呪い重複法
前世において俺が常駐していたといっていい『ファスティアファンタジー』攻略スレにおいては、度々話題に上がる議論があった。
それが強力だがデメリットの大きい呪いの武器をなんとかしてデメリットなしで使う方法はないかというものだ。
有志達が様々な方法を試し、俺も当然ながらその方法を彼らと一緒に探った。
初代、2、3においても発見されず、やはり無理なのか……そう思っていたタイミングで4で発見された呪いの武器の無効化方法こそが、今俺が正に使っている『呪い重複法』と呼ばれるやり方である。
この『呪い重複法』に必要な工程は、
1 『ファスティアファンタジー4』になってから新たに解禁されたジョブシステムで上位ジョブ『ウェポンマスター』を取得する
2 『ウェポンマスター』の固有スキルである『複数装備』をスキルレベルマックスにし、装備可能点数を15まで増やす
3 そのうちの10個を呪いの装備で埋め、残る5つに自分の好きな呪いの武器を装備する
という3つからなっている。
公式では明らかになっていないマスクデータなのだが、呪いの武器は複数個装備すると呪いの効果が徐々に薄れるようになっていく。
有志の調査により、その効果は【100ー装備している呪いの武器の点数の二乗】%に減じることが判明していた。
つまり呪いの武器を十個装備することができれば、11個目以降の呪いの効果は0%に変えることができる。
なので最初に大量の呪いの武器をつけてしまえば、理論上呪いのデメリットを打ち消すことができるのだ。
だがこの世界には、ジョブシステムが存在していない。
それならどうなるんだと試しに呪いの武器の重複を試してみたところ……普通にできた。
そう、この世界では面倒な上級ジョブの取得なんてものをしなくても、誰でも『呪い重複法』を使うことができるのだ!
『ウェポンマスター』は地味に取るのがキツいジョブだったのでこれは素直に嬉しい。
全武器で100回以上とどめを刺すとか、レベル上げ以上の作業ゲーで辛かったのよね。
杖で殴ることの何がウェポンのマスターなのか、運営には一時間以上問い詰めてやりたい。
とまあそんなことはさておき、今回俺はおそらく相当に気合いの入った呪いの武器になっているであろう魔王武装を使うために、俺はこの『呪い重複法』を使い呪いを無効化してきている。
指には黒やドクロの指輪、首元や腕周りにはシルバーのブレスレットやネックレス、そして足には黒いミサンガと飾り布。
この『もっと腕にシルバー巻くとかさ!』スタイルこそ、呪いの武器愛好家界隈では御用達のデメリットが小さな呪いの武器10点セット。
こいつらの呪いを先に受けておけば、後はどれだけ呪いの装備をつけても大丈夫、というわけだ。
ありがとう同士達よ。
おまいらのおかげで俺、こうして魔王装備普通につけられてるよ……。
「エルギンは多分、呪いの武器のせいでいろいろ大変な目にあったりもしてきてるだろ?」
「ん……まあな」
さすがに皇帝を発狂させたりはしてはいないだろうが、やはり呪いの武器職人というだけで肩身は狭いはずだ。
実際このエルギン工房も、有名な鍛冶屋なんかが並んでる一等地からは少し外れてるところにあるし。
「デメリットなく使えてるのは『呪い重複法』のおかげで……」
だから俺は、エルギンに『呪い重複法』を教えることにした。
俺が持つこの世界の常識から考えても、呪いの武器はどうしてもいかがわしいという印象がある。
だがこの『呪い重複法』があれば、呪いの武器に関するイメージは大きく払拭できるはずだ。
そもそも呪いの武器のデメリットをほぼ0にできるわけだからな。
「本当か、本当にそのような方法で……なんでそんな単純なことにも気づけなかったんだ!」
よほど感情が高ぶったのか、エルギンは机の中からガラス瓶を取り出した。
酒をラッパ飲みすると、そのまま酒臭い息を吐き出す。
「呪いの武器といえば右に出る者はいねぇほどのプロだったつもりだったってのに……俺は、自分で自分が情けなくてたまらねぇ!」
エルギンは瞳を潤ませながら、心底悔しがっていた。
誰よりも呪いの武器に詳しいからこそ、自身の手でこの『呪い重複法』を見つけることができなかったことに忸怩たるものがあるのだろう。
だが、これを発見できないのも無理はないことだと思う。
何せ呪いの武器を3つ着けても、それでも呪いの効果は9割を超える。
効果を実験するためにわざわざ4つ5つと武器を付け足すやつはいないだろうし、わざわざ弱い呪いの武器を使おうと試してみる偏狂なやつもいないだろう。
これはゲーム世界でいくらでもリセットができるからこそ発見ができた、一種の裏技のようなものだ。
「だが……ルスト様、本当にいいのか?」
「何がだ?」
「これは……この『呪い重複法』はきっと、この世界の在り方を超えることになる。それくらいに価値のある情報だ。それをこんなにあっさりと教えちまってだよ」
「ああ、まったく構わない。俺からすればこれを使って、この世界の奴らにさっさと強くなってもらいたいんだよ」
この世界の人間の領域は少ない。
そしてこの世界の実力者と言われているやつらでも、結界の外の魔王領を何度も出入りできるのは上澄み中の上澄み。
そんな彼らであっても、当然ながら魔王と戦うにはあまりにも心許ないほどの強さしかない。
俺がこの『呪い重複法』を伝えるのには、エルギンを助けその名を売るためだけではなく、この世界の人間達の実力そのものを底上げさせる狙いもある。
いくら俺一人が強くなったところで、どうしても限界はある。
たとえば俺が魔王を討伐している間に別の魔王が人間界を本気で攻めれば、それだけで人類は終了だ。
せっかく魔王の討伐に成功しても、帰ってきて全てが廃墟になっていれば何の意味もない。
今の人間界は、圧倒的にマンパワーが足りない。
人類全体がもっと強くなって、少なくとも魔王達から国を守ることくらいはできるようになってもらわないと困るのだ。
きっと『呪い重複法』は、そのための一助になってくれるはず。
「それと最後に……この方法はエルギン、お前が開発したことにしろ」
「なっ……馬鹿言うな! 他人の手柄を横取りするようなつもりはねぇ!」
こちらに食ってかかろうとするエルギンを止める。
俺は何も、彼のことを有名にさせようとして手柄を譲るわけではない。
そうしなければいけないたしかな理由があるのだ。
「そもそも悪名が売れている俺が言ったところで信憑性は薄い。それなら長いこと呪いの武器職人としてやってきたお前が言った方がいい。それに正直なことを言えば……俺はまだ、自分の名を売りたくないんだ」
俺が汚名を返上し名誉を挽回するのは、もう少し後……具体的には、俺が他の魔王達を単身で屠れるだけの強さになってからでいい。
それまでは俺の存在自体を、魔王達に気取られぬようにする必要がある。
10のラスボス、『深緑』の魔王ディバリウスなんかには絶対にバレないようにしなければいけない。
あいつは自分に届きうる可能性があるとなれば、勇者が五歳の頃に村をまるごと焼き捨てるほどの外道だ。
定期的に人間界に放っているという密偵から俺の情報が漏れることだけは、なんとしても避けなければならないのだ。
「なんつぅ……あんたには名誉欲ってものはないのか?」
「あるに決まっているだろ。俺はこれから何体も魔王を倒すんだ。そうすれば自ずと名声はついてくる。呪いの克服法を見つけたやつよりもよっぽどな」
「……はっ、どうやら俺は……とんでもねぇやつに、目をつけられちまったみてぇだな」
「もう遅いぞ。エルギンにはこれからも俺用の装備を作ってもらう」
「はんっ、当ったり前だ! 他の誰でも真似できねぇような最高の呪いの武器を打ってやるさ、この俺……『呪剣打ち(デスメイカー)』のエルギンがな!」
俺はエルギンと再び熱い握手を交わす。
こうして俺には頼りになる職人の信頼と魔王武装という強力な二つの力を手に入れ、魔王討伐のためにまた一歩近付くことができるのだった。
というか……エルギンの二つ名って、自分発案だったんだな……。




