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異世界から来た七人は、まだボールを知らない――潮見ヶ丘高校サッカー部、最後の十一人  作者: Hamin
第4章 県大会への挑戦

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20話 勝者を二人つくれ

二回戦の前の週、新しい問題が起きた。


航平《こうへい》と、セリオだった。


「なんで、フリーキックは全部セリオなんだよ」


練習のあと、航平が、いらだった声で言った。


「ゴール前でパスもらっても、セリオは自分で打つし。俺がフリーでも、気づきもしねえ」


セリオは、困ったように下を向いた。


「ご、ごめんなさい……。的が見えると、体が勝手に……」


「謝ってほしいんじゃねえよ」


航平は、頭をかきむしった。


「俺だって、点が取りてえんだよ。フォワードなんだから」


グラウンドの空気が、少しだけ、とげとげしくなった。

夕方の風が、落ち葉をからからと転がしていった。


そのとき、ミロが、二人の間に、ひょいと割りこんだ。


「ねえ。砂の国の掟、教えてあげよっか」


◇ ◇ ◇


ミロは、珍しく、まじめな顔をしていた。


「――勝者を、二人つくれ」


航平とセリオが、同時にミロを見た。


「盗賊の掟だよ。一人だけ得をする盗みは、必ず誰かにうらまれる。うらまれた盗賊は、いつか必ず捕まる。だから、一流の盗賊は、盗むときにも取引するときにも、二人とも得をするやり方を探すんだ」


ミロは、指を二本立てた。


「コウヘイも、セリオも、点が取りたい。どっちかが取ったら、どっちかは取れない。それって、勝者が一人しかいないでしょ」


「……当たり前だろ。点は一個なんだから」


「ちがうよ」


ミロは、にやっと笑った。


「セリオが打つと見せかけて、コウヘイにわたす。コウヘイが走ると見せかけて、セリオが打つ。相手は、どっちを止めればいいかわからない。――二人がいるから、点が取れる。それって、二人とも勝ちじゃん」


航平は、しばらく黙っていた。


セリオを見た。


「……おまえ、打つふりってできんの?」


セリオは、目をぱちぱちさせた。


「た、たぶん……。弓でも、狙いを見せてから外す技があります」


その日から、二人は、居残りで練習を始めた。


◇ ◇ ◇


十月十一日。二回戦。


相手は、私立桐ヶ谷(きりがや)学院。

守りの固さで知られるチームだった。


その日は、朝から薄曇りだった。

空気が少しひんやりとして、吐く息がかすかに白くなりかけていた。


桐ヶ谷は、最初から、ゴール前に人を集めてきた。

ペナルティエリアの前に、二重の壁。セリオのフリーキックも、ゼノのドリブルも、その壁にはね返された。


0対0のまま、時間だけが過ぎていった。


後半二十分。


ペナルティエリアの手前で、セリオがボールを持った。


相手のディフェンスが、三人いっせいに、セリオの前に飛びこんでくる。

フリーキックと同じ、あの右足を、全員が警戒していた。


セリオは、右足を振り上げた。


的を狙う、あの目つきで。


三人の体が、シュートコースをふさぐように、一斉に倒れこむ。


――セリオの右足は、振り下ろされなかった。


かわりに、足の裏で、ボールをそっと横へ転がした。


そこに、航平が走りこんでいた。


がら空きのゴール前。

航平は、ダイレクトで、右足を振り抜いた。


ボールが、ネットに突き刺さった。


1対0。


航平は、ゴールのうしろで立ち止まって、セリオのほうを振り返った。

少し照れくさそうに、こぶしを突き出した。


セリオは、一瞬きょとんとしてから、自分のこぶしを、そっと合わせた。


ミロが、その二人の頭を、うしろから両手でわしゃわしゃとなでた。


「ほらね。勝者、二人」


◇ ◇ ◇


でも、桐ヶ谷は、そこから粘った。


後半三十八分。コーナーキックから、同点に追いつかれた。

大柄な選手の頭に、ボールがぴたりと合わされた。ボルグが、手を背中に組んだまま跳んだけれど、わずかに届かなかった。


1対1。


延長戦はない。

決着は、PK戦に持ちこまれた。


◇ ◇ ◇


PK戦の前、ゴール前で、鉄平《てっぺい》先輩が七海《ななみ》からノートを受け取っていた。


七海が、試合中ずっと記録していた、桐ヶ谷の選手たちの「くせ」だった。

誰が、どちらの足で蹴るか。助走のとき、どちらを見るか。


「……五番は、蹴る前に、必ず右を見る。でも、右には蹴らない」


サフィールが、横から言った。


「目は、行き先をごまかすために使う者と、行き先を教えてしまう者がいる。五番は、ごまかす者だ」


鉄平先輩は、ノートを閉じて、うなずいた。


「わかった。……あとは、俺が決める」


朝五時に起きて勉強し、放課後の二時間だけ、全部をゴールの前で使う。

自分で決めて、自分で親に話した鉄平先輩の目は、六月の雨の日とは、まるでちがっていた。


一人目。桐ヶ谷、成功。潮見ヶ丘(しおみがおか)、セリオ。成功。

二人目。桐ヶ谷の五番。右を見て――左。


鉄平先輩は、左に跳んでいた。


両手で、がっちりとボールをつかむ。


観客席の、鉄平先輩のお母さんが、立ち上がっていた。


潮見ヶ丘の二人目は、ローデリック。成功。

三人目、桐ヶ谷も、潮見ヶ丘のボルグも成功。


四人目。桐ヶ谷、成功。

潮見ヶ丘の四人目、航平。


航平は、ボールを置いて、ゴールを見た。

深呼吸を、ひとつ。


決めた。


五人目。桐ヶ谷のキッカーが、ボールを置く。

鉄平先輩は、ゴールラインの上で、両手を大きく広げた。


キッカーの目が、一瞬だけ、左下を見た。


――教えてしまう者だ。


鉄平先輩は、左下へ跳んだ。


指先が、ボールをはじき出した。


◇ ◇ ◇


PK戦、4対3。


潮見ヶ丘、三回戦進出。


鉄平先輩のまわりに、全員が駆け寄った。

ボルグが先輩を肩車して、鉄平先輩が「下ろせ、バカ!」と叫んでいた。


その輪から少し離れたところで、ミロが、航平の肩をつついた。


「ねえ、コウヘイ。今日のPK、テッペイと半分こだね」

「は? 何がだよ」

「コウヘイが決めて、テッペイが止めた。勝者、二人」


航平は、あきれた顔をして、それから吹き出した。


「おまえ、それ言いたいだけだろ」


ミロは、にやっと笑って、いつもの軽い足取りで、輪の中に戻っていった。


曇り空のすきまから、夕方の光が、ひとすじだけ差しこんでいた。

競技場の向こう、遠くに見える海の上では、雲の切れ間から、光の柱が何本も降りていた。


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