↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンカフェで悪役令嬢をしているわたくし、ライバル令嬢役が厄介ファンになってしまいましたわ!?  作者: 花田一郎
第1章「ライバル令嬢、悪役令嬢の厄介ファンになる」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/10

第6話「時代はルミラフィですよ」

 あの即興劇は、本当にささやかなサプライズ──私にとっては安海さんからの当てつけなのだけど──のつもりだった。実際に、喜んでもらえたと思う。

 それでも、目の前で厄介ファンがだらしない顔のまま携帯でSNSをチェックしている様子を見ていると、「迂闊だったのかしら……」なんて少し悩んだ。


「見てください、ルミア様……私たちの劇のカップリング談義、こんなにも盛り上がっています。正確には、“ルミラフィ”が盛り上がっていると言うべきですが!」

「安海さん、あなたならすでに台本の内容も覚えているんでしょうが……お仕事前に見るものがそれでいいんですの……?」

「こうした民衆の意見もルミア様を生存させるために必要なんです! 全部スクショしたらプリントアウトして、店長のデスクに積み上げなきゃ……!」

「口頭で十分じゃないかしら!? 店長はお忙しいのですから、わたくし以外への厄介ファンムーブは控えてくださいな!」

「ルミア様にならいくらしてもいいんですか!? やっぱりルミラフィは相思相愛でした……!」


 ……やっぱりわたくしは、相当に迂闊なのでしょう……。

 私の言葉を燃料に瞳の中の炎を輝かせ、「見てください、この人もルミラフィ派です!」なんて携帯を見せつけてくる。あまりに勢いよく向けてくるものだから、画面と鼻先が引っ付くところだった。

 とはいえ、これで店長への被害が軽減されるのなら安いものだ。店長は「大丈夫、安海さんのアレな一面には概ね慣れたから」とは言っているけれど、あの人は脚本だけでなく、店舗運営の多くの部分を担当していて忙しいのだから。


「……ですが、ルミラフィ?以外にも別の組み合わせがあるみたいですよ?」

「ああ、私が見た限りだとルミリオ、ルミオレあたりが言及されていますね……まったく、ルミア様からすればリオネ様もオレオン様も必要な駒でしかないと言うのに、わかっていませんよね?」

「同意を求められても困るのですが……というか、オレオンとは建前上とはいえ婚約関係なのですから、むしろ正当な気がしますが」

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ……ルミア様までそんなことをおっしゃるなんて」

「ため息、長すぎません? わたくし、そんな変なことを言ったかしら……」


 携帯に目を通すと、たしかにルミラフィが一番多く言及されている。

 ただ、それ以外にも聖女であるリオネ、ほかにも王太子でありルミアリエルの婚約者でもあるオレオンもきちんと語られているあたり、ファンごとに異なる楽しみ方があると言うのが伝わってきた。

 それはとても健全なこと……なのに、安海さんは深淵でも見てきたかのような沈み込むため息をついて、早速私に「いいですか、ルミア様とラフィエラはですね、明らかにほかのカップリングとは関係性が違うんです」と語り出した。

 ちなみに高町さんも自分の携帯で確認していたのか、「あ、わたしとのカップリングもあるんだ……」としげしげ眺めていた。その純粋なリアクション、一割でもいいから安海さんに分けてあげられないかしら……。


「──というわけで、時代はやっぱりルミラフィなんですよ! 聡明なルミア様ならおわかりいただけましたよね?」

「あ、終わりましたの? なんか妙に勝ち誇ってますが……あなた、誰と戦ってましたの?」

「ルミア様、さてはほとんど聞いてくださいませんでしたね!? もう、そういう冷たいところも好きなのですが! とにかく私は、ルミア様を奪うこの世のすべてと戦っているんです! 目下の強敵は店長ですね!」

「逆恨み過ぎて店長がかわいそうですわ……いっそのこと、わたくしはもうルミアリエル役を降板になったほうがいいのかしら?」

「ルミア様はルミア様なので、ルミア様をやめるなんて物理的に不可能では?」

「きれいな目をしながら言うことがそれですの!?」


 ルミアリエルが人──主に安海さん──を狂わせると言うのなら、消えてしまったほうがいいのかもしれない……。

 半分くらい本気でそう考えたけれど、こういうファンがいるからこそアルバイトも成立していると気付いたら、仕事前だというのに奇妙な脱力感に包まれた。


 *


「ルミア様、チェキを一枚お願いします! できれば愚かな生徒を見下すような冷たい目で!」

「あらあら、淑女とは思えないオーダーですこと……いいでしょう、本日のわたくしは機嫌がいい、あなたの心胆まで凍らせてあげましょう」

「あ、ああっ……戻れなくなっちゃいます……!」


 ……もしかするとわたくしのファンの方は、いろんな意味で『濃い』のでしょうか……。

 比較的よく見る顔の女性客が、私に対してチェキを注文してくれる。こうしたオプションはキャストにも取り分があるため、複数の意味で嬉しいことだった……無論、オーダー内容には目をつぶる。

 それでも彼女へ向けるまなざしはできるだけ冷たく、『悶えながらルミアリエルへの愛を語る安海さん』を思い出しながら作り上げた。すると、この人まで悶えてしまった。


「お待ちください、ルミア様。あなた様一人だけだと、物語性が不足します」


 写真を撮影する直前、ラフィエラが割り込んでくる。

 今はお互いがホールを担当していることもあり、彼女は柔らかな燕尾服を連想させる濃紺のショートジャケットと青から紺へと色味が濃くなるふくらはぎ丈スカートを翻しながら、さも当然のように立ち塞がった。


「わたくしの客へ口を出すとは、何たる傲岸不遜。場をわきまえることすら忘れたのですか、この愚か者め」

「ああっ、なんて容赦のない叱責……こほん。ですが、その青い宝石のように冷たい目を私に向けることで、もっとあなたは強く、美しくなります……お客様、いかがでしょう?」

「ひ、ひえ〜〜〜……目の前でルミアリエル様とラフィエラ様が応酬しているだなんて眼福過ぎる……! お願いします!!」


 えぇ……なんて嘆息を、必死になって飲み込んだ。

 私としてはなるべくルミアリエルを演じてたしなめたつもりなのに、この無敵の厄介ファンはだらしなく喜んだかと思ったら、すぐさまラフィエラとしての体裁を保ってお客さんに聞き直す。

 結局、ペアチェキになってしまった。それは客に対してサービスの押し付けになってしまったのではないかと心苦しくなったので、せめて最高のパフォーマンスを演じるべく、安海さんへ普段より数段冷たい目を向けておいた。

 それと同時にお客さんだけでなくラフィエラまで悶えてしまい、私は今だけは松林留美に戻って頭を抱えたいと心で嘆いた。


「……あ、あのっ。私もペアチェキ、いいですか?」

「私も! はぁ、ルミラフィがどんどん濃くなっていく……最終章まで通い詰めないと……!」


 そんな私の気持ちとは裏腹に、先ほどのやりとりも含めて「やはり二人はただならぬ関係」だなんて周囲はざわついていて。

 本日のルミアリエルとラフィエラのペアチェキの売り上げは、過去最高となってしまったらしい。店長は「うーむ、これはいいかも……」なんて、帳簿を見ながらこちらが不安になるつぶやきを漏らしていた。


 *


「ルミアリエル様! ラフィエラ様とはどのようなご関係で!?」

「お馬鹿、ストレートに聞きすぎ! すみません、この子ったら本当にルミラフィが好きで……ち、ちなみに私も……」

「……ふふふ、民衆の注目を集めるのは貴族の宿命ですもの。しかし、驚くようなことはありませんわ……ラフィエラは宿敵、それ以上でもそれ以下でもありません」


「そして誰よりもお互いを理解している、運命共同体なのですよね? 私は幾度もルミア様と刃を交えてしまった結果、戦いの中で深くあなたを知り、そして惹かれていった、哀れな侯爵令嬢……」


 こ、こんの厄介ファン……先日の即興劇に応じてあげたからと言って、差し込みすぎではなくて!?

 数日後、今日も劇のあとにホールを担当していたら、二人組の客から質問される。その目の輝きようから悪意のなさを理解した私は、そつなく答えた……ルミラフィと言う単語が定着している現実から目をそらしつつ。

 けれど、現実は決して逃げない。安海さんは私たちの前へと躍り出るようにして、勝手な解釈を付け足してきた。それはコーヒーに本日の茶菓子を添えるような、台本があると言われても納得するほどの自然さだ。

 ……今になって、店長の「安海さん、アレじゃなければ最高の女優なのに」という言葉が鼓膜からお腹まで浸透していった。


「ラフィエラ様! でしたら、ぜひルミアリエル様のことを教えてください!」

「ふふふ、いいですよ。ルミア様はこう見えて甘い紅茶が好きで、つかれているときはミルクと蜂蜜を入れたお茶が密かな楽しみなんです。さらに──」


 たしか設定資料に書かれていたと思われる、ルミアリエルの好みについてすらすらと語り始める安海さん。

 物覚えのよさだけでなく、悪役令嬢ルミアリエルへの理解と愛情がなければ、語るだけでここまで客を喜ばせることはできないだろう。


(……本当に安海さんは、ルミアリエルのことならいくらでも話せますのね)


 その光景を見ていたら、ふとそんな言葉が胸の中で反響した。

 それは閉店後の舞台に一人で立ち、観客のない空間へ語りかけるような音色に感じた。

 そんな気持ちを、私はこれまで知らなかったかもしれない。


「──そして、好きなあんこはこしあんなんです。これはつい最近入手した、私のとっておきの情報ですね」

「……は?」

「わー! ルミアリエル様、本当に和菓子がお好きなんだ! いつか差し入れできたらなぁ……」


 安海さんの一言に、私は繁盛しているラ・クーロンヌに引き戻される。意外な言葉というのは、一瞬だけ自分の役割を忘れさせるらしい。

 ……安海さん、ルミアリエルではなく、松林留美の好みも覚えることがあるんですのね……。

 失礼とも当然ともとれる驚きに、私は先ほどの空白をすっかり忘れていた。


「……さて、いつまで続けるおつもりで? わたくしの情報を漏洩し続けるだけでなく、客人を待たせるだなんて、厚かましいを通り越してもはや剛毅ですわね」

「うふふっ、ルミア様の兵糧事情は重要ですから。腹が減っては戦はできぬ、いつかは胃袋も掴み取りたいものです」


 ……って、わたくしの話じゃなくて、やっぱりルミアリエルの話でしたの!?

 この厄介ファンであれば、松林留美の情報までルミアリエルのものへ変換するのは当たり前なのに。

 今はその落差が少しだけ大きいような気がして、つい「この大うつけめ!」と罵ってしまった。もちろん、ラフィエラだけでなくお客さんまで喜ばせてしまい、私はルミアリエルとしての立ち振る舞いだけは上手いみたいだった。

 ……それでも。こしあんを覚えていたという事実だけは、なぜか胸から追い出せなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。