『魔刃打ち』
『魔刃打ち』エルギンは、呪いの武器に魅せられた武器職人である。
彼は『ファスティアファンタジー10』において、特殊な効果を乗せた魔法武器である魔剣を造り出すことができる、ただ一人の職人であった。
しかし伝説級の職人でありながら、彼は身分を隠し他国に逃れ、誰に知られるでない名もなき村でひっそりと店を開くだけだった。
その理由は、大国であるガンドラ帝国の皇帝にある。
エルギンは彼の『一番強い武器を作れ』という命令に従い、強力な呪いの武器を打った。
そして彼が生み出した呪いの魔剣を握った皇帝は……一瞬にして発狂した。
そのせいで帝国は荒れ、彼は国際指名手配を受けることになってしまったのだ。
追っ手から逃れるために名もなき村でひっそりと『エルギン武器防具店』をやっていた彼は、彼の腕を求めてやってきた主人公に一本の剣を打つことになる。
『へぇ、あのエクスカリバーを現代に蘇らせるねぇ……手伝ってやらんこともない』
10のラスボスである『深緑』の魔王ディバリウスは、勇者に利用されることを防ぐため事前にかつての聖剣を粉砕し配下達に持たせていた。
各地を巡りその破片を拾い集めた主人公がエルギンの下へ持っていくことで、初代『ファスティアファンタジー』で使われていたエクスカリバーが新たな聖剣『エクスカリバー・ケイオス』として生まれ変わる。
かつて使われていた聖剣が新たな息吹を宿し現代に蘇るシーンは、ファンとしては感慨深かったのを昨日のことのように思い出すことができる。
『エクスカリバー・ケイオス』は実際めちゃくちゃ強くあり、『ファスティアファンタジー10』で魔王を討伐するにはほぼ必須と言えるくらいの強武器だった。
そんな剣を打つことができるエルギンなら……たしかに魔王の素材を加工してもらうのにのに、これほど適した人材はいないだろう。
「えっと、エルギンさん……で合ってますかね?」
だが俺が知っているエルギンとは、なんだか少し様子が違う。
10に出てくるエルギンはもっとやさぐれていて、厭世感が強かった。
だが目の前の彼は雰囲気がずっと明るく、なんというか……すごく普通なのだ。
なんでだろうかと考え、答えは一瞬で出た。
(……なるほど、ガンドラ帝国が既に滅ぼされているから、エルギンの権威を失墜させるイベントが起こらなかったんだ)
結果としてエルギンは普通の魔法武器職人として、堂々と工房を構えることができている。
11の世界だと魔法技術が発達し魔法剣を生み出すことができるのは彼だけではなくなっているが、やはり呪いの武器を生み出すことにかけてはエルギンの右に出る者はいないと、知る人ぞ知る専門家のような扱いを受けているらしい。
エルギンが追われることもなくなったが、人類の活動圏が大幅に狭まったことで本来であれば功績を重ねられたイベント等も同時に消えてしまっている。
おかげで、今のエルギンは二つ名などもない、ただ名うての呪いの武器職人でしかない。
本来であれば世界を救う一助を担う名工に普通に仕事が頼めるのか……控えめに言って、最高すぎるな。
ひょっとしたらエルギンのように、本来であればはるかに名前が売れていたのに燻っているという人材も他にも多いかもしれない。
せっかく金に余裕ができたんだし、魔王装備ができあがったら、そのあたりの調査にもガンガン金を使っていく必要がありそうだ。
「いかにも、俺が工房主のエルギンだ。なんでもとてつもない素材を用意したから、そいつを加工したいって話だったが……」
「ああ、これは……エルギン、あんたにしか頼めない仕事だ。おそらく他の鍛治師達では、その性能を完全に引き出すことはできないだろう」
「……ほぅ?」
こちらに試すような視線を向けていたエルギンが、初めて興味深そうな顔をする。
お前が誰よりも武具造りに貪欲なことを俺は知っている。
きっとお前の期待に応えられるだろう。
何せこれから渡す素材は……今までこの世界の誰も使ったことのない、超がつくほどの稀少素材なんだからな。
「だからできればあんたにお願いしたいが……この仕事を引き受ければ、もう後には引き返せなくなる。俺達は否応なしに一蓮托生になるだろう。……今から出すのは、それだけヤバい素材だ」
「……」
エルギンがジッとこちらを見つめてくる。
一体俺がどれだけ本気で言っているのかを推し量っているらしい。
彼は俺が冗談でもなんでもなく言っているのを理解してから一度天井を見つめ、煙で円を描いてぷかりと浮かばせた。
「俺は時たま思うことがある。もし何か一つボタンがズレていれば、俺はもっともっと上に行って、誰も及びが付かないほどの伝説の武器職人になってたんじゃないか……ってな。恥ずかしいことに、実際そんな夢を、たまに見たりもするんだ」
エルギンは自分がここで燻っていることに、思うところがあるようだった。
先ほど店内を見た感じ、店自体も繁盛しているようだしある程度裕福ではあるだろう。
だが彼は本来であれば聖剣を打ち直し、名実ともに世界の頂点に君臨するほどの武器職人になる男だ。
自身が有能な人間であることを理解しているからこそ、彼は渇望していたのかもしれない。 自分が何者かになることができる、千載一遇の好機を。
「だが俺には成り上がるための機会がなかった。もしそれをあんたが提供してくれるっていうんなら……どんなことだって、やってやるさ」
彼は刻み煙草の煙を消すと、こちらを真剣な表情で見つめる。
それ以上の言葉は、いらなかった。
俺はエルギンの実力を知っている。
だから彼に頷きを返しながら、そのまま握手を交わす。
そしてリュックの中に手を突っ込み……
「よろしく頼む、エルギン。それじゃあ早速仕事の話をしようか。俺があんたに加工をお願いしたいのはコイツ……『最強』の魔王、エグゾノートの素材だ。こいつを使って魔王を殺せる武器と、魔王の攻撃に耐えられる防具を作ってもらいたい」
俺の言葉を聞き、取り出されたエグゾノートの死骸を見たエルギンは……目を見開き鼻の穴を大きく広げながら、頬を紅潮させた。
「あんた……最高だよ、ルスト様」
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