第一章資料 登場人物記録
※本資料は、第十話までの取材、証言および確認記録をもとに作成した。記憶の欠落、証言の食い違い、資料の消失があるため、一部には推測を含む。
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佐伯直人
新聞記者。現在は遠守支局に所属している。
以前は本社の社会部で不正疑惑を追っていたが、記事は社内判断によって掲載されなかった。その後、遠守支局へ異動している。
真木野中学校の解体に関する取材をきっかけに、昭和六十三年の文化祭と、当時勤務していた三田園晴子について調べ始めた。
水上、影平、鳥越の三集落を取材し、それぞれに伝わる古歌の節と、一定の周期で人が選ばれてきた事実へたどり着く。
取材を進めるにつれ、水上の歌、影平の影、鳥越の声に関係する異変が、佐伯自身にも現れ始めている。
本人も、自分に起きていることを疲労や錯覚では説明できないと認識している。しかし、過去に記事を握り潰された経験から、都合の悪い事実を再び黙殺する側へ回ることを強く嫌悪しており、調査を中断できずにいる。
佐伯自身の意思で真相を追っているのか、怪異によって残る二つの節へ導かれているのかは、現時点では判然としない。
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及川
佐伯と同じ遠守支局に所属している。
佐伯の取材に同行し、資料の整理、証言内容の照合、地図や古い記録の調査を担当する。
佐伯よりも慎重で、取材を進めることで、分散していた怪異や記録そのものを一か所へ集めている可能性を警戒している。
鳥越の取材後、佐伯の声が本人より先に発せられる現象を目撃した。さらに、水上、影平、鳥越で起きた異変が、佐伯の身体へ順番に重なっていることに気づき、調査の中止を求めている。
佐伯が真実を求めているのか、それとも怪異に調べさせられているのか、すでに区別できなくなっていると指摘した。
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田村
遠守支局長。佐伯と及川の上司。
真木野中学校の解体に関する地域取材を佐伯へ任せた人物。
佐伯が五集落と古歌について独自に調査を進めていることは把握しているが、怪異の全容についてどこまで理解しているかは不明。
佐伯は取材を中断する場合、田村へ担当変更を申し出ることを考えたが、実際には申し出ていない。
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三田園晴子
昭和六十三年当時、真木野中学校に勤務していた女性教師。
国語または音楽教育に関わっていたとみられるが、学校側に残る記録には欠落が多く、正式な担当教科についても不明な部分がある。
昭和六十三年の文化祭で、水上、影平、鳥越、日向、真木野の五集落に伝わっていた節を、一つの歌として生徒たちに発表させたとされる。
文化祭には、全校生徒五十八人が参加していた。
生徒たちの歌声が途中で途切れた後も、三田園だけが舞台に残り、一人で歌い続けていたという断片的な証言がある。
三田園がなぜ五つの節を一つに並べたのか、なぜ一人で歌ったのかは分かっていない。
生徒たちを守ろうとした可能性、五集落へ分散していた何かを自分へ集めようとした可能性、三田園自身が歌に選ばれた可能性が考えられているが、いずれも推測にすぎない。
文化祭の後、三田園に関する記録は不自然に薄れ、当時を知る者たちの記憶からも、彼女の存在と文化祭の核心部分が欠落した。
二〇二六年、真木野中学校の解体準備が始まってから、三田園を知る者たちの記憶が断片的に戻り始めている。影平の古い写真には、三田園らしき女性の影も現れた。
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佐々木文江
水上集落の住民。
水上に伝わる「水の役」と、その役に選ばれた少女たちについて証言した。
昭和六十三年当時、佐々木由香が次の水の役に選ばれる可能性があったことを知っていた。由香を一人で歌わせないため、水上に伝わる節を三田園へ渡した人物の一人とみられる。
当初は、水の役や三田園について明確に語ることができなかった。しかし、佐伯の取材と水上で起きた異変をきっかけに、失われていた記憶を少しずつ取り戻した。
現在の水上では、役を担う子どもも、それを選定する共同体の力も失われている。文江は、長く来なかったものが再び戻ってきたことを、恐れながらも受け入れているように見える。
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藤原敦
影平集落の関係者。
昭和六十三年当時、十四歳。次の「夕番」として選ばれていた。
夕番に選ばれた者には、影が本人より遅れる、本人とは違う方向を見る、夜中に壁を歩く、日暮れになると身体を残して外へ出ようとするなどの異変が現れる。
藤原敦は昭和六十三年の文化祭後も生存しているが、なぜ夕番として失われずに済んだのかは明らかになっていない。
当時の出来事や三田園についての記憶には欠落があり、佐伯の取材によって断片的に戻り始めている。
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小田島和江
鳥越集落の住民。元国語教師。
昭和六十三年当時、呼び番に選ばれていた小田島聡の叔母。
鳥越に伝わる節と、呼び番の仕組みを知っていた。聡を一人で歌わせることを避けるため、集落の大人たちとともに、鳥越の節を真木野中学校へ渡したとみられる。
解約済みの電話から声が聞こえる現象を経験している。
佐伯が鳥越を訪れる前から、その電話には佐伯自身の声が届いていた。
当初は文化祭と三田園の記憶を失っていたが、佐伯の取材と、電話から聞こえた声をきっかけに、その一部を思い出した。
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佐々木由香
昭和六十三年当時、十四歳。
水上集落の少女で、次の「水の役」に選ばれる可能性があった。
水上の節が真木野中学校へ渡された背景には、由香一人へ水の役を負わせることを避けたいという、大人たちの意図があったと考えられる。
文化祭後も生存したとみられるが、その後の詳細は不明。
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佐々木澄江
昭和二十七年、水上集落で「水の役」に選ばれた少女。当時九歳。
最後には水へ消え、身につけていた物の一部だけが残されたとされる。
長い間、水難事故の犠牲者として扱われてきた人物の一人。
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小田島聡
昭和六十三年当時、十四歳。
鳥越集落で、次の「呼び番」に選ばれていた少年。小田島和江の甥。
呼び番に選ばれた者は、親しい者の声で名前を呼ばれ、返事をするたびに声が近づく。やがて本人の声が身体を離れ、電話や放送設備などから聞こえるようになる。
鳥越の節が真木野中学校へ渡されたのは、聡一人へ呼び番を負わせることを避けるためだったと考えられる。
文化祭後の詳細については、現時点では不明な部分が多い。
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工藤初枝
影平集落の女性。
昭和三十一年に失踪したとされる。
本人の姿は消えたが、古い写真や家屋の壁に、初枝のものとみられる影が残っている。
二〇二六年になって、その写真へ三田園らしき別の影が現れ始めた。




