第110話 若長が守るべきもの2
こちらの話は残虐表現が含まれます。ご注意下さい。
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アルドレウスは鞭が与える痛みに叫ぶ若長に淡々と質問を重ねる。
「迷宮を作った者の名は?」
「迷宮を作れる者は何人いる?」
表現を微妙に変えつつ、同じ内容の質問を繰り返す。
だが、これ以上打てば死ぬ可能性がある。そこまで追い込んでも答えない。
訓練などしていないはずなのに意外と強情だ。これはこのまま鞭を続けても意味がないかもしれないな。
合図を出して回復ポーションを飲ませる。
傷は治るが体力が減る。もともと呪いと水の制限で体力はかなり減っていた。もう一本ポーションを飲ませたら体力は限界を迎えるだろう。
一旦質問を変える。
「森に迷宮はいくつある?」
「……もうない」
嘘をついているかもしれない。弱めに鞭を入れさせる。
「何度聞かれようと……ないものはない……」
「使っていた迷宮を作った者は誰だ?」
「…………」
振るおうとした鞭を止めさせる。このまま鞭を使い続けても収穫なく終わるだけだ。傷による直接的な痛みではなく、神経を刺激する痛みへと方向性を変えてみる。
傷を最小限に抑えるため、針へ変えさせる。
見える位置に手を固定させ、神経の集中する指先に針を刺す。最初は浅く、質問の度に深く、そしてより痛みの強い爪の間に。
最初は何をされるのか分かっていなかったようだが、痛みを理解すると針を見るだけで怯えが走るようになる。
刺すだけではまだ話さない。深く刺して針を残し、視覚にも刺激を与える。
両手への処置が終わろうかというときに、若長は針から目を逸らし、小刻みに震えた。
「……アル……アルシェイラ……」
「迷宮を作った者の名前か?」
「そう、だ……」
刺していた針を全て外させる。
「どこの部族だ?」
「……ルミシルヴァ……だが、追放した。今は森にいない……」
「どこにいる?」
「知らない……」
針をちらつかせる。
「本当に知らない。答えようがない」
怯えた顔で首を振り答える。嘘ではなさそうだ。
「他に迷宮が作れる者は?」
「いない」
針をちらつかせながら追放時期や迷宮の内容、アルシェイラの特徴を話させる。
追放時期などからすれば、どう考えてもドゥルガルドにいるエルフだ。やはりあのエルフしか鍵になり得ないということか。
ふとフェルシルヴァの族長を尋問しているときに気になったことをルミシルヴァの若長も試す。
「お前の名は?」
「……は?」
針をちらつかせるが顔を強張らせるだけで答えようとしない。そのまま数本刺す。
「なぜ名を聞いているだけなのに答えない?」
「……名は……家族の間だけで呼ぶものだ……!」
意外な答えに針を止める。
「家族の間で……呼んでいるのを聞いても……家族でないものがその名を呼ぶことはない!」
「つまり……名を聞いて答えないのは家族ではないからか?」
「……不快に感じる。名を教えることも聞くこともしない……」
「アルシェイラはお前の家族か」
答えようとしない。針を立て続けに刺してやる。
「っ!……そうだ……」
「あの娘の名は?」
「っ……知らない……」
「……嘘だな」
針を影に渡して繰り返させる。
エルフの慣習に当てはめれば、名を知っている。それだけで家族と見て間違いないのだろう。
馬車の中では常に娘を抱き抱えていたという。エルフの見た目では年齢が分かりづらいが、子か孫か。いずれにせよ近い関係なのだろう。
「娘を解呪して起こせ」
若長は傷を重ねるよりも精神的に揺さぶるほうが弱そうだ。
今も娘を起こせと言っただけで顔を青ざめさせている。こちらの意図は、伝わったようだな。
アイラの悲痛な悲鳴が響く。
もう、どれくらい続いているのか……これなら、まだ自分が痛めつけられている方がいい。
「……やめろ……やめてくれ……」
ヒュンと鞭が鳴るだけで、自分に打たれていた痛みが甦る。
あの痛みが、ずっとアイラに……
「やめさせたいなら答えろ。あの娘は森でどんな役目がある?」
全てなど、答えられるわけがない。
だが、何か……何か答えなければ……アイラが……
「ア……あの娘は……祝福をもっている……」
鞭が止み、ぐったりとしたアイラに回復ポーションを飲ませている。
「光の祝福を持つ者は、自分がいなくなればあの娘だけになる。だからエルヴァリエルは手放せない……」
嘘ではない。
「……舐められたものだ……」
アイラの悲鳴が再開される。
答えたのになぜ!? やめろ……
「それだけではないだろう?」
「エルヴァリエルが求めているのは、間違いなくあの娘の祝福だ!」
「祝福がエルフにとって重要な理由は?」
そんなこと、話せるわけが……! 話せる範囲は、どこまでだ?
「……っ! 祝福は、森に必要だ!」
祝福の質問が続く。だが、それを答えればエルフの森の守りに、世界樹に繋がる。
答えられない。
アイラの悲鳴が小さくなり、再びポーションが使われる。
あんなに使ったら、体力が……
自分にも使われたからわかる。あれは傷の痛みは消えるが、体力がごっそりと抜け落ちる。
アイラも体力がもう残り少ないのだろう。
意識はあるようだが、ぐったりとしたまま動けないでいる。
力なく倒れ込むアイラに対し、アルドレウスは冷酷に次の指示を下す。衣服を引き裂かれ、羞恥と恐怖にアイラがか細い悲鳴を上げた。
アイラも体をよじって逃げようとするが、男二人の力にかなうはずもなく、そのまま押さえつけられてしまう。
「目の前で家族が壊されていくのは、どんな気持ちだ?」
やめろ……やめろ……
『い、や……いやー! もうこんなところいや! お母様! お母様! 精霊、助けてっ!』
アイラが大きく叫ぶと同時にアイラの体から光が弾け、アイラを押さえつけていた男が弾き飛ばされる。
アイラは体の支えがなくなって再び床に倒れるが、手はそばに現れた光の精霊に向かって伸ばされる。
『お母様……会いたい……そばに連れていって……』
あ……駄目だ、その先は……
『お願い、光の精霊……』
『……待てっ、アイラ……!』
『ここはいや……帰りたい……』
止めたい。
だが、ここに残れば、辛い事がずっと続く。
止められない。
自分には止める資格がない。
『私を、精霊にして』
『……まだ成熟してない。本当にいいの?』
『お母様のそばがよくて生まれたの。離れ離れはもういや……』
『わかった……帰っておいで』
降り注いでいた祝福が体の中心に集まっていく。
アイラの体は静かに崩れ落ち、そこから抜け出すように集まった祝福の光が浮かび上がる。体から抜け出た光と共に光の精霊が消えていった。
アイラを守りたかった。
でも何もできなかった……いや、守るどころか自死を選ばせるほど追い込んだ。
最後はこんな、凄惨な経験をさせて……自分が殺した。
『……精霊になる?』
……ならない。
この苦しみは自分の罪だ。
全て抱えていく。




