想定外
カジノで攻略法を使い容赦なく金貨五万枚を取り立て、ついでにカジノの経営にも一枚噛ませてもらうことになった俺は、もはや金集めをする必要がなくなった。
というわけで後顧の憂いなくエグゾノートが治めていた魔王領内へと侵攻し、レベルを上げていくことにした。
「せいっ!!」
「GIYAAAAA!!」
俺の一刀によって、首が三つに分かれている蛇であるトライサーペントの首が三つ纏めてぽとりと落ちる。
エグゾノートを倒したことによる経験値は相当に高かったらしく、戦う前はなんとか差し違えれば倒せるか……といった強さの魔物達も、苦戦することなく倒すことができるようになっている。
遠くには口から冷気を吐き出すフロストスネークや口から不可視の風のブレスを吐き出すウィンドリザード目掛けて、魔法を発動させる。
ルスト・フォン・アストレアが最も得意とするのは火属性。
故に俺は使う属性を火に絞り、ひたすらに熟練度を溜めさせてもらっていた。
この世界において、魔法を発動させるまでのプロセスは大きく分けて三つある。
まず一つ目は、体内の魔力を魔力管と呼ばれている不可視の血管からひねり出すこと。
そして二つ目はその魔力を属性魔力へと変換すること。
最後にその魔力を明確なイメージによって、魔法という形で現象を引き起こすことだ。
この際に最も大切なのは、三段階目の明確なイメージになる。
前世の記憶を取り戻し酸素による物体の燃焼の仕組みや温度による炎の色の変化など、様々な化学反応に関する知識を手に入れたことでイメージが具体化し、俺の魔法の火力は更に上がった。
「セイクリッド、フレア!」
ドッゴオオオンッ!!
俺が放った白炎は着弾と同時にその脅威を周囲へと撒き散らし、こちらに近寄ってこようとしていた魔物達を纏めて消し炭へ変えていく。
イメージによる補正に加えエグゾノート討伐による経験値の獲得により、魔法の威力は更に向上している。
かなり強くなったという自覚はあるが……正直なところ、これではまだまだ足りないと言っていい。
このエグゾノート魔王領に出てくる魔物達は皆、『ファスティアファンタジー2』の終盤に出てくる魔物達だ。
あの性悪魔王ことエグゾノートにも勝てるようにするため、2の魔物は基本的に他のタイトルと比べて強さが弱めに設定されている。
なのでここで戦えるからといって他でも通用すると考えて調子に乗れば、あっという間に魔王に辿り着く前に魔物達に殺されてしまうだろう。
「……ふぅ、こんなもんか」
戦闘を終えると、俺の魔法によって破壊した森林がにょきにょきと生えて再生し始めていく。
魔王の濃密な魔力に充てられて変質してしまった森は、そう簡単に元に戻ることはない。
何度も伐採を続けて根気強く開拓をしていけばできるようにはなるはずだが……そんなことをして魔王に目を付けられれば、それで人類が滅亡しかねない。
なので非常に業腹ではあるが……この魔王領はエグゾノートの死を知った他の魔王達に渡さざるを得ないだろう。
(待ってろよ……いずれ絶対、俺が全部の魔王をぶっ倒してここを人の住める土地に変えてやる)
何をするにしても、まずは他の魔王達を倒し、人類を守れるだけの力を手に入れてからでなければいけない。
手段を選んでいる時間など、俺には残されていないのだから。
「……もうちょっと、頑張ってくか」
俺は再び茂り出す森林の中へと飛び込んでいく。
魔力は心許ないが、身体はまだ動く。
限界ギリギリまで、ここで鍛えさせてもらうことにしよう。
♢♢♢
エグゾノート魔王領での鍛錬を終えて屋敷に戻ると、喜色満面の笑みを浮かべるセバスから連絡が入った。
どうやら魔王素材を加工できるかもしれない職人と渡りをつけることができたらしい。
それなら早速とその職人がやっている工房へと出向く。
その工房の立てかけ看板には『エルギン武器防具店』と記されている。
(エルギン? ……まさかな)
店の中へ入り、ゆっくりと店内を見渡す。
「いらっしゃい……ああ、なんだ。約束してた坊ちゃんとやらかね」
刻み煙草を入れたパイプを右手に持ち紫煙をくゆらせながらこちらにやってくるのは、一体のドワーフだった。
「……ははっ、マジかよ」
カウンターの奥から出てきた職人を見た俺は、笑い声をこらえることができなかった。
身長は俺より二十センチ以上低い寸胴体型、にもかかわらず見るだけで筋肉が詰まっているとわかる恵体。
亜人種であり鍛冶に秀でたドワーフ達でも特に職人歴が長い人間にだけ現れる、右側だけ異常発達したアンバランスな上半身。
煤けた緑色のツナギを身につけ、肌身離さず持たなければならぬ呪いのかかったマジックウェポン、『火乃鍛冶槌』を持つその特徴的な姿を、『ファスファン』好きの俺が見間違うはずもない
(『魔刃打ち』――エルギン!)
俺の前に現れた職人とは、『ファスティアファンタジー10』で初代聖剣エクスカリバーを打ち直してみせた伝説の刀鍛冶である、『魔刃打ち』エルギンその人だったのだ――。




