備していると風が騒ぎ出した。
「ん? どうしたの?」
風の精霊に魔力を渡すと、エルヴァリエルの族長の声が聞こえた。
『光の娘、今、話をしていいか?』
……こういう気遣いはできるのね?
「はい、大丈夫です」
『今の結界の外に新たに結界を張ることにした。その結界が張られると印を持つもの以外はエルフでも通り抜けができなくなる。戻るつもりはないか?』
なるほど……結界を二重にして、どちらかが消えてもすぐには侵入されないようにするのね。
「はい、戻る予定はありません」
『わかった……気が変わったら風の精霊に教えて欲しい』
そうなることはないと思うわ。
「はい、わかりました」
『外に出ているエルフにも連絡をとりたいが……他のエルフに連絡をとる方法を知らないだろうか?』
うーん、それは難しい。
外に出てからエルフに会ったことなんてないのよね。
この連絡方法は祝福を持つ者同士じゃないとできないのよね?
声に出して聞いてみると周り中から肯定の意思が届く。
「外にいるエルフがどこにいるかわかりませんし、祝福を持っていないエルフに精霊の声を届けることはできません。連絡をとるのは難しいですね」
人の社会だと名前がわからないと探してもらうこともできないものね。
外に出ているエルフは数人知っているけど、外ではどう名乗っているかなんて聞いたことがない。せめてどこで活動しているのかわかればまだ探しようがあるのだけれどね。
『やはり連絡の手段はないか。わかった』
普通は祝福を持つエルフが外に出ることはない。
むしろあたしの処分の時に追放の選択があったことに、正直驚いたくらいだ。
おかげであたしはやりたいことをやれているけど、おじい様たちは……
頭を振って、沈んだ考えを追い払う。
考えたところで起こってしまった過去は変えられない。
あたしはやりたいことをやる。追放を選んだときに、そう決めたのだもの。
「絶対にやりとげる」
ラノベのようなダンジョン構築も、復讐も、全部、全部やる。
ダンジョン構築は何年かかろうと寿命が長いのだからとゆっくりやっていたけど、復讐はできるだけ早く進めないとね……人の寿命は短いのだから……
エルヴァリエルの族長から連絡があった翌日。レオンハルト様から、地下畑で緊急事態が起きたときの連絡方法について、計画を聞かせてもらう。
考えてもらった計画は特に問題もなさそうだ。早速トーマスさんたち各所の担当者を会議室になっている部屋に呼んで、今後の管理者はレオンハルト様になると伝える。
「まだまだ先生のようには対応はできません。わからないことは教えて下さい」
地下畑に必要な操作が一通りできることはあたしが証明します。しばらくは補佐もしますからね。
と言っても、ほんとに補佐もいらないレベルで操作は問題ない。管理面の予測や計画に不安を感じているみたいだけど、そこは担当者たちと打ち合わせながら進めることだしね。
考えてもらった連絡方法もレオンハルト様から伝えて、問題なくできそうだと担当者たちからも了承がもらえた。
他に確認事項もないということでそれぞれの持ち場に戻っていく。
それを見送った後、レオンハルト様が改まってあたしに話しかけてきた。
「先生。少し話をする時間はありますか?」
「はい、大丈夫ですよ?」
珍しいな。なんだろう?
「最近、落ち込んでいらしたようですが、何があったのかお伺いしても?」
そうよね。
できるだけ自然にって言ったって無理があるわよね。まだ、ふとした時に思い出しては、気分が沈んでいると自分でもわかるのだから。
「その話をする前に、あたしから聞いてもいいですか?」
「どうぞ?」
「バルディウスでは、エルフの森……エルヴァリエルで何があったのか、どこまで把握されているのでしょう?」
「そうですね……把握していることはそれほど多くはありません」
あたしが魔力の使いすぎで寝込んでいた頃、エルヴァリエルとドラグナールのヴァルカディアン軍の間で小競り合いがあったと、王都から連絡があったそうだ。
その連絡以上のことはわからないらしい。
……ヴァルカディアン……
復讐する相手の候補として、記憶に留めておく。
外と関わりたがらないエルフと小競り合いになるなんて、普段から関わろうとして近づいていたのかもしれないわ。
「……あたしが最近落ち込んでいるのは……家族が亡くなったからです」
「先生のご家族。連絡をされていたのですか?」
「……生きているときは、していませんでした」
お兄様は、最後にお話できたけど。
どうして、みんなが生きているときに祝福で連絡をとることを思いつかなかったのかしら?
ああ、生きているときは、なんて言ったからレオンハルト様が不思議そうな顔をされている。
「みんなが生きているときは、交流のないエルフの森と連絡を取る方法を思いつかなかったのです。そもそも、連絡しようとしていなかった」
薄情なのですよ。あたし。自分のやりたいことしか、見えていなかった。
「家族に何があったのか、知りたくて。そこでようやくエルフの森と連絡できそうな方法に思い至ったのです」
そのときには、すでに遅いのですけどね。
笑顔を作ったつもりだけど、うまく笑えている気がしない。
「そうでしたか。申し訳ありません。辛いことを話させてしまいました」
「……いえ。気分が落ち込んでいることは、あたし自身がよくわかっていますから……」
なんとなく目を合わせていられなくて、ぼんやりと遠い天井を眺める。
こうして考えると、ずいぶんたくさんのことが起きたものね……
おじい様がいなくなったのは、正直まだ実感がない。
お兄様は精霊になってからずっとそばにいるからむしろ前より近い。
でもアイラは、完全に巻き込んだ。そして、失った。最後に、想像もつかないほど辛い思いをさせて……消えていくのも見送った。
受け入れなければと思う。だけど、そう簡単にはできない。
一体、アイラが何をしたというの?
精霊になりたいと思うほど、そんなに苦しめる必要があった?
許せない……許せない!
そんな状況に追い込んだ者も。
そんな状況を作ったあたしも。
全てが
許せない……




