7.現実
光の扉を出ると、昨日の路地に出てきた。
「本当にあの時の場所に戻ってきた」
「でしょ? 気に入った定位置で箱庭に戻るのがおすすめだよ」
もし、他の人にこの現場が見られてしまったら、きっと指輪は取られてしまう。絶対に見つからないようにしないと。
「さぁ、道具屋に行って、ポーションを売ろう。そうしたら、リマはちゃんと働いたことになるよ」
「……でも、私なんかが売って大丈夫かな」
不安はある。だって、昨日までずっと物乞いをしてきたのだから、急にアイテムを持ってきて売ろうとしたら、絶対に不審がられる。
それを自分が作った、なんていうと絶対に信じてくれない。物乞いで貰ったアイテムを売りに来た、そう思われても仕方がない。
ここでは、私の信用がないから……。
「どうしたの、リマ?」
「えっと、売りに行くのが怖いなって思って……」
「それだったら、私に任せて! 上手に話して売るからさ!」
「えっ……エルリカが? ……そんな、ダメだよ。喋る猫なんて絶対に怪しまれる」
喋る猫のエルリカが出て行ったら、きっと騒動になる。エルリカの存在だけでも、騒動になりそうだし、それを連れているのが物乞いのリマってだけで不審な目で見られるのは明らかだ。
「エルリカは絶対に喋らないで。どんなことがあっても。私で売ってみせるから」
「本当に? 無理してない? ……そこまでいうのなら、私は喋らないけれど……」
「ありがとう……。さぁ、行こう」
とにかく、これが売れなければ、私はここではアイテムが売れなくなる。そうなると、結局物乞いに戻ってしまう。
ようやく普通の生活が送れそうなのに、こんなところでめげてちゃダメだ。とにかく、やってみなければ始まらない。
私は通りを歩いて、道具屋を探した。通りを歩いていると、ちらほらとこちらを向く視線を感じる。だけど、すぐに興味を失って視線が逸らされる。
普段なら怪訝な顔をされるのだが、体と服が綺麗だから、普通の子供に見えるらしい。来ているシャツも、丈が長いためワンピースに見えているのかもしれない。
ちょっと初めての体験で落ち着かない。ドキドキしながら歩いていると、道具屋の看板が見えてきた。
その店の前で深呼吸をして、心を落ち着かせる。そうして、店の中に入って行った。
「いらっしゃい」
入ると普通に声をかけられた。いつもはそんなことがないのに、驚きだ。私は真っすぐにカウンターに近寄って行った。
「あの……これを売りたいんですけど」
「はい、なんでしょう。……ほう、ポーションか。これは、どうしたの?」
「……売るように言われました」
ここで正直に自分で作ったって言わない方がいい。そしたら、色々と疑われて大変な事になる。
すると、店主がポーションを手に取って、検分を始めた。
「ふむ、見たところ普通のポーションみたいだね。でも、瓶が良い物だ。瓶だけでも価値がありそうだな」
「……売れますか?」
「あぁ、これだったら問題なく売れるよ」
よ、良かった……問題なさそうだ。ホッとしていると、店主の顔がこちらを向いた。そして、私の顔をジッと見始めた。
瞬間、緊張が走った。思わず顔を俯かせていると――。
「あっ! お前、物乞いのリマだな!」
やっぱり、バレてしまった……。恐る恐る、顔を上げると――怪訝な顔をした店主がいた。
「物乞いで貰ったアイテムを売りに来たのか! なんて、卑しい奴だ!」
「……」
「お前からなんか、アイテムは買わん! さっさといなくなれ! 店が汚れちまう!」
ポーションを押し付けられ、肩を押される。その衝撃で尻もちを付いてしまったが、負けずに立ち上がる。
「物はちゃんとしてます。売れないでしょうか?」
「物はちゃんとしていたが、お前が売るんだったら買わん! お前に施すものは何もない! さっさと出ていけ!」
鋭い剣幕で怒鳴られた。それでも、諦めたくない。どうにかして説得しようとしていると――。
「衛兵を呼ぶぞ!」
「……失礼しました」
その言葉に私はポーションを売るのを諦めた。衛兵に突き出された後は、牢屋に入れられるから。その後は噂では酷い目に合うって聞いたことがある。
そっと店を出て、通りを走る。そして、誰もいない路地に入ると、その場にしゃがみこんだ。
「……ダメだった」
身なりを綺麗にしても、ダメだった。それだけ、私はこの町では鬱陶しい存在らしい。
「リマ、大丈夫?」
すると、エルリカが擦り寄ってきた。尻尾で私の頬を撫でてくれる。それだけで慰められて、心が落ち着いた。
「ありがとう、エルリカ。へへっ、ポーション……売れなかったね」
「なんて酷い人だ! 物はちゃんとしているのに、買い取らないなんてどうかしている!」
「仕方ないよ……。私、この町では物乞いのリマって有名だから……」
そう、この町では有名になりすぎた。毎日のように物乞いをして、恵んでもらっていたから……。恵んで貰っていた身からすると、あまり強くも出れない。
だって、働けなかった私が悪いから。恵んで貰うしか能がない子供だったから。今更、アイテムを売ろうなんて、むしが良かったんだ。
「リマ、他の店に売りに行こう! そこでなら、きっと売れるよ」
「……ううん、他の店でも同じだと思う。私だと気づかれると、きっとアイテムは売れないよ」
もう、私は変われないのかな。ずっと、このまま物乞いとして生きていくしかないのかな。
そう思っていた時――。
「――分かった。じゃあ、この町を出よう」
エルリカの言葉に息を呑んだ。この町を……出る?
「リマを受け入れてくれる新しい町に行くんだ。そうしたら、きっと上手くいく」




