44.守った代償(2)
「今回もポーションをたくさん作れたね! ミレナはきっと大喜びだよ」
「うん。喜んでくれると嬉しい」
リュックにたくさんのポーションを詰めて、いつもの通りを歩いていた。お店に行ったらポーションを納品して、ちょっとお茶をして、もしかしたら一緒に夕食が食べられるかもしれない。
そんな希望を胸に抱いて、銀奏の屋根を目指した。
しばらく歩いて行くと、目の前に人だかりが出来ているのが見えた。一体、どうしたんだろう、とよくよく見ていると――銀奏の屋根の前に出来た人だかりだった。
ギュッと心臓が掴まれた衝撃が走った。もしかして、何か良くないことが起きている?
「……なんだろうね」
「早く行ってみよう」
エルリカと一緒に駆け出して行く。人だかりを縫って奥へと進む。そして、出入口が見える位置に来ると、そこからお店の中が見えた。
「えっ?」
その光景に目を疑った。店内は荒らされ、アイテムが乱雑に床に落ちていたのだ。いつもは綺麗に整頓されているはずなのに、一体どうしたんだろうか?
目を見開いてみていると、店の奥からミレナお姉さんが出てきた。また、頬に赤い痕を残して。
「す、すいません……。少しお客様といざこざがありまして。本日の営業は終了とさせていただきます」
困ったように微笑みながら、群衆に向かってお辞儀をしていた。その中から何人かは心配して声をかけたが、ミレナお姉さんはなんでもないと首を横に振るだけだった。
だけど、それを見て私は黙っていられなかった。
「ミレナお姉さん、一体何があったんですか?」
「……あっ、リマちゃん。な、なんでもないのよ……本当に」
「で、でも……」
「リマちゃんは心配しなくてもいいの。これは私の問題なんだから。今日はこのまま帰ってもらってもいい?」
申し訳なさそうにそう言ってくるミレナお姉さん。そう言われたら、強くは出れない。でも、このまま去るのは――。
「ちょっと待って。ミレナは何か隠しているでしょ」
その時、ずっと黙っていたエルリカが喋った。よりにもよって、内緒にしていたミレナお姉さんの前で。
「えっ? エルリカちゃん?」
「あっ、あっ……」
「ここは見過ごせないよ。ちょっと、中で話そうか」
そう言って、エルリカがずかずかとお店の中に入って行く。それを見た私たちは素直に従った。
お店の中に入り、扉と鍵を閉める。
「リマに内緒は駄目。隠したままだと、リマが心配しすぎて死んじゃう」
「いや、流石に死ぬってことは……って! エルリカ、喋ったら!」
「もう、リマもリマだよ。うじうじしちゃだめ。もっとガツンといかないと!」
エルリカはガツンと行き過ぎだよ! どうしようかとオロオロしながら、ミレナお姉さんを見る。ミレナお姉さんは驚いているようだけど、落ち着いているように見える。
「エルリカちゃん、喋れたのね……」
「リマの世話もしているんだよ! って、今はそんな話しじゃない! ミレナはリマに何かを隠している。それを正直に言って!」
エルリカがミレナお姉さんに詰め寄ると、とても気まずそうに顔を歪めた。それを見るだけで、隠していることがあるんだと感じて胸が痛む。
「ミレナお姉さん……正直に話してください。じゃないと、心配でミレナお姉さんを一人になんて出来ません」
「リマちゃん……。リマちゃんには辛い話になるかもだけど、大丈夫?」
「……はい」
強く頷くと、ミレナお姉さんは勇気を振り絞るように深呼吸をした。
「先日から、お店に嫌がらせをしてくる人が出てきたの。でね、その人の目的が――リマちゃんをベルネルゼ商会に引き渡せっていう要求を突き付けてきたわ」
「あのヤバい商会から目をつけられたのか……」
「リマちゃんが紹介されるのを断ったじゃない? だから、私はその要求を呑めないって言ったの。そしたら、嫌がらせがどんどんエスカレートしていって……」
……そんな。私は紹介を断ったせいでミレナお姉さんが大変な目にあったの? それってなんか……胸が痛い。
「リマ、大丈夫? リマのせいじゃないんだよ。全部、ベルネルゼ商会が悪いんだよ」
「そうよ、リマちゃんは悪くない。このままリマちゃんの事は守って行こうと思うわ。あんな商会にリマちゃんは渡せない」
「えっ……? で、でもそれじゃあ! ミレナお姉さんのお店が大変な事になります!」
「覚悟の上よ。断り続けたら、きっと相手も諦めてくれるわ」
強い目をしてミレナお姉さんはそう言った。でも、それって――諦めるまでミレナお姉さんが嫌な目に合うってことだよね?
そんなの絶対に嫌。
でも、どうする? ベルネルゼ商会には入りたくないし……何か良い手段があればいいんだけど……。
「町の役人に相談してみるのはどう? 守ってくれるんじゃない?」
「……ベルネルゼ商会は町に貢献しているから、町に言ったところで何かをしてくれる訳ではないわ。それどころか、私を責めるでしょうね」
「そ、そんな酷い……」
町の方も何もしてくれない? そんなことってある? でも、それだけベルネルゼ商会が力を持っているってことだよね。
……やっぱり、どこへ行っても力は強い。どれだけ正しくても、全部力の前に屈しちゃう。
でも、だからってミレナお姉さんを見捨てるわけにはいかない。何か、何か手を打たないと。
「ははーん、そういうタイプの商会なんだね。そしたら、搦め手を使うしかないか」
その時、意地の悪い顔をしてエルリカが頷いた。もしかして、エルリカに何か案があるの?
「エルリカは何を考えているの?」
「そりゃあもちろん、ベルネルゼ商会を潰す算段だよ」
「……そうすれば、ミレナお姉さんは助かる?」
「もちろん! 目障りな商会がいなくなって、みんなが幸せになれるよ!」
みんなが幸せになる……。だったら、その手を使いたい。
「エルリカ、私たちでやろう」
「もちろんだよ! 平和な日常のために、ここは行動しなくっちゃ!」




