あれ
興奮状態で俺の話を聞いて最高の仕事をすると請け負ってから一週間後。
望み通りの武器防具が仕上がったという報告を聞いた俺は、すぐに『エルギン武器防具店』へと向かった。
一週間はいくらなんでも早すぎだろ……一体どれだけ気合いを入れて作ったんだか。
店に入れば目をギンギンにさせたエルギンが鼻息荒く俺の方を見ていた。
隈もあるし……さてはこいつ、全然寝てないな。
「できたぞ、ルスト様!」
「ああ、加工は問題なくできたか?」
「問題? 問題しかなかったさ。こんなに言うことを聞かない素材を扱ったのは生まれて初めてだよ!」
エルギンはそう言うと、バンッと机を大きく叩く。
「まずこの革の固さがとんでもねぇ。ミスリルではまともに通らんし、とっておきのオリハルコンを使ったらオリハルコンの方が欠けやがった。一体どんな硬度してやがるんだこいつは、そしてそんなに硬ってぇくせに弾力性だけはやたらとあって加工しようとするとすぐに暴れやがってよ。じゃじゃ馬なんて言葉じゃ表現しきれないくらいこっちの言うことを聞きゃしねぇ!」
口をついて出てくるのは悪態ばかりだったが、その表情はずっとにやけっぱなしだ。
その様子は好きな女の子の悪口を言う男子にそっくりだった。
「それなら一体どうやって加工したんだ?」
「最初の一日は難儀したんだが……要は最強の楯には最強の矛をぶつければいいって話でよ。エグゾノートの牙を使って無理矢理加工したわ。慣れない得物で仕事をしたせいで、ずいぶん手間取っちまった」
俺からしたら一週間は十分短い方だと思うのだが、本人としてはまだまだ納得がいかないらしい。
上昇志向があるらしくて何よりだ。
やはり武器を作ってもらうのは、そういうやつじゃないとな。
「そんじゃあまずは得物の方から行くか。こっちはルスト様の指定の通りに刀にさせてもらったぜ。鞘は余ったエグゾノートの尻の辺りの皮革をなめして作らせてもらった」
そう言ってルストは鞘に入った一本の刀を取り出した。
俺が倒した時のエグゾノートは濃い青色をしていたんだが、刀に沿った反りのある鞘の色は漆黒だ。
だがよく見てみると、光を反射してわずかに青く光っている。
なんだこれ……めちゃくちゃ格好いいぞ!
すらりと剣を抜いてみれば、そこには琥珀色を思わせる黄色を帯びた白色の刀身が現れる。
「牙だとちと長さが足りなかったからエグゾノートの脊椎を使って作った。加工は防具同様、削り出した牙で行わせてもらった。そいつを俺の火乃鍛冶槌を使って、呪いの武器化させてある形だな。銘は『凶食王ジャガーノート』……俺が作った得物でも最高の逸品だ」
「ジャガーノートか……格好いいな」
重さは俺が普段使いしているミスリルソードよりやや重たい。
が、重心がブレるようなこともなく普段使いの剣の延長線上として使うことができそうだ。
持ち手や重心移動を確認するためにエルギンの前で何百回も剣を振った甲斐があったぜ。
軽く爪先で弾いてみると重さの割に鳴る音は硬かった。
どうやら中はみっちりと詰まっているらしい。
「こいつにはお前が言っていたエグゾノートの能力のうちの一つ目、『模倣の魔王』の能力の一部が宿っている。実際に斬り付けた相手の血を吸ってその力を己の攻撃力に変換する能力がある。さすがに相手を上回るとまではいかないだろうが、攻撃を当て続ければ相手と同程度の力にまでは増幅されていくはずだ」
「おお、本当か!?」
ジャガーノート、思っていた以上のぶっ壊れ性能だった。
格上相手にも通用するジャイアントキリング系の能力は、俺が今正に求めているものだ。
こいつなら魔王と戦ってても、しっかりダメージを通してれば攻撃力に関しては並べるってことだもんな。
さすがエグゾノート……死んでも良い活躍をしてくれる。
「まあそれだけの効果がある分呪いの方も相当にキツいものになってるんだが……」
エルギンが自身の持つ鍛冶専用の呪いの武器である火乃鍛冶槌を使って作り上げた武器は、基本的に呪いの武器になる。
呪いの武器というのは、簡単に言えばなんらかのデメリットを持つ魔法武器のことだ。
装備が外せなくなったり、暗闇状態で攻撃が当たらなくなったり、あるいはどこぞの皇帝のように発狂して周囲に破壊をまき散らしたりとものによっては洒落にならないデメリットも存在する。
ただそれだけ特大のマイナスがある分、その性能は通常の魔法武器と比べて強力だ。
性能の高さは生死に直結するため、俺は武具の全てを呪いの武器で作ってもらうよう指示を出していた。
「魔王の素材で呪いの武器を作ったせいで、俺が作ったもんの中でも籠もっている呪いの強さも過去トップクラスになっちまったんだが……ルスト様は、大丈夫なのか?」
「ああ、問題ないぞ」
俺は笑いながら刀を何度か振りぬき、感触を確かめる。
呪いに飲み込まれる様子もなく、異変一つなく普通に剣を使っている俺を見たエルギンが、仰天しながらこちらを向いている。
「あんた、とんでもねぇな……そしたら次は防具だ。最終調整をするから、一度着てみてくれ」
布の覆いがめくられると、そこには真っ青な鱗を使ったスケイルメイルがあった。
中央部、胸の辺りには魔王が落とすドロップアイテムである魔血塊が付けられている。
ちなみにこいつには魔王の魂が入っているものの、入っているのはあくまでも魂の残滓であり、別に壊れても魔王が復活したりするわけではない。
しかし、これが魔王の防具か……魔王を討伐したら終わる『ファスティアファンタジー』では終ぞお目にかかることができなかったものをこんな形で使うことができるようになるなんて……感激だ!
「こいつは魔王エグゾノートの鱗を使ったスケイルメイルだ。鱗を繋ぐための糸にはエグゾノートの竜鬢を使い、鱗の下の部分には胴体の中で最も厚みがあった腹の部分の革をなめして使ってある。肘や膝、首元の補強にはエグゾノートの骨を使わせてもらった。後は魔王の魂を封印したとかいう魔血塊を砕いて全体に染み込ませることで防御力を更に底上げさせてもらってる。銘は『魔王竜骸キュアノス』……俺が作った防具で一番の、改心の出来だぜ」
鎧を調整してもらい装着すると、本当に着けているかわからなくなるほど身体にジャストフィットした。
見た目的には結構ずっしりしていたが、重さをほとんど感じない。
驚きながら横を向くと、エルギンはしたり顔で頷いていた。
「素材をふんだんに使ったからか、こいつはいくつも効果があってな。重量軽減に中級までの魔法の無効化にデバフ無効、自動修復昨日。しかもそれらに加えて『凶食王ジャガーノート』と同じで相手の血を吸うことで使用者の身体能力を上げる機能もあるし、更には第三の能力である『現し身の魔王』の効果も一部再現されている」
おいおい、いくら呪いの武器だからって能力盛られすぎだろう。
魔王の素材がいいのか、エルギンの腕がいいのか……いや、多分その両方だな。
「となると、各種攻撃の半減か?」
「いや、下手すりゃそれより強いかもな。このキュアノスの胸についている魔血塊……こいつに攻撃をすることでエネルギーがチャージされていく。そして最大までチャージされた時点で、相手の攻撃を一度無効化することができる」
「……強いな」
攻撃無効化は『ファスティアファンタジー』でもかなり強力な能力だった。
無効出来る攻撃は物理・魔法の種類を問わないらしいので、一度切り替えたらしばらくの間耐性を切り替えられない『現し身の魔王』よりも利便性も高そうだ。
チャージの間隔にもよるかもしれないが、その辺りは実地で試してみるしかないだろう。
「しかし……これほど強力な呪いの武器を二つも付けても全く変化がないとはな……最悪の場合ここで殺される可能性すら考えていたが……」
「……そこまで覚悟を決めてもらわなくても大丈夫だぞ。というかもしそうなっていたら、どうするつもりだったんだ?」
「最高の出来の武具が作れて死ねるんなら本望だと思っていた」
「筋金入りだな……」
俺はそのまま装備の様子を一通り確認したら、残る素材の量を聞いておくことにした。
エグゾノートはある程度体長が大きかったこともあり、あと数セットであれば装備を用意することもできるらしい。
魔王装備を一体誰に渡すか。
しっかりと考える必要があるな……できれば11の勇者とコンタクトを取って一緒にパーティーを組みたいところではあるんだが……。
俺がどうするべきか思案している間に、エルギンは処理の終わった残った素材と渡していた代金から工賃を引いた額を、机の上へと乗せる。
彼は平気な顔をしながらリュックの中へ突っ込む俺の全身を見つめながら、
「しかしまさかルスト様が呪い無効化体質持ちだったとは……職人冥利に尽きるぞ」
「いや、俺は呪い無効化は持ってないぞ?」
「……は? いや、だって……」
きょとんとするエルギンの顔を見て、ああやっぱりかと俺は頷いた。
やっぱりこの世界ではまだ……あれは発見されてないんだな。
俺は何も特殊な力に覚醒して呪いを無効化しているわけではない。
こうして平然と動くことができているのはもちろん、ゲーム知識を持っているが故だ。
そう、俺は呪いを無効化する方法……『呪い重複法』を知っているのである。




