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愛している。
誰が、誰を?言葉のままに受け取ってしまうと、まるでジークハルト様が私のことを「愛してる」と言ったかのように聞こえる。
かつてないほどの混乱に見舞われた私は単純なことしか考えられなくなっていた。畏まったままのジークハルト様は動かないが、私とて何かを返さないといたたまれない。
「…わたし、は」
ひゅっ、と乾いた息を呑む。視界がわずかに滲んだ。
「ごめんなさい。……その気持ちだけで、十分です」
心が引き裂かれるように痛んだ。本当は「同じ気持ち」を伝えたい。…でも、できなかった。
「……なぜ?」
深く問いかけるような声色だった。決して、そこに責めるような気配はない。
「私は、また…。失うかもしれないから…」
思い出されるのは遠い記憶だ。まだ父が健在で、普通の幸せに満ちていたあの頃。そして、あの日を境に全てがなくなってしまったこと。
「こわい、こわい、こわい……。また、みんなが私から離れていったら??大切で、大好きな人がもう会えないところにいっちゃったら??あんな悲しい思いをするのなら…、もう誰にも心を許したりなんかしたくない…」
それはずっと私の心の中を支配していた暗い思い。変わりたいと願いながら、そんなことはしたくないと目を背けていたことだ。ぎゅっと、自分の腕で体を抱きしめる。
「もう嫌なの…、今度はアリサがどこかへ行ってしまったから……。どうして、私は、…みんなが離れていっちゃうんだろう……」
積もり積もった思いを吐露していくうちに、涙が溢れる。こんな私は、誰にも見せたくなかった…。
「…それは俺のことを憎からず思ってくれる、ということか」
長く沈黙を守っていたジークハルト様は、しばらくして声を絞り出した。そこで私は自分の零した言葉に瞠目する。失いたくないほど大切な人──────会話の中でジークハルト様を示すのだと、いとも簡単にわかってしまう。
いたたまれなくなった私は視線を彷徨わせ、しばらくしてからまっすぐにジークハルト様を見つめた。
「…ジークハルト殿下、あなたが好きです」
囁くように小さな声だった。結局伝わっているなら言ってしまえ、と思い切った。しかし、まっすぐにジークハルト様を見ていられたのはほんの一瞬。後を追うようにして、ぶわぁっと羞恥が襲ってくる。真っ赤になった私は顔を手で覆って床にへたり込んだ。
「…もうずっと、ずっと。気付いたときにはもう……好き……でした」
小さすぎる告白は、ちゃんとジークハルト様の耳に届いただろうか。告白がこんなにも難しく、勇気のいることだなんて知らなかった。指の隙間からちらりとジークハルト様を見ると、見たことがないぐらい自然な表情をしている。
「……本当、か?」
ちゃんと、聞き取ってくれた。
そのことが嬉しくて、でもどこか気恥ずかしくて。
「……はい」
好き、と口の中で呟くとそこから気持ちが溢れてくるようだ。誰かを好きになるのは辛いことでも苦しいことでもない。私はようやくそれが実感できたような、そんな気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一世一代の告白は、頑なだった彼女の心を溶かしたように思えた。実のところ、「ごめんなさい」と拒絶されたときは世界が音を立てて崩れていくようだった。だが、その後にリーファが零した言葉に一筋の光が射したような気がする。
他人のぬくもりを望みながら、本当は触れることを恐れている。
リーファのそんな不安定な心は、長年にわたり彼女を苦しめてきたものだったのだろう。手を伸ばしては遠ざかる人々に辟易して、ついには手を伸ばすことを止めた。
平静を装うリーファに皆が安心して甘えていた部分もあるのだと思う。これは俺の勝手な推測だが、「この子は親を亡くしても強いのだ」と、大人の価値観を押し付けられたこともあり得る。いつしか壊れてしまうような、そんな心にリーファ自身でさえ気づかなかったのかもしれない。
リーファは、十分に苦しんだ。十分に泣いた。だから、せめて。
「俺はリーファを泣かせない。何があっても守る。何もかも、全て─────」
リーファの瞳からは大粒の涙がはらはらと溢れる。泣かせない、なんて言ったのにこれでは意味がないではないか。彼女の頬を流れる涙を拭っていると、その手がリーファの手と重ねられる。不思議に思ってじっとしていると、空色の瞳を愛おしげに細めた。
「…私、やっぱり殿下を好きになれてよかった」
ぐらり、と理性が揺らぐ。衝動のままに動いてしまうのはダメだ。否、今ぐらい構わないかもしれない。
ぐっ、と腕を引きすっぽりと腕の中にリーファが収まった。柔らかな香りのする銀髪に鼻先を埋め、なんとも言えない幸福感に酔いしれる。おずおずとぎこちなく背中に回されたリーファの腕が堪らなく愛しく思えた。
「あの…、」
「ん…?」
「…ずっと、お側にいさせてください。こうしてると、とても安心して…幸せな気持ちになるのです」
彼女はどれだけ理性を試してくれるのだろうか。無自覚だからなおさら性質が悪い。だが、そんな嬉しいことを言われては堪らない。そもそも、そういうセリフは男が言うものではないか。
「…同じだな」
またその華奢な体を抱きしめる。愛しい存在はどこまでもあたたかい。
「…約束しよう。リーファの前ではただのジークハルトとして、ずっと側にいる」
抱擁を解いて、リーファの頬を優しく包む。潤む空色の瞳はただ真っ直ぐに喜びを伝えてくる。リーファは俺へと手を伸ばした。
「…私も約束します。ずっと、ずっと側に─────」
自然と重なった互いの唇によって、その先の言葉は紡がれることはなかった。だが、もう言葉は必要ない。唇から、瞳から、表情から、触れ合う場所から、手に取るように気持ちが伝わってくるのだから。
予約投稿をしてるはずで出来ていなかったという…。諸々、すみませんでした。_(;ω;`」_)_




