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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
エルヴァリエル

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106/126

第106話 アイラ3

 もしかして、これって……監視されている?


 体を動かすために、少し散歩させてもらおうと外に出ようとしたら、扉横に人がいてびっくりした。散歩に出るのは止められなかったけど、庭からは出ないようにと言いながらついてきたし、庭にも見回っている人がいるみたい。


 でもそうよね。

 よく考えたら、私の親である若長が罪に問われている。私だって警戒されても仕方ないよね。


 ため息をつく。

 この様子だと、若長に会いたいと言っても会わせてもらえなさそう。

 でも今会わないと、追放されたらもう会えない。

 嫌いだけど、どうでもいいわけじゃない。

 それに……家族と突然会えなくなるのは……もういやだ。


「ねえ、光の精霊。光の祝福を持った若長の場所、わかる?」


 目の前に光が現れて、くるくると回り出す。

 その光が案内するように扉の方へとゆっくり飛ぶ。


「待って。見つかるとダメなの。小さい頃、お母様と遊んだときみたいに姿を消すことって、今もできる?」


 魔力がするりと抜けた感覚がして、光の精霊が集まってくる。

 『ないしょね』『もう見えないよ』魔力を持っていったからか精霊の言葉が聞こえる。


「ありがとう。このまましばらくお願いね。扉から出ると見つかってしまうから、窓から出るね」


 そおっと窓を開けて外に出ると、目線の高さを飛んでいく光の精霊について歩く。

 光の精霊のおかげで私の姿は見えないけど、音は聞こえるはずだから足音を立てないように歩かないと……でも、勢いで出てきたけど何を話そう……



 若長がいるらしい建物の前まで来たけど、扉の両横に警備している人がいて、扉から中に入るのは無理そう。建物から少し離れて光の精霊に小さな声で話しかける。


「若長のいる部屋の窓ってあるのかな?」


『探してくる』


『あったよ』


『こっち』


 ついていくと、地面近くに設けられた細長い明かり取りの窓がいくつか見える。二つの窓が薄く開けられていて、近づくと族長と若長の声が聞こえてきた。


「もう一度聞くが、古代遺跡の知識を持つのは光の娘だけで間違いないな?」


「間違いない。そもそも古代エルフ文字を読めるのが光の娘だけだった」


「すべての資料が古代エルフ文字なのか? ルミシルヴァで研究していたのは五百年ほど前の話だったはずだが?」


「ルミシルヴァにある資料は遺跡の文字をそのまま書き写したものらしい。研究はしていたが読み解けず、そのまましまいこまれていたようだ」


「ならば急ぐ必要はない、か。……いや、人間が入り込んで持ち出す可能性もあるか……いま、あそこに結界はないからな」


 会話が途切れて声が聞こえなくなる。お話は、もう終わりなのかな?


「……娘は何も知らない。古代遺跡のことも、それを使ったものの存在すらも……」


「ああ、ルミシルヴァの娘に罪は何もない。血縁だからといって連座させるつもりもない。だが、エルヴァリエルから出すわけにもいかない」


「……祝福か……」


「あの娘はエルフの森に必要だ」


 あの精霊も魔力もお母様のものなのに……また次も力を貸してほしいと望まれたとして、今回のように力を借りられるかわからない。


「無理強いはしないでくれ……」


「それを望める立場ではないことは分かっているだろう?」


 やっぱり、あの見張りの人たちは私を逃さないためにいるのね。罪人の血縁者という立場ではないみたいだけど、扱いとしては同じことだわ。


「……そう言いたいところだが、言われずとも無理強いなどしない。無意味だからな」


 エルヴァリエルでは昔、祝福の子を増やすために強制的に結婚させたことがあるらしい。その間に生まれた子供は祝福をもたず、精霊のささやきも起こらなかったとか……


『そばにいて楽しいところじゃないといやなのよ』


 拗ねたような声が聞こえる。

 そうね。生まれるなら愛されて、楽しい場所がいいよね。


「……そこに、誰かいるのか?」


 どきりと心臓がはねる。

 気がつかれた?

 気がついたならそのまま話したいけど、今は見つかっちゃダメ。そこに族長がいるのに……


『大丈夫。見えない』


「……光の精霊か……」


 窓を見上げる若長の顔が見える。ほんの数日なのに、なんだかすごく久しぶりに感じる。ずっと閉じ込められているせいか、疲れた顔をしていた……こんな顔……初めて見た。少し、痩せた?


「……誰かいたのか?」


「いえ……精霊が集まっていますが、精霊の子の話に反応しただけのようですね」


 若長はそう言いながら部屋の奥へ戻っていく。

 安堵からため息をつきそうになってこらえる。音は隠せない。我慢、我慢。


「明日、お前を森の結界の外に出す」


「……はい」


 明日……やっぱり、なんとかして今日話さないと……もう会えなくなる。


「族長! 失礼します!」


 誰かが飛び込んできたようだ。若長にも聞こえないように小声で話しているのか、何を話しているのか聞こえない。


「……窓が開いていた……?」


 窓がって……もしかしなくても私のこと? 部屋にいないのがバレて報告にきたのだわ! あわ……やばい! 急いで戻らないと!


 そろりとその場から離れる。


 せっかく話せる位置まで行けたのに……いまは戻るしかない。

 でも、いまから戻ったとして、部屋にいましたっていうのはさすがに無理があるわ。部屋にいなかったから報告にきたのだろうし……散歩してました、で押し通せるかな?

 エルヴァリエルの中のこと、何も知らないんだけど……どこか、あまり人が来ない静かな精霊おすすめの場所ってない?


『こっち』


 光についていくと、水の流れる音がして、古びた小屋が見えてくる。そのまま小屋を回り込んで、目の前に広がった景色に息を呑む。

 川に小さな落差ができていて、水飛沫が光を受けて煌めいていてすごく綺麗……ここは大きな感動があるような景色ではない。だけど、なんだかとても落ち着く。そんな場所だった。


 そのまま眺めていたら、遠くから族長の声が聞こえた。


「こっちだ」


『風の精霊に見つかった』


 あー、うん。それは仕方ないよね。

 私が精霊に案内してもらうことができるのだから、族長にだってできるだろう。

 いっぱい協力してくれたから、お礼に少し多めの魔力を渡すと精霊たちは帰っていった。


 明日はもっと警戒されそうだけど……それでも、もう一度だけ会いたい。なんとかして、抜け出さないと……

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