第112話 状況考察
皇帝から緊急の領主会議の報せが届き、アルドレウスは帝都へ向かうべく馬車に揺られていた。その時間を利用して最近の状況を整理する。
先日手に入れたルミシルヴァの若長。
結局あのエルフは鍵にはならなかった。ただ、鍵のエルフに関する詳細な情報は入手できた。
「結局、必要なのはドゥルガルドにいるエルフだけか」
他のエルフでは鍵にならない。これ以上、エルヴァリエルに手を出すのは時間の無駄だ。
ただ、いつかは役に立つかと思い、エルフの情報だけは可能な限り集めようとしたのだが……
「まさか、自ら精霊になるなど想像もしなかった……」
あの娘が死んでから、若長は針の痛みにも恐怖を示さなくなった。痛みを与えればうめき声は出す。だがそれだけだ。うつろな目でただそこにいる。
『娘は精霊がささやいた精霊の子だ。精霊の子は死ぬと精霊になる。娘はここから逃れるために、自ら精霊になった』
若長はそう呟いた以降、なんの情報も話さない。動こうともしない。
だが、若長は鍵となるエルフ――アルシェイラの家族だ。生かしておけば利用できるかと、無理やり食事はとらせて生かしてある。
若長を利用するためにはアルシェイラを早く入手しなければならないが……どうしたものか……
帝都に着き、会議室の席に座る。
参加する領主が揃ってすぐに皇帝が入ってきて、開口一番に聞いてきた。
「ヴァルカディアン。エルフを捕らえているというのは本当か?」
……どこからその情報を?
「たしかにエルフを保護している。何かありましたか?」
「エルヴァリエルから『エルフを返せ』と要求がきている」
あの閉鎖的な国がドラグナール帝国に要求してきた?
国という扱いとはいえ、部族の集落が集まっているだけだ。外交など、まともにしたこともないだろう。
ならばエルフを確保しているのをどこからか聞いて、エルヴァリエルからの要求としているだけか?
そういえば最近、セラディアが森を探っているという情報があったな。
ということは、セラディアもエルフと接触したか……
「返せと言われているエルフの情報は?」
「『フェルシルヴァの族長』と『ルミシルヴァの娘』だそうだ」
フェルシルヴァの族長はもうこれ以上、取れる情報はないから手放しても構わない。しかし、ルミシルヴァの娘はもういない。ここは白を切るか。
「フェルシルヴァの族長は自らヴァルカディアンへ来たはずだが……戻り次第、エルヴァリエルまで送るよう指示する。だが、ルミシルヴァの娘はこちらにはいない」
「本当にいないのだな?」
「ええ、いません」
今はな。
「では『ルミシルヴァの若長』は?」
「保護している」
「保護?」
「結界の外で呪いにかかっていた。解呪は施したが、精神を病んでいるようだ」
「ルミシルヴァの若長に確認したいことがある。ここにつれてこい」
若長自体が絶対に必要なわけではないが……簡単に手放すのも惜しい。
「あまり状態はよくない。移動させない方がいいだろう」
「……では代官を手配する。対応せよ」
あの状態の若長なら誰に会わせたとしても何も話さないだろう。
精霊になったという娘が戻らない限りは……
◇◇◇
アイラが精霊になってから、ずっと気分が塞ぎ込んでいる。
表面は笑える。だけど、喪失感が消えない。笑って他人と話すことがしんどい。
誰にも会いたくなくて部屋に篭ることが多くなった。
部屋に一人でいると、どうしても考えてしまう。
なぜアイラが精霊になる状況になったのか……
光の精霊は『あの子が精霊になることを望んだ』と言っていた。
つまり自死……そこまで追い込まれる状況だった。
人に捕まって、何度もいじめられて……傷は治る……
いじめられるって……何度も傷つけられたってこと? それって、つまり……
「拷問……?」
アイラ、そんな目にあっていたの?
じわりと涙が滲む。
……そんなの……どんなに辛かったことか……想像もできない……
人が拷問をする。それって情報を引き出すためよね?
アイラから聞き出したい情報って、何?
『……そこにいるのか? エェルフ~』
ふいに思い出してしまった言葉に鳥肌が立つ。
そうだった。あたしを狙う勢力はあたしがエルフだと知っている。
もし……あたしを確保できなかったから他のエルフを狙ったのだとしたら?
それはあり得ると思う。
ダンジョンは、今はあたししか作れない。でも、そんな情報は知らないわよね?
他のエルフを捕まえて聞き出したとしても、アイラの母親がドゥルガルドのエルフとつながるとは考えにくい。
あたしは森を出てから『アルシェイラ』の名も『ルミシルヴァ』の名も使っていない。そもそも、エルフの森での呼び名は『光の娘』だ。
アイラを狙ったのではなく、エルフなら誰でもよかった?
もし、もしも……ダンジョンからルミシルヴァに辿り着くとしたら、どこから……?
……もしかして……誰か、使った?
そして、あそこで作った素材が人間の手に渡ったら……?
ダンジョン産のものは高純度だ。そんなもの、人が放っておくはずがない。
だから、求められるままに使って……世界樹に影響が出たとしたら……?
いやいや……使わないでしょ?
だって……数字を上げたら魔素が減るって警告文が出るように設定したわ。その後でそれでも使うなら真名を入力しろって出るのよ?
エルフの真名って、そんな軽々しいものじゃない。普段から、真名の一部になる名を他人に呼ばせないくらいなのに……
地下畑のダンジョンコアに向かう。
ここの大きな魔石を使ったダンジョンコアなら、問題なく見れるはず。
ルミシルヴァに残したダンジョンがどんな状態なのか。動かした形跡があるのか……確かめないと……
ダンジョンコアにつながっている地脈を辿る。
二つ並んだ魔力を見つけた。これは真名の入力を求めるウイルスもどきを作ったダンジョンね。ダンジョンって言っていいか迷う規模だけど……
ルミシルヴァのダンジョンはこの辺りにあるはずなんだけど……見当たらない……
「壊したのかしら?」
それならそれで、使われることがないのだから安心だ。
二つ並んだ魔力にアクセスする。一つはダンジョンコア。一つはウイルスもどきの稼働記録用。
記録用を開いて画面に表示させる。
そこには画面いっぱいに並ぶ同じ真名。
「…………どうして…………?」
どうしてこの名前がここに表示されるの?




