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第3話 2人のデート一日目―遊園地―

デート一日目、遊園地。


「ネコミーランド!」

「わーい!」

2人が訪れたのは、日本で一番有名なテーマパーク。

平日昼間、海にとって初めてのずる休みだった。


「なぐ…ナツキくん、まさか社会人だったなんて…」

「ふっふー!尊敬する?」

「する!」

海は元気いっぱいだ。

ナツキも初めてのテーマパークに内心の戸惑いを止める事はできていない。

しかし、そこには、紛れもない高校生カップルの姿があった。


ボルドーニットの赤とデニムスカートの青の落ち着いたツートンカラー。

財布とスマートフォン、化粧ポーチが入った鞄は淡いピンクのファーバッグ。


黒のワイドデニムと白いシャツ、その上から羽織る薄水色のカーディガン。

肩に掛けるキャンバストートには、ペットボトルが1本だけ入っている。


ナツキと海は不器用にもはしゃぎ方がわからなかった。

だからまず、売店で耳付きのカチューシャを買いに行く。


海はカチューシャの購入をナツキに頼み、バレないようにこっそりとキーホルダーを2つ買った。

ネコミーとネコミーの彼氏であるネコマーである。


ナツキは鍛えた周辺視野で海の動きを把握していた。

ターゲットを見失うことは殺し屋として死活問題だからだ。


「お、おまたせ、なぐ…ナツキくん…」

「うん、はいこれ」

ナツキの手からタグの外してあるネコミーカチューシャが手渡される。

海は両手で受け取るとうつむきながら、たどたどしく頭に着けた。


「あ…着けてる…」

顔を上げた海の頭上でピンクリボンが揺れる。

海の視界にはリボンの無い猫耳カチューシャを着けたナツキの横顔が映り込む。

海は無意識にその耳を、鼻筋を、目にかかる前髪を凝視した。


ナツキは行列を見ていた。

それは子供向けのアトラクションの中でも、大人も絶叫すると評判のフリーフォールライド。

待ち時間を示す立て看板には120分の表記があった。


「ニャワー・オブ・ニャー!

私乗ってみたい!」

カチューシャの話もしたかったな…

海はナツキの視線に同調して声を上げた。


「じゃあ並ぼうか

あ、猫耳似合うね

リボンもかわいい」

「ひゃぅっ!」

振り向き様のナツキの言葉に、海は小さな悲鳴で答えた。


「あ…あゃおの、なむみぅ…」

噛んだ?噛んだよね?私、いやでもそうじゃなくて…ずるい!

ずるいよ!それは!

海の頭は混迷を極めた。


「ほら、並ぼ」

優しく微笑むナツキの笑顔に、海は口をムッとつむいだ。


2人が列に加わってしばらく経った。

進んではいるが、列の人数は増えているように見えた。


並ぶナツキの姿勢は、その体幹からか、ただそこに居るだけの優雅さを演出した。

爪先から指の先まで意識が通ったように、無駄な動作がない。


海はそんなナツキの背中を見たせいか、自然と背筋が伸びていた。

毎日机に向かって背筋を伸ばす海もまた、スッと負担にならない正しい姿勢を意識せずに選んだ。


無言で佇む2人は当然のように、周囲の目を引いた。

ヒソヒソと聞こえるか聞こえないかの声量で、後ろに並んだカップルが囁く。


「前の子ハーフかな?

高校生?でも姿勢綺麗すぎるし、なんかの撮影だったり?

てかイケメンヤバ」

「は?そうかぁ?

普通じゃね?

ハーフっぽいけどさ

彼女の方は、まあまあ可愛いかな」

「いやきいてねーし」


海は耳まで温度が上がるのを感じたが、表情を崩さないよう、必死で堪えた。


………

……


風に合わせてカタカタと音を鳴らす窓枠。

園内に流れるインストはいつのまにか、穏やかな旋律を刻む。

オレンジ色に照らされるナツキの横顔のせいで、海は景色を見ることができなかった。


まもなく密室は頂点に達する。


今度目があったら、話すことがなくなったら、このご飯を食べ終わったら、次の行列に加わったら。

海はそうやっていて今、観覧車に乗っている。

キーホルダーのビニールは、鞄の中でカサカサと擦れた。


「あ、あはは…

けっこう揺れるんだねぇ…観覧車…」

「うん、怖い?」

「そ、そんなこと無いよ?

ナツキくんは…怖い訳ないよね」

「ん?」

「だって、ニャワーの時もすっごい無表情だったじゃん」

「あはは…見られてたんだ…」

「あ、あのさ!

こ、これ…買ったんだ…」

海やっとの思いで鞄から2つのキーホルダーを取り出した。


一方ナツキは、入園直後に買ったやつがやっと出てきたか、という思いを、奥歯で挟んで食い止めた。


「ネコミーとネコマーだ」

「うん、ポーズが対になってるんだよ」

「へぇ、ホントだ」

ナツキはじっと2匹の猫を見つめていた。


「それでね、1個貰って欲しいんだけど…」

「うん、ありがとう!」

ナツキがあっさりと手を伸ばしたことに、海は心に小さくトゲトゲを感じた。


海はナツキの手に乗せたネコマーから手を離さず、ふとナツキの頭の三角形を見た。

そしてネコマーとネコミーを入れ換えてから、手を離した。


「その…やっぱり私がネコマーがいい…かも…」

「え、うん、構わないよ

ありがとう」

海は手に持ったネコマーのビニールを剥ぎ取ると、慣れない手付きでスマートフォンのリングに取り付けた。


「ど、どう?」

海はスマートフォンを持ち上げてゆらゆらとネコマーを踊らせる。


「うん、いい感じ、似合ってる」

その時ナツキは気付いた。

スマートフォンは会社から貸与された物。

トートバッグもキーホルダーを取り付けるような作りになっていない。


嘘を付いても仕方がない。

ナツキは正直に話すことにした。


「海ちゃん、ごめん

実はスマートフォン、これ会社のなんだ…

だからキーホルダー付けられないんだよね…」

「え!そ、そうなの!?

あの番号も?」

「うん…実は…」

「そ、そうなんだ…

買わないの?

不便じゃない?」

「仕事ばっかだからね」

「そ、そっかぁ…」


観覧車はまもなく一周を終える。

辺りの夕焼けは、ライトアップの電球の光にすり替わっていた。

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