第121話 アルセラからのお礼状
あたしの解呪を確認すると、トビアスはすぐに呪物を回収して遠ざけた。さらに、預かっていた呪物もすぐに辺境伯様へ返すよう強く勧められた。
近くに呪物があるだけで倒れたのを見た後だから、当然といえば当然の反応よね。箱に入っている限りは影響がないはずなのだけど……
呪物の影響で倒れたから、お兄様はもちろん、光の精霊までそばにくっついてしばらく離れなかった。
うん、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だからね。
準備してもらった研究書のおかげで解呪の魔法陣が完成したのだから、せめてもの気持ちを込めて陛下へお礼状を書く。
それと、解呪の魔法陣を組んでいる時に、「ここはこうなんじゃないかな?」と自分なりに修正した部分を研究書に使われている言葉を使って簡単にまとめてみた。
解呪の魔法陣そのものは、魔法陣という考え方自体がエルフの古代遺跡由来だから教えられないけど、作った解呪の魔法陣が呪いに対してどのように作用したのかだけは簡単にまとめておく。
細かいことまでは調べてないから、余計にわかりにくいかしら?
まぁ、いっか。提出を求められている課題じゃないし。わからなかったり、気になる部分があったりしたら自分で調べるわよね。
お礼状のついでにしてはずいぶん分厚くなっちゃったわね。当然封筒に入るわけもなく、適当に袋を作って中に詰める。これはお礼状とともに、辺境伯様経由で陛下に届けてもらうことにした。
あー、でも久しぶりに一から組んで、検証までするの楽しかった!
対象が呪いだったせいで周りには心配かけちゃったけど、やっぱりあたしは、プログラムみたいに一つ一つ組み立てていくのが好きなのね。他に何かないかな~?
それはさておき、呪い対策ができたから情報の補強に入りましょうか。
エルフの森で何が起きたのかはだいたいわかった。けれど、具体的にあたしを狙って誰が動いたのかがわかっていない。ドラグナール帝国っていうことはわかるのだけど……
そういう情報って、普通は誰が持っているものなのかしら?
しかも、あたしが連絡をとれる人の中から見つけなければならない……それって結構ハードル高いわね?
とりあえず、何かの話のついでができたらレオンハルト様に最近のエルフの森について何か知らないか聞いてみよう。さすがに陛下には……聞けないわよね?
あとは……思いつかない。あたし、交友関係狭いわね? 引きこもりなのだから仕方ないけど……うーん、いろんな人に会うといったら商人か。
そこでふと、ダンジョンを立ち上げる前に会った宝石商を思い出す。
「貴族の邸に招かれるような宝石商なら、情勢に関する情報は持っているわよね?」
なんとか連絡をとれないかしら?
会うだけなら、「宝石が欲しい」とクラリッサ様にお願いすれば手配してくれるだろう。
ただ、クラリッサ様には余計なことを知られないよう、内密に依頼を出さなければいけない。どのようにして欲しい情報を伝えて、どう受け取るか。しっかりと考えないと……
◇◇◇
王都にアルセラからのお礼状が届いた。
それ自体はいいのだが……一緒についていた袋の中身が問題だった。
「陛下、アルセラ嬢から先の研究書に対するお礼状が届いています」
質素な封筒とともに、袋も渡される。
「礼状にしては、大きいな?」
「そうですね……読むのに三日かかる量ですから……」
礼状なのにそんなに時間のかかるものかと不思議に思いながら、袋から出したものをぱらりとめくって手が止まる。
「これを、全部読んだのか?」
「確認はしないといけません。ただ、内容が内容だけに他人に任せるわけにもいかず……」
「うちの宰相は優秀だ。普通に業務も予定通りにこなしていただろう?」
「逆です。間に何か挟んで息抜きしないと読み切れません」
業務が息抜き扱いになっていることに苦笑が漏れる。
だが気持ちはわからなくもない。ちらりと見ただけでも内容が濃い。それが、一つの研究室が一年かけてまとめる研究報告に匹敵する量がある。
内容を理解しようとして読むわけではないだろうが、確認である以上、ある程度は内容を見なければいけない。
「これは研究書を提供してくれた研究室に渡すとして、どこからの情報かは伏せておいてくれ」
「当然です。こんなものを渡せば書いた本人を要求されます」
封筒に入った本来の礼状の部分を読む。
どうやら研究書が役に立って無事に作りたいものが完成したらしい。
「アルセラは呪いに対して知識がないという話だったはずだな?」
「そのように伺っていましたが、これを見ると、とても知識がなかったとは思えないほどですね」
「たしかに『ついでにまとめてみました』という量ではないな」
しかも、研究書を揃えて届けてからそんなに日が経っていない。この短い期間で知識のない状態からあの量の研究書を読み込んで、理解した上で作りたいものを完成させたということになる。そしてこの報告書も書き上げている。
「底が見えんな……」
「見えませんね」
毎回、思いもしない方向で驚かされる。
持っている知識量が多いとは思っていたが、新たに吸収する知識量も多い。だからこそあの知識量かと納得もするが……
「これは研究報酬を出すレベルではないのか?」
「そうなのですが……そのまま伝えても受け取らないことがもうわかりきっているので、こちらで未払いの報酬に上乗せしておこうかと考えています。よろしいですか?」
「ああ、正当な報酬として管理できているのであればそれでいい」
アルセラにとっては手紙のついでに簡単にまとめたメモ書き程度の認識だろう。
だが内容は完全に研究報告書だ。これは正当に評価しなければならない。
ここまでの能力を見せられると滞っている研究書を送ってみたい気もするが、アルセラにとって必要のないものに対しては動かないのだろうな。




