表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~  作者: 鳥助
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/47

43.守った代償(1)

 みんなと一緒にダンジョンへ潜り、素材を採取して町へ戻れば、他愛もないお喋りに花を咲かせる。屋台で焼き串や甘いお菓子を買って食べながら笑い合う、そんな何気ない時間が何よりも楽しかった。


 翌日は箱庭の家に籠り、のんびりとポーション作りに励む。


 完成したポーションを銀奏の屋根へ納品すると、ミレナお姉さんが温かく迎えてくれる。


 仕事の話をしたり、新しい薬草について教えてもらったり、ときにはお茶を飲みながら世間話に花を咲かせたり。


 気づけば、帰る時間が惜しくなるほど、そのひとときは心地よいものになっていた。


 スラムで生きていた頃は、明日を迎えられるかどうかだけを考えていた。お腹を空かせないよう必死に物乞いをして、誰かに頼るしか生きる力がなかった。少しでも油断すれば理不尽に殴られることだって珍しくなかった。


 だからこそ、今の毎日は夢みたいだった。


 安心して眠れる家がある。一緒に笑い合える仲間がいる。自分の作ったポーションを喜んでくれる人がいる。温かいお茶を飲みながら、何気ない話で笑い合える相手がいる。


 そんな当たり前の毎日が、私にとっては何よりもかけがえのない宝物だった。ずっと、この時間が続けばいい。心の底から、そう願っていた。


 ◇


「ミレナお姉さん、こんにちは!」


 元気よく声を出して、お店の中に入る。カウンターに一直線に向かうと、そこにはミレナお姉さんがいた。だけど、こちらには気づかない。


 頭を抱えて、辛そうにしていたから。


「ミレナお姉さん? どうしたんですか?」


「えっ、あぁ……ごめんなさい。リマちゃん、来てたのね」


 尋ねてみると、笑ってくれた。だけど、その笑顔に力がない。何かが頭から離れていないような、そんな感じだ。


 その後、ミレナお姉さんはお店の奥へと私を連れていき、そこでポーションの納品を済ませた。普通ならここで雑談をするのだが、ミレナお姉さんは辛そうに顔を歪めるだけだった。


「今日は体調が悪いんですか?」


「え、えぇ……そうなのよ。ちょっと、働きすぎたのかしら。ごめんなさい、今日はお茶を出せそうもないわ」


「いえ、大丈夫です。もし、辛そうなら少しお手伝いしますか?」


「えっ!? いや、リマちゃんにそんなことはさせられないわ! そしたら、リマちゃんにも危険が!」


「……危険?」


 危険ってどういうことだろうか? 不思議に思って尋ねると、ミレナお姉さんが「しまった!」という顔をして気まずそうにした。


「えっと、ちょっと危ない冒険者が来たのよ。だから、お店にリマちゃんがいると、嫌な気持ちにさせてしまうから」


「そんな人が来てたんですね……。何か、協力出来ることがあればいいのですけれど……」


「大丈夫、気にしないで。リマちゃんはいつも通りでいいから」


 そう、笑ってくれたけれど……やっぱりいつもの笑顔じゃない。それ以上、話を聞くような雰囲気ではなかったため、私はお店を出ようとした。


「――リマちゃんは必ず守るからね」


 そんな言葉が聞こえたような気がした。


 ◇


 ミレナお姉さんのことで不安が大きくなる。何もなければいいのだけれど。そう思って、再びお店へと入った。


「ミレナお姉さん、こんにち――」


 カウンターにいき、挨拶をしようとすると――言葉が詰まった。


「いらっしゃい、リマちゃん」


 笑顔のミレナお姉さんの頬が赤くなっていて、少し腫れあがっていた。


「ど、どうしたんですか!? その頬!」


「頬? ……いたっ」


 まるで、気づいていないかのように頬を触った。今気づいたかのように、戸惑った顔になる。


「あっ、こ、これは……多分ちょっとぶつかったせいよ」


 言葉を濁しながらそういうけれど、赤く腫れあがっている部分が人の手のように見えた。どうみても、ぶつかった怪我ではない。


「私のポーションで治してください!」


「えっ? いや、それは大事な商品だし……そういう訳には……」


「私が心配なんです。その……迷惑ですか?」


 私のこの気持ちはお節介で迷惑なのかもしれないけれど、その怪我は放っておけない。真剣な目で見つめてポーションを差し出す。


「……ありがとう。でも、これは私が買い取らせてもらうわね」


「早く飲んでください」


 そういうと、ミレナお姉さんはポーションを飲み干した。すると、頬の腫れと赤みがスゥっと消えていく。


「……どうですか?」


「えぇ、痛みはなくなったみたいだわ。リマちゃんに心配かけてしまってごめんなさい」


「でも、一体どうしたんですか?」


「えっと……ちょっとお客さんの喧嘩になっちゃったのよ。本当にそれだけだから、気にしないで」


 何でもない。そう言いたいような態度だ。明らかに私には関わって欲しくない様子に見える。


「何か力になれることはありますか?」


「大丈夫よ。お客さんと関わっていれば、いずれこういうこともあるのよ。だから、平気よ」


 にっこりと笑って、心配しないようにしてくれる。だけど、前の事もあったし心配だ。でも、私に一体何が出来るのだろうか?


「ポーションを持ってきてくれたんでしょ? お店の奥で受け取るから、一緒に行きましょう」


 ミレナお姉さんがいつも通りに対応してくれる。それが、少しだけひっかかった。やっぱり、何か隠している。


 その後も、それとなく話を聞き出そうとした。けれど、ミレナお姉さんは「大丈夫だから」の一点張りだった。


 笑顔を崩さず、いつも通りに振る舞う。その笑顔が優しいからこそ、胸が苦しくなる。絶対に何かを隠している。


 だけど、それ以上踏み込ませないように、優しく線を引いているのも伝わってきた。


「……じゃあ、また来ますね」


「えぇ。またいつでもおいで」


 最後まで笑顔で手を振るミレナお姉さんに見送られ、私は銀奏の屋根を後にした。


 店を出ても、足取りは重い。胸の奥に引っかかった小さな棘が、どうしても取れなかった。


 何かがおかしい。何か、大変なことが起きている。そんな気がしてならない。


 それでも、本人が話してくれない以上、無理に聞き出すことはできなかった。


 私にできることなんて、きっと何もない。そう自分に言い聞かせながら、家路につく。その日の夕暮れは、やけに空が赤かった。


 まるで、嫌なことが起きる前触れのように。


 そして数日後――私は、その「何もできない」という考えを、心の底から後悔することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載!

ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~

魔力1令嬢と欠陥王女は魔法が使いたい! ~誰も使えない古代魔法で人生逆転します~

旧作

転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

追放を計画的に利用して自由を掴んだ王女、叡智と領地改革で無双する

転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした

スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜

ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる

元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~

異世界喫茶で再出発ライフ

ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する

推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする

過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった

この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

コミュ障クラフターの私、引き継いだ能力が異世界では規格外すぎて無自覚に無双してしまう件~地味に暮らしたいだけなのに、なぜか注目されて怖いんですが~

スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ