口コミサイトのレビュー記事
【タイトル】:味は三つ星、二人の空気感は……「ごちそうさまでした」
ここは、私が週に三回は通うお気に入りの洋食店。
看板メニューのハンバーグやオムライス、カニクリームコロッケは、どれを食べても一級品。
厨房でフライパンを振る店長(38)の腕は間違いなくプロだ。
だが、この店の本当の隠し味は料理だけではない。
店長と、フロアを取り仕切る優秀な女性店員(32)。
ともに歩んで10年という二人の「コンビネーション」こそが、この店の最大の魅力(と最高の酒の肴)である。
初めて行く人は、ぜひカウンターの端に座って二人の動線を見てほしい。
狭い厨房で、目線ひとつ、言葉ひとつ交わさずに、がっちり噛み合う完璧な呼吸。
その安心感たるや、もはや「長年連れ添った熟年夫婦」のそれだ。
……しかし、間違っても彼らに「夫婦みたいですね」などと言ってはいけない(言ってほしい)。
それを言った瞬間、熟年夫婦の空気はどこへやら、甘酸っぱすぎる「付き合う直前の高校生」に逆戻りする。
声を揃えて「「違います!」」
そこから始まるのは、言い訳と赤面とすれ違いの泥仕合。
もう、最高のエンタメが展開すること間違いなし。
私たち常連一同、その瞬間を毎回楽しみにしている。
不器用で、素直じゃなくて、お互いに「お店のため」と言い訳しながら、誰よりも隣にいるのが当たり前になっている二人。
美味い料理と、日本一じれったい”日替わりメニュー”を同時に味わいたいなら、ぜひこの店へ。
今夜も私は、二人の不器用な防衛線を肴に、ビールを一杯あおることにする。
──ここまでは店の紹介。
ここから先は、10年通った一人の常連としての独り言。
二人には内緒の話だ。
常連というのは、料理だけのために来るわけじゃない。
店が好きだから来る。
店長が好きだから来る。
店員さんが好きだから来る。
そして、この店に流れる時間が好きだから来る。
だけど、私は知っている。
変わらないものなんて、この世にはない。
料理だって少しずつ変わる。
お客も入れ替わる。
人も歳を重ねる。
きっと、あの二人の関係も、いつか今とは違う形になるんだろう。
でも、それでいい。
変わってほしくないのは、形じゃない。
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございます」
「また来てください」
あの二人が当たり前のように交わしてきた、その言葉だけは、ずっと聞いていたい。
だから、私は、今日もこの店へ来る。
そして、いつの日か。
今とは少し違う笑顔で並ぶ二人へ、
「おめでとう」
そんな風に、何でもない顔で言える日が来たなら、その日は少しだけ美味い酒が飲めると思う。
……10年、この店を見続けてきた古参としての、本音である。




