6.居場所を守るために
「綺麗になった?」
「うん、大丈夫。洗うのが上手なんだね」
「えへへ」
スポンジで洗ったお皿を見せると、エルリカが満足そうに頷いた。水ですすぐと水切りの中に立てかける。
「本当は魔法で綺麗にしても良かったけれど、まずはリマには生活の基礎を身につけさせなくちゃね」
「うん。普通が良く分からないから、ちゃんと教えて欲しい」
むん、と力こぶを見せた。まずは普通を学ぶんだ。
「偉いよ、リマ。じゃあ、今日は何をしようか」
「……あっ! お仕事しないと!」
「仕事? まぁ、それも必要だね。ちなみにどんな仕事をしているの?」
「物乞いだよ」
「……えっ」
すると、エルリカの表情が固まる。しばらく、何も喋らなかったけど――。
「も、物乞いって何をするの?」
「お金を恵んでくださいってお願いするの」
「そ、それは止めておこうか」
「でも、食べるものが……」
「食べるものならここにいっぱいあるから! なんなら、宝石とか金銀とか売っても構わないから!」
必死の様子でエルリカが訴えかけてきた。だけど、それは出来ない。
「でも、私なんかが高級な物を売るのは出来ないよ? だって、物乞いがそれを持っていたら、盗んだものだって思われちゃう」
「えっ、まぁ、そういう危険もあるか」
「それに、たくさんものがあるって言っても、いずれはなくなっちゃうでしょ? そればかりに頼っていちゃ、ダメだよ」
「うっ……リマって結構しっかりしているね」
そう。ある物はいずれ無くなってしまうし、無限ではない。だから、悠長にしていたら、後で困ったことになる。
その為にも、働かなきゃいけない。
「でも、物乞いはしちゃだめ。他の仕事はしてなかったの?」
「ゴミ漁りとか、ドブさらいとかだったらしていたよ」
「うっ! その話を聞くと、胸が痛くなる」
物乞いだけではやっていけなかったため、他のこともしていた。汚かったけれど、普通に働けない私はそんな事をしないと生きていけなかった。
「物乞いがダメだったら、そっちをやるけど……」
「ダメダメダメ! そんなことはもう、しちゃいけません!」
「でも、私……他の仕事が出来ないよ?」
それがダメだったら、私はどうやって生きていけばいいのだろうか? 私を働かせてくれる人はいないのに……。
すると、エルリカが目を瞑って唸る。
「うーん。仕事かぁ……そうだ! ケンジみたいにアイテムを作って売ればいいんだよ」
「アイテムを売る?」
「ケンジから能力の譲渡をされたんだよね? そしたら、錬金術も魔道具作りも出来るはずだよ」
あのおじいさんから渡されたのは、箱庭や魔法だけじゃなかった? 物作りの能力も私には備わっているってこと?
「ちょっと、アイテムづくりしてみたい?」
首を傾げて尋ねてきた。私は自然と頭を縦に振っていた。
◇
「こんな草が本当に薬になるの?」
「そうだよ。これは一般的に使われている傷回復薬、ポーションっていうものに変わるんだよ」
私は箱庭の森に行って、ポーションの材料となる薬草を籠いっぱいに取ってきた。
家に入ると、一階の奥の部屋へと入って行く。扉を開けると、そこは広い部屋。大きなくぼみがあったり、大きな机の上には見慣れない器具がたくさん並べられていた。
「さぁ、調合を始めよう。ケンジの能力を受け継いだなら出来るはずだよ」
そう言って、エルリカは机の上に乗った。そして、必要な器具を指し示した。平たい四角い物と透明なガラス瓶だ。
「小型のコンロとビーカーさ。これと薬草があれば、ポーションが作れる」
「へー、そうなんだ。私にも出来るかな?」
「出来るよ。だって、知識は受け継がれているんだから。思い出す要領で作ればいい」
思い出す? 知らないのに、本当に出来るんだろうか? 不思議に思いつつも、ポーションの作り方について思い出してみる。すると、知らない知識が浮かんできた。
「あっ、分かるかも」
「そうでしょ? この作り方なら簡単だし、初挑戦のリマにも出来るはずだよ」
「うん、やってみる」
やる気が出てきた。ビーカーを手に持つと、流し台に行き、蛇口から水を入れる。そのビーカーを小型コンロの上に置き、スイッチを押した。すると、火が出て煮立っていく。
「えーっと、薬草は……これくらい?」
記憶の通りに薬草を入れる。そうして、近くにあった混ぜ棒でグルグルと混ぜる。
「その調子。そこで錬金術を発動させるんだ」
「う、うん……」
初めて使う力。ドキドキしながら集中していると、自分の中で力が出てきた感じがした。その力を混ぜ棒に宿らせると、お湯の色が変わってきた。
確か……薬草の成分が出てきている合図だ。その成分がちゃんと全部出るまで、よーく錬金術を発動させる。すると、成分が出なくなった。
「出来た!」
「……うん。鑑定で見たけど、ちゃんとポーションが出来ているよ」
「本当? 初めての調合、上手くいって良かったぁ」
成功だと知ると、胸がホッとした。でも、こんな私でも難しい事が出来たなんて……おじいさんは本当に凄い人だったんだなぁ。
「さぁ、次はポーションを入れる瓶の作成だ。これは、魔道具を使うよ」
そう言って、エルリカは机の上を移動して、床に置かれた大きな箱の上に座った。
「そこの棚に材料が揃っている。その材料をこの穴に入れるんだ。入れる材料はガラスだよ」
「ガラスって、どれ? 私……文字が読めない」
「ケンジの知識があるはずだから、分かるはずだよ」
「……あっ! 分かった!」
凄い! 文字の読み方なんて知らなかったのに、全部分かる!
私は棚に並べられた箱のラベルを見て、ガラスの材料を取り出す。その箱を開けて、スプーンで材料を作って穴に入れた。
「じゃあ、次は転写魔石に手を置いて、イメージを移すんだ。すると、この魔道具が自動的にガラス瓶を作ってくれる。だけど、どんな瓶を作ったらいいか分からないよね。だから、最初は私がしよう」
エルリカは魔石に手を置くと、魔道具が音を立てて動き出す。しばらく待っていると、動きが止まった。
「さぁ、そこの扉を開けてみて」
言われた通りに扉を開く。すると、そこには小さなガラスの瓶が出来ていた。
「わぁ、凄い! 材料を入れただけで、出来ちゃった!」
「なんか、前世の3Dプリンターを再現した魔道具って言ってたよ。ここには、ケンジの前世で便利だったものが溢れているんだよ」
エルリカの言っていることはよく分からなかった。だけど、ガラス瓶がすぐに出来たことは凄いと思った。
そのガラス瓶を持って、机に戻る。そして、出来たポーションを中に入れると――。
「リマ、おめでとう。初めてのポーション作りの完成だよ」
初めて作ったアイテム。瓶を持ち上げて見てみると、キラキラと輝いているように見える。
すると、嬉しい気持ちがこみ上げてきた。こんな気持ち、初めてだ。
「えへへ」
自然と笑みが零れて、胸がいっぱいになる。私でも、出来たんだ!




