41.ベルネルゼ商会潜入(2)
建物の中を進んでいき、色んな部屋の様子を見た。部下を怒鳴り付ける上司がたくさんいて、雰囲気は最悪だった。しかも話を聞くと、部下が悪いわけではないのが良く分かった。
どこも商品の品質が悪く、苦情がたくさん入っていて、それを全部部下になすりつけているみたいだ。そういうのって、悪いのは上の方じゃないのかな?
そんな疑問を抱きながら、どんどん商会の本当の顔を見ていく。
「なんか、どこも売り上げが悪いみたいで、お店の経営も良くはないみたいだね」
「これが迷宮都市一の商会? 全然イメージと違うよ」
「もっとお金が儲かっていて、みんな幸せって思っていたけど……違うね」
迷宮都市一の商会だけど、実情は全く違った。この様子だと、商品を卸している錬金術師の待遇も悪そうだ。
でも、その現場を見ないことにははっきりとしない。その現場を見たくて先に進んでいると、後ろから人が近づいてきた。
思わず廊下の端に寄って、道を譲る。その人は虚ろな目で重そうなカバンを背負っていた。
「あっ、この人は錬金術師じゃない? それっぽい、ローブを着ているよ」
こそっとエルリカが耳元で話す。確かに、錬金術師っぽい見た目をしている。
「じゃあ、この人の後を追えば――取引現場が見れる?」
「うん、きっとそうだよ。カバンが重そうなのも、商品が入っているからだよ」
だったら、この人について行けばいい。そう思って、その人の後ろについて歩いて行く。すると、その人は一室の前に立ち止まり、ノックをした。
中から声を聞こえてくると、扉を開けて中へと入る。私も気づかれないように中へと入った。
すると、部屋にいた目付きの厳しい中年の男性が錬金術師を睨みつける。
「随分と遅かったではないか。いつまで、待たせればいいんだ? 取引する商品は減額する」
「そ、そんな! 約束通りには間に合いましたよ!?」
「専属契約しているんだから、早く納品するのが当たり前だろう。舐めているのか?」
中年の男性は机を指で叩きながら、露骨にため息をついた。
「まったく……。お前は毎回期待を裏切ってくれるな」
錬金術師は慌てて背負っていたカバンを机の上に置き、中から丁寧に商品を取り出す。
「きょ、今日は品質にも気を遣って作りました。どうか、ご確認ください」
中年の男性は無言で商品を手に取り、あちらこちらと眺めた。そして、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「……駄目だな」
「えっ?」
「品質が悪い」
その言葉に、錬金術師は目を見開いた。
「そ、そんなはずありません! 鑑定でも標準品質と判定されました!」
「だから何だ?」
中年の男性は鼻で笑う。
「専属契約を結んでいるんだぞ? 普通の品質で満足してどうする」
「で、ですが……標準品質なら契約内容は満たして――」
「馬鹿者! 専属契約というのは、普通以上の商品を優先して卸すのが当たり前だ! そんなことも知らんのか!」
机を叩く音が部屋中に響いた。錬金術師は言葉を失う。
「これだから商売に疎い人間は困る。お前たち職人は、物を作ることしか頭にない」
中年の男性は心底呆れたように肩をすくめると、一枚の紙を取り出した。さらさらと数字を書き込み、そのまま錬金術師へ突きつける。
「今回の支払いだ」
「……え?」
紙を受け取った錬金術師の顔が、一瞬で青ざめた。
「こ、こんなの……!」
震える声が漏れる。
「半額……? な、なぜですか!? こんな金額では生活できません!」
「理由なら説明しただろう」
中年の男性は椅子にもたれ掛かりながら、指を一本ずつ立てていく。
「納品が遅い。品質が悪い。それに、お前を養ってやっているのは誰だ?」
冷たい視線が錬金術師へ突き刺さる。
「商会が買ってやるから、お前は飯が食えるんだ。だったら、黙ってこちらの言うことを聞け」
「で、ですが……!」
「口答えするな」
ぴしゃりと言葉を遮る。
「お前みたいな奴を、他にどこの商会が雇う?」
錬金術師の肩がびくりと震えた。
「腕は平凡、商売も知らん。そんなクズを雇ってやっているだけでもありがたいと思え」
中年の男性は見下すように鼻で笑う。
「感謝こそすれ、不満を言う資格などない」
部屋の中は静まり返った。錬金術師は紙を握り締めたまま俯いている。唇を強く噛み締め、その手は悔しさで小刻みに震えていた。
それでも生活のためなのか、反論の言葉は出てこない。その姿を見た私は、胸の奥がじわりと熱くなるのを感じた。
……酷い。これは取引なんかじゃない。一方的な搾取だ。この商会と専属契約をしたら危ない。絶対に契約は結ばないでおこう。
錬金術師が肩を落として部屋を出ていくと、私も部屋を出た。




