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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
エルヴァリエル

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第109話 若長が守るべきもの1

 担ぎ上げられ、乱雑に馬車に押し込められる。床板にぶつけた部分が痛むが、それよりも魂が蝕まれる感覚が苦しい。

 なんとか体を動かし、アイラの頭の下に腕を入れて背を支えてやる。馬車の激しい揺れに体を傷めないように、もう少しなんとかしてやりたいが、そこまでは自分の体が動かない。


 馬車が止まったうちの数回、人間が来て口に水やふやかした穀物を流し込んでいく。

 最初は苦しくてそれどころではない、と思っていたが、体は素直だ。流し込まれれば次を求めて飲み込む。


 また馬車が止まって人間がやってくる。

 いつもなら作業のようにすぐに口に流し込んでくるが、そのときは違った。


「水が欲しければ答えろ。お前は『ルミシルヴァの若長』で間違いないな?」


「……ああ、間違いない……」


 知らずに連れてきたのか。

 口に水を流されて飲み込むが、いつもより少ない気がする。


「まだ足りないだろう? 次が欲しければ答えろ。お前とその娘との関係は?」


 ぎりっと歯を食いしばる。

 この質問をするということは、人間は自分とアイラの関係を知らない。娘だと知られたら、情報を引き出すためにアイラが利用される。答えられない。


「……答えない、か。まあいい。答えるまで水も食事もなしだ」


 馬車が再び走り出す。

 アイラの頭を抱き寄せ、顔を見る。

 たまに苦し気な声が漏れるが、意識はずっと戻っていない。自分と同じであれば、魂が蝕まれる感覚にずっとさらされているのだろう。

 あとどれくらいこの状態が続くのか……意識が戻らない状態が続いていて大丈夫なのか……不安に駆られながらも沈む感覚に逆らわず意識を手放した。



 ……のどがかわいた……


 ここのところ、ずっとその思考に支配されている。


「ずいぶんがんばるな……ほら、これが欲しいのだろう?」


 口元に一滴の水が伝い口の中に入る。ただそれだけで、もっとと体が次を求める。乾きすぎて、喉が張り付いているようだ。息も浅く、そろそろ意識を保つのも難しくなってきている。


「質問に答えろ。お前と娘の関係は?」


 意思がぐらりと揺れる。だけど答えない。意識して目と口を閉じる。

 ふいに前髪を掴んで上半身を引き上げられ、耳元でささやかれる。


「答えないことである程度の予想はできる。抵抗するだけ無駄だ」


 ……なら、聞かなければいい……


 声になったかは分からない。床に投げ捨てられ、そのまま気配が離れていく。

 体を打ち付けているはずだが、もう痛みも感じない。

 混濁した意識の中、アイラを探して抱き寄せる。


 光の精霊、聞こえているなら……アイラだけでいい。助けてやって欲しい。




 馬車が止まり、またあの質問か、と思うものの、もう目を開ける気力もない。

 気配が近づいてきてそのまま担がれる。


 ……目的地に着いたのか……


 部屋に入り、床に座らされるが体を支える力があるわけでもなく、そのまま床に倒れ込む。


「こちらが確保したルミシルヴァの若長です」


「そっちのエルフは?」


「若長を確保する際にそばにいたので一緒に確保しました。結界の中より『娘は置いていけ』と叫んでいましたから、エルフにとって重要な位置にいる娘かと思われます」


「ずいぶん弱っているな」


「娘との関係を話そうとせず……水を最低限にして二日経っています。呪いの影響もあるのか、体が動かないようです」


 呪い……この魂を蝕むものか……


「なら答えやすい質問をしてやろう。ルドニア公国に質の良い金属を売っていたのはお前か?」


「……ル……ドニア……?」


 あの人間は、ルドニア公国の人間だったのか? そういえば確認したことがない。


「どこの国と取引しているかも知らないのか。交易に金属を出していたか?」


「……交易……していた……」


「解呪してやれ」


 頭や体に少量の水がかけられる。それだけで魂に絡みついていた鎖がほどけ、蝕んでいたものが霧散していく。

 意識にかかっていた靄が晴れ、呼吸が少しだけ楽になる。

 呪いは解けたようだが渇きが癒えず、まだ体は動かせない。目線だけ動かして、先ほどから質問している人間を見る。


「次の質問だ。その金属はどのように入手していた?」


 どのように……? アレは、どう説明すればいい?


「説明に困るか? そうだな……金属を作っていたのは『迷宮』か?」


 エルフでも知っているものが少ないというのに迷宮を知っているのか……


 渇きとは別に喉がひりつく。

 だが、インゴットを迷宮で作っていたと知られたところで、アレはもうない。


「……そうだ……」


「水を」


 上半身を起こされ、口に水を流し込まれる。

 あれだけ望んでいた水なのに、渇き過ぎているのかうまく飲み込めない。むせながら時間をかけて水を飲み込んでいく。

 だが、なぜだろう……? 水を飲んだのに渇きが収まらない。


「物足りないのだろう? 次の質問に答えたら足りないものをやる」


 次の、質問……


「お前は『迷宮』を作れるのか?」


「作れない」


 落胆したような表情をした後に合図を出す。

 同じように水を口に含まされるが、少し甘みを感じる。いや、甘く感じているがこれは……


「……塩……?」


 水分が体に染みるのがわかる。じわりと汗が出て、まだ自力で起き上がれないが、体が動かしやすくなった気がする。


 こんなに違うものなのか……


「まだ足りないだろう? 次の質問だ」


 欲しい答えではなかったのだろう。声が低く、視線が鋭く感じる。


「『迷宮』を作ったのは誰だ?」


 息が詰まる。

 作れるのかと聞いたなら、作れる者の情報が必要なのは当然だ。

 口に出すだけなら簡単だ。

 だが……アルシェイラは追放して結界の外にいる。守られていない場所にいるとわかれば、どうなるか……そんなのは考えるまでもない。


「答えろ」


 今、アルシェイラがどこにいるのか知らない。

 知らないが、これは渡してはいけない情報だ。


 この人間は、欲しいものを入手するためなら手段を問わない。そんな気がする。


 ここから地獄が始まった。

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