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強欲のダンジョンの作り方  作者: 夢兎
エルヴァリエル

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102/127

第102話 小競り合いの影響

 セラディアから交易担当者の情報が皇帝へともたらされた。しかし、次の一手を決めかねて保留にしていたところへ、ヴァルカディアン軍がエルフと接触し、戦闘になったと情報が飛び込んでくる。

 すかさず緊急の領主議会を開き、エルフの森で戦闘が起きた経緯を問うが、至極まっとうな答えしか返ってこない。


 エルフ側の外縁部の警備がうまく機能しておらず、魔物の勢力が強まっていることもたしかで、このまま外縁部を放置して魔物に巣を作られればドラグナール帝国にも被害が出ることが予想された。そのことから軍を引かせるわけにいかなかった。


 皇帝も頭を抱えたい気分ではあるが、良案が思い浮かぶわけでもなく、『軍はエルヴァリエルの森内部への侵入を禁ずる』と発令するに留まった。


 その代わり、魔物に対応する軍への補給は補給管理が得意なカルヴァスに管理させ、物資の調達にセラディアを挟ませることにより、ヴァルカディアン軍の最新情報の入手を試みる。

 皇帝のもとには、サルクが護衛としてたびたび北方へ赴いているという報告は上がっていなかった。

 これにより公の補給と裏の補給、双方の情報がサルクのもとに集まるようになった。



 この皇帝の決定を一番喜んだのはグレイヴン商会のハルトかもしれない。


 北方に分割されたヴァルカディアン軍が魔物の対応に当たるようになってから、戦闘回数が増え、補給物資の消費量が飛躍的に上がっていた。

 当然、影からの要請でその補給物資を運ぶグレイヴン商会に影響する。ほとんど休みなしで北方と行き来することとなり、対応する商会員はもちろん、物資を受け入れる村も疲弊が溜まっていた。


「これ以上の増便は無理です!」


 運搬に関わる人員の確保はまだなんとかなるが、仕入れ先の確保が難しく、要求される物資の準備が間に合わなくなってきていた。

 どれだけ金を積まれようと、これ以上荷を増やすことはできそうになかった。


 そこに今回の皇帝命令が下ることで、荷の量は魔物対応を始める前の水準へ戻ることとなった。

 補給の全てを皇帝に握られることを嫌ったアルドレウスは、村の委託販売をなくすことはしなかったが、村もハルトも負担が減ったことに喜んだ。



 一方のカルヴァス側では命令による大きな変化はなかった。

 カルヴァス領が南方にあるため、北方へ直接荷を届け続けることは難しく、物資の必要量を算出して手配書を作成し、セラディアに送る。ただ、その程度の変化だけだった。


「補佐官、軍の行動にはこの量では足らない」


 ただ、サルクだけは北方の軍の補給全てに関われることを喜び、嬉々として仕事をしていた。

 戦闘を伴う軍に必要な物資の目安量を一覧にして補佐官へ渡す。優秀な補佐官はその一覧を元にほぼ修正のいらない手配書を作成してきた。内容を確認しながら頷き、サインをしていく。


 ここに村の委託販売が合わさればかなり余裕のある行軍ができるだろう。


 カルヴァス領から手配される物資量を影からアルドレウスへと流す。カルヴァス領で手配する物資は、グレイヴン商会で扱っていない品を多めに準備させていた。

 それを見たアルドレウスはグレイヴン商会に手配させる物資案もサルクに出させるように指示を出す。

 表と裏、双方の補給手配にサルクが関わることで、時期的に準備のしやすいものはグレイヴン商会に上乗せし、準備が難しいものは補佐官に前もって準備するように助言する。こうした細かい調整が入ることで北方の補給は格段に安定することとなる。



 カルヴァスから手配書を受け取ったセラディアは物資を準備してヴァルカディアン軍へと届ける。

 届ける名目で軍の動きを把握し、それをかいくぐるように情報部をエルフの森の調査に送り出していた。以前ほど長期間調査に入ることはできないが、軍の動きがある程度わかる分、余裕をもって調査ができている。


 だが森を守る結界が戻ったのか、ほぼ同じ地点まで進むと、いつの間にか元の場所へ戻されるのを繰り返している。ヴァルカディアンもセラディアも、調査は一向に進んでいなかった。


 ◇◇◇


 ドゥルガルド王国には査察隊から『ドラグナール帝国とエルヴァリエルで交戦があったようだ』と一報が入っていた。

 実際に戦いがあったことから、正式に外交を通じて詳しい情報を取り寄せる。

 その情報によると『外縁部の魔物対応をしていた際に集落付近まで入り込んでしまった』とのことだった。


「ドラグナールの言うことだ。侵攻ではないとは言い切れんな」


「言い切れませんが、戦闘規模は一小隊で、遭遇戦であることは間違いないようです」


 査察の掴んだ戦闘規模が小さく、どの観点から見ても条約で叩くことは難しい。なんとか絞り出すことができたのは、魔物対応をするために外縁部に駐留地がいくつか確認できた点だろうか。


「外縁部はドラグナールとエルヴァリエルの緩衝地帯の扱いではありますが……実質的な侵攻として扱うことはできます」


 ただし、条約では戦闘に繋がるような大規模な兵の集結は禁じているが、全ての戦闘を禁じているわけではない。ドゥルガルドが絡んでない以上、査察を通じた警戒以上の介入は難しかった。


「外縁部で軍が集結することがないよう、監視の目は強化しています」


 この点についてはドラグナールの外交官であるルミディア伯も協力的だった。さすがに条約を結んだばかりで、早々に破ることになれば国の信用問題に関わる。

 ルミディア領はエルヴァリエルの一部と隣接していることから、査察隊へ宿泊先を提供していた。


 エルヴァリエルとの小競り合いについてエルヴァリエルから何の反応もなく、戦闘による正確な被害はわかっていない。


 今回の小競り合いは偶発的なものであることはたしかなようだが、ヴァルカディアン軍の狙いがどこにあるのか判明していなかった。


「バルディウス辺境伯へも情報を流しておいてくれ」


 エルフと聞くとどうしてもアルセラが思い浮かぶ。

 アルセラを狙っていた勢力が、たった一回の失敗で諦めたわけではないはずだ。どれだけ警戒しても警戒しすぎることはないだろう。

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