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切ったのですこし短くなってしまいましたが…
お付き合いください。
どこか心地よく、ふわふわとした感覚だと思った。物事を正確に捉えることができず、ただ、目の前のジークハルト様を見つめている。
「…でん、か」
「ごめん…」
乱れた呼吸のもとで声をかけると、ジークハルト様は名残惜しげに唇を離す。そして今度はぎゅう、と体を抱きしめられた。
「…俺は、リーファを……」
西門に連れて行きたくない、と囁くように告げられた。闇を映すような瞳からは隠しきれない感情が伝わってくる。
「…行くな、と仰いますか?」
思わず拗ねたような声色になった。
「私は、私の大切なひとを取り返しに行きたい。それと、大切な……殿下…を私なりに守りたいと思います」
ジークハルト様もジークハルト様なりに、私を守ろうとしてくれていることは分かる。でも、それは必ずしもジークハルト様からの一方通行な考えではないことを忘れないでほしい。
そんな私の言葉にしばらく面食らっていたジークハルト様は、小さく吹き出すと、わずかに肩を震わせて笑った。私はむぅ、と膨れっ面になって抗議の意を向けるがあまり意味はない。
「笑うなんて、ひどいです…」
ごめんごめん、とひとしきり笑うとジークハルト様は私の頬を指で軽く撫でた。
「…俺が言いたいことを全部言うな」
ほとんど聞き取れなかった呟きの意味を図りかねて首をかしげると、形の良い唇が弧を描く。
「……それ以上俺を試すような真似はしないほうがいい」
あっと言う間に、また腕の中に閉じ込められて先ほど見ていた唇が降ってくる。二度、三度と、とめどなく降り注ぐキスに息は再び荒くなり、ほとんどジークハルト様に寄りかかるような体勢になってしまった。きっと、ジークハルト様の腰に回された腕が離されると私は崩れ落ちてしまうだろう。
「……っ…ん」
さらに口づけは深くなる。立つこともままならないほどになると、ジークハルト様はいきなり私を横抱きに抱えた。
「えっ??!」
決して軽くはないはず、の私は必死に抵抗する。
「むっ、無理です!重いですので降ろしてくださいっ!」
「そんなことはない。むしろ軽すぎる。…ちゃんと食ってるのか?」
「きちんといただいております!…ってどちらへ行かれるのですか!?」
「……西門だろう?」
は、と不意を突かれた。そこに先ほどまでの艶めいた気配はなく、ただしっかりと前を向いて歩くジークハルト様の姿があるだけだ。そんな彼に見惚れる自分の邪念を押し出すと「…よいのですか?」も問いかける。
「愛しい我が妃の願いならば。……なんてな、1人で暴走されるのは俺が嫌なんだ。それに、『俺はリーファを泣かせない』」
優しいその言葉に私は泣きそうになった。でもそれをぐっと堪えると精一杯笑う。だけど、泣き笑いのような顔になってしまった。
「何でも一人で抱えないでほしい。…こういう風に、俺も一緒にいることを忘れないでほしい」
すっぽりとわたしを抱えてしまえるほどのジークハルト様の腕は、その歩みのように力強い。言い様のない安堵感と、直接伝わってくる愛おしさは私が感じたことのないものだった。
「…もう、離さないでくださいますか…??」
この手を、…ジークハルト様を失ってしまえば、私は今度こそダメになってしまう。
「…離してほしいと言われても、もう離さない。…絶対にだ」
はい、と頷く私の声は少しだけ震える。
西門はジークハルト様の執務室からそう遠くない。目を凝らすと、人影は視認できる。
「…兄上とヒューが今は指揮をしているはずだ。俺は西門の裏側から回って、マシューを挟む手筈になっている」
ジークハルト様から降ろしてもらい、窓に張り付くようにして西門を見た。様々な人が輪を作って───中心にいる幾人かを取り囲んでいる。
「…っ、アリサ!」
そして、その中にいるアリサを見つけた私は思わず声をあげた。
「早く、…行かなきゃ…!」
ここからでは、表情は遠すぎてわからない。アリサが泣いているのかさえも、わからないのだ。無事でいて、と祈ることしかできない私は無力を噛みしめる。
「あぁ。行こう、リーファ」
そう言って手を伸ばしてくれるジークハルト様は、まるで「心配するな、大丈夫だから」と言っているようで。
私はその手を迷わずに取った。
◆◇◆◇◆◇◆
たどり着いた西門の周辺は奇妙な静けさの中にあった。
しかし、足を進めるごとに騎士や兵士の放つ鋭い殺気が満ち満ちていく。多くのひとが集まり、その矛先を 向ける先にアリサがいるのだと思うと自然と足は早くなった。いつものように首に下げた宝珠に軽く触れて、どうか、と願う。
私の大切な人たちを護ってください、と。
すると突然、宝珠が熱を持ち、強い光を放ちながら輝く。
「…きゃっ…!」
いきなり声を上げた私に前を歩くジークハルト様は驚いて振り向いた。そして、二人して強い光に目を眇めているとある瞬間にフッと視界が明瞭になる。
「…何なんだ、今のは……」
私の手の中を見つめたジークハルト様はそう呟いた。
先ほどの熱と光が嘘のように一瞬で消えた宝珠は、いつものように不思議な輝きをもってそこにあるだけだった。その現象に『持ち主の強い願いを一つだけ叶える』という母から伝えられた宝珠の力が頭の隅をよぎる。
「…いえ、…私にも何が何だか、わかりません」
まさか、とは思いながらも、徐々に開いていく大きな西門の前では些細なことだった。
大変お待たせしました。
遅くなってしまい、本当に申し訳ありません…。
12/13、ラストの内容を変更しました。




