青天の霹靂
無事魔王武装が完成したことで、俺の魔王領での魔物討伐は非常に捗るようになった。
どれくらい捗ったかというと、魔王を倒してから初めて、自分の動きの変化を感じることができるようになるほどに。
テロリンとレベルアップの音が聞こえるわけじゃないので自分の感覚で掴むしかないんだが、身体のキレがかなり増し、魔法の威力も向上したように思う。
幸いなことに、俺一人が環境破壊をしまくってはいるもののエグゾノート魔王領にほとんど変化は見られない。
どうやら魔王達はそれぞれがかなり没交渉らしく、今のところこの魔王領は俺やヴォイド達のパラダイスだ。
そうそう、今現在ヴォイドには指示を出し、騎士団の精鋭達を率いてエグゾノート魔王領で戦闘訓練を積んでもらっている。
なんではわからんが突然泣き出したあの時以来、ヴォイドは以前とは比べものにならないほどに俺に従順になってくれている。
騎士団の実力を経験値獲得で一気に底上げできる好機はそうはない。
魔王がおらず空白地帯になっているこの絶好の好機で、彼らには可能な限り強くなっておいてもらいたい。
(この世界の人間は『ファスティアファンタジー』基準で言うと明らかに弱いからな……)
この世界では、人間が聖結界の外側に出ることは、冒険者などの例外を除けばほとんどない。
そもそもあの聖結界は強力な魔物の侵入を防いでくれる。
そのため基本的にこの世界の人間達は、聖結界の内側にいる弱い魔物達としか戦わない。
個人的には人間の活動領域が狭いのも人類が弱いのも、半分くらいは教会のせいだと思っている。
教会はこっち側のことを聖域だなんて呼んでいるが……この聖結界は俺達のことを閉じ込める、光の檻だ。
実際人間達の中ではかなりの実力者のヴォイドであっても、聖結界の外に出る機会は半年に一度もあれば良い方って話だし。
ヴォイドはかなりやる方だが、彼であっても魔王領での長時間戦闘には難儀しているらしい。
他の魔王達に勘づかれる前に、あそこの魔物くらいなら一掃できるくらいの実力を身につけてほしいところだな。
「ふぅ……」
魔王領からくたくたになって帰ると、俺はここ最近市場調査と称して外に出かけることが多かった。
理由はぶっちゃけてしまえば……家の中の居心地がとても悪いから。
俺の屋敷内での評価は、ラミィにセバス、そしてヴォイドの三人を除けば大して変わっていない。
というか以前より外に出かける時間が長くなったので、むしろ悪くなっている。
俺が今まで散々ひどいことをしてきたせいではあるんだが、メイドは基本的に俺の顔を見れば脅えるし、コックは料理を作る度に自分が首を切られるのではないかとはらはらしながら俺が食べるのを待っている。
くたくたで帰ってくるとその辺りまで細かい配慮をして動くのも難しいので、すぐに家を出てしまうのだ。
普段は態度も普通にしているんだが……今までのイメージというのはなかなか払拭できそうにない。
ルスト・フォン・アストレアの風評の改善は、長い目で見ていくしかないだろう。
(……もうこれでいいか)
屋敷の中戦いをして疲れた俺は、家で飯を食いたくないので適当に露店で串やサンドを買って腹を満たす。
魔物の肉を使っている肉串は普通に美味い。
前世では馬鹿舌だった俺からすれば飯なんてこんなんでも十分だ。
(しっかし……普通だな)
指についた脂を舐めながら、俺が暮らしている街である領都シレジエンの様子を眺める。
『ファスティアファンタジー11』の世界からかなりズレてきている、わりといつ滅んでもおかしくないこのウェスペリア王国。
ここにいる人間達の様子はというと……その暮らしぶりは驚くほどに、ゲーム内と変わっていない。
たしかにあったはずの領土がなくなっていたり、大貴族のいくつかが没落していたりはする。
だが別に末法思想のように皆が悲観的な物の見方をしているわけでもなくて、街行く人達の顔には笑顔が溢れているのだ。
『なんで?』って思うよな。実際俺も転生した時は思った。
だからラミィに聞いたことがあるんだが……
「今まで滅ぼされてないから大丈夫です。それに聖結界もありますし」
とかいう、全然大丈夫じゃない返答が帰ってきた。
聖結界は俺の知らない原理で動いている『ファスティアファンタジー』に登場しなかった魔道具だ。
果たしてこいつにそこまで高い効果があるのだろうか。
似たような効果がある魔道具から類推するに、多分魔物を弾くことはできても魔王の侵入は防げないんじゃないかという気がするんだが……。
だがそうなるとそもそもなぜ魔王が人間を滅ぼしていないのかががわからない。
うむむ……謎は深まるばかりである。
(まあ、元気がないよりあった方がいいんだけどな)
こんな終末な世界観でも、人間はたくましく生きている。
彼らが暴動とかをしたり、どうせ人類は滅ぼされるんだからと犯罪行為に手を染めたりしていないおかげで、俺は伯爵家嫡男としてわりと自由に過ごすことができている。
「ルスト様~~!!」
俺が平和な世界(なお周りは魔王だらけ)を楽しんでいると、ラミィがドタドタと足音を鳴らしながらこちらに走ってくる。
運動音痴の人間特有の不思議なフォームで走っている彼女は、胸がばるんばるんものすごい勢いで揺れているので視線のやり場に困る。
「ひいっ!?」
ラミィから視線を逸らすと、どうやら俺の名前を聞いたやつらが俺の正体に気付いたらしく、さっとその場から逃げ出し始める。
……覚えてろよお前ら。
あとで絶対手のひら大回転で風力発電させてやるからな。
ラミィは頬を紅潮させながらはあはあと息を吐き、俺が渡した水をごっきゅごっきゅとものすごい勢いで飲み干してから、
「ギムル閣下が帰ってくるそうです! 今日中には来ると先触れがありましたので、急ぎお戻りください」
……そうか、父上が帰ってくるのか。
屋敷に戻ってくるのも一年ぶりくらいか?
基本的にはずっと王宮勤めだからな。
まあ放任主義だし、今回も何か言われることもないだろう。
そんな風に思っていた時期が、俺にもありました……。
「――ルスト、お前の婚約相手が決まった。ハルパー侯爵家のアキノ・フォン・ハルパー嬢だ」
え、嘘。
俺が……結婚?
しかもその相手は……あの『氷の令嬢』のアキノ!?
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