第6話 新たな依頼
高尾ダンジョンで異常個体が討伐されてから、数日が経過した。あの日以来、高尾ダンジョンは探索者の立ち入りが制限されている。探索者協会による調査が続いているためで、再開の見通しはまだ発表されていなかった。
その間、映斗は自宅で過ごす時間が増えていた。『風翔』を抜けてから、次の撮影先は決まっていない。配信サイトで探索者の募集情報を確認したり、過去の配信を見返したりしているものの、これといった仕事は見つからなかった。
もっとも、何もしていなかったわけではない。映斗は机に置いたカメラを手に取り、レンズの状態を確かめた。あの日の撮影で外装には細かな傷が増えていたが、動作に問題はない。レンズを覗き込み、手ぶれ補正の具合を確かめてから、満足して電源を落とす。
あの異常個体との戦闘は、今まで撮影してきた中でも特に印象深いものだった。久世の動きは速く、剣を振るうたびに周囲の空気まで変わるようだった。あれほど激しい戦闘を間近で撮影できる機会は、そう多くないだろう。
できることなら、もう一度撮ってみたい。そんなことを考えながら機材を片付けていると、スマートフォンが短く震えた。画面には、探索者協会から届いた通知が表示されている。
高尾ダンジョンで発生した異常個体事件について、関係者を対象とした非公開の調査報告会を実施するという案内だった。日時は明日の午後。場所は探索者協会の会議室。映斗は通知を最後まで読み、壁の時計に目を向けた。
「そろそろ寝ないと」
カメラをバッグに収め、寝る準備を整える。明日は撮影の仕事ではない。それでも、何が起こるか分からない場所へ向かうときには、いつもの機材を持っていくのが習慣になっていた。
「……よし」
映斗はもう一度だけ機材を確認してから、小さく呟いて横になり、目を閉じた。
◇ ◇ ◇
翌日の午後、探索者協会に到着したときには、報告会の開始時刻が近づいていた。
受付で案内を受け、映斗は建物の奥にある会議室へ向かった。廊下には職員の姿がちらほら見えるものの、普段の受付周辺と比べると静かだった。指定された部屋の前で足を止め、軽く扉を叩く。
「失礼します」
扉を開けると、すでに何人もの関係者が集まっていた。長机が並べられた会議室の前方には大型のモニターが設置され、協会職員が資料の準備を進めている。席についている者もいれば、まだ立ったまま話をしている者もいた。その中で、映斗は見覚えのある大きな背中を見つけた。
久世恒一だ。彼の前には、若い女性と三人の探索者が立っていた。
「本当に、ありがとうございました。久世さんが来てくれなかったら、私たち……」
女性は深く頭を下げた。映斗はその顔を見て、すぐに思い出した。高尾ダンジョンで異常個体に襲われていた、あのアイドルだった。近くに立つ三人も、彼女と一緒に配信していたDランク探索者たちだろう。あの日は怪我を負っていたが、今は全員が自分の足で立っている。
「気にするな。全員無事に戻れたんだ。それで十分だろ」
久世は気負った様子もなく答えた。
「でも、あのときは本当に……」
「礼ならもう十分もらったよ。これ以上頭を下げられると、こっちが困っちまう」
久世が苦笑すると、女性もようやく顔を上げた。
映斗は会話を邪魔しないよう、空いている席へ向かおうとした。そのとき、Dランク探索者の一人がこちらを振り向いた。
「あっ、あなたは!」
思いのほか大きな声に、映斗は足を止める。
「えっと、俺ですか?」
「そうです。あのとき久世さんと一緒にいたカメラマンの方ですよね?」
映斗が頷くと、探索者はすぐに歩み寄ってきた。
「ちゃんとお礼を言えていなかったので。あのときはありがとうございました。俺たちを地上まで運ぶのも手伝ってくれたって聞きました」
「いえ、俺は少し手伝っただけですから。無事でよかったです」
映斗がそう返すと、探索者はもう一度頭を下げた。その様子を見ていた久世が、こちらへ顔を向ける。
「おう、山陰。来たか」
「久世さん。こんにちは」
「相変わらずカメラ持ってんのか?」
「はい。使う予定はないんですけど、なんとなく」
「ははっ。お前らしいな」
久世は楽しそうに笑い、映斗の肩を軽く叩いた。そこで、会議室の奥から声が聞こえてきた。
「あれ、あの人……」
振り向くと、三人の若い探索者がこちらを見ていた。大剣を背負っていた少年と、水魔法を使っていた少女、それから短剣を扱う少女。高尾ダンジョンの五階層で出会い、帰りには負傷者の搬送を手伝ってくれた三人だった。
映斗は軽く会釈する。
三人もそれぞれ頭を下げたが、協会職員が開始を告げたため、それ以上話すことはなかった。
◇ ◇ ◇
「本日はお集まりいただきありがとうございます。定刻となりましたので、調査報告会を始めます。」
会議室の前方に立った男性職員が、集まった関係者を見渡した。
「先日、高尾ダンジョンで発生した異常事象について、現時点で判明している調査結果をご説明します。なお、今回お伝えする内容には一般公開していない情報が含まれますので、取り扱いには十分ご注意ください」
照明が少し落とされ、前方のモニターに高尾ダンジョンの見取り図が映し出された。職員はまず、通常とは異なるモンスターの出現状況について説明を始めた。
六階層ではブラックコボルトが確認され、七階層ではその数が増加。さらに、本来その階層には出現しないルナホーンディアが目撃されている。八階層では、通常は十階層のボスとして出現するキングルナホーンディアが確認された。
「これらの出現状況について、現在も調査を継続しています。ただし、ダンジョン内部の魔素濃度や地形に、明確な変化は確認されていません」
映斗は配布された資料に目を落とした。魔素濃度の測定結果や、各階層で確認されたモンスターの種類が細かく記載されている。
あの日、映斗が見ていた配信でも、普段とは違うモンスターが次々に現れていた。偶然にしては、あまりにもおかしな状況だった。
「続いて、今回確認された異常個体についてご説明します」
画面が切り替わり、黒い皮膚を持つ人型のモンスターが映し出された。長い腕、鋭い爪、赤く光る目。映斗には見覚えのある姿だった。
「こちらは、現場で回収された残骸と記録映像をもとに作成した資料です。異常個体は極めて高い身体能力と耐久力を持ち、強力な火炎系の魔法攻撃を行うことが確認されています」
職員は画面を操作し、身体の各部位を拡大した図を表示した。
「討伐後に残された組織を解析したところ、一つの個体でありながら、構造や性質の異なる複数の生体組織が確認されました」
会議室の空気がわずかに変わった。映斗も資料から顔を上げる。
「これらの組織は互いに結合していますが、形成過程については不明です。また、それぞれの組織が何に由来するのかも、現時点では判明していません」
職員は一度言葉を切り、次の資料を表示した。
「特に四肢の関節周辺では、異なる組織が複雑に結合した構造が確認されています。通常の生命体では説明しにくい特徴であり、何らかの外的要因が関与した可能性も含めて調査を進めています」
複数の異なる組織が、一つの身体を形作っている。映斗はモニターに映る断面図を見つめた。あのとき、異常個体が火を放つ直前に、肩や脚の隙間が開いていた。そこが映像に収まるよう久世に立ち位置を伝えたことを思い出す。
内部があんな構造になっていたのか。
映斗は少し身を乗り出し、図の細部に目を凝らした。
「また、異常個体の残骸から魔石は確認されていません。通常のモンスターと異なり、討伐後も肉体が消滅しなかった点についても、原因は不明です」
会議室の後方で、誰かが小さく息を呑んだ音が聞こえた。
職員は質問を受け付けながら、調査結果の説明を続けた。途中、久世にも戦闘時の状況について確認が入った。
「久世さん。交戦中、異常個体の行動に変化はありましたか?」
「ああ。こっちの攻撃を受けてから、明らかに動きが変わった。斬撃への対処が早くなったし、同じ攻め方は通じにくくなったな」
「学習能力があった、ということでしょうか」
「そこまでは分からん。ただ、単純に暴れてるだけの相手じゃなかった」
久世はそれだけ答えると、再び椅子の背に身体を預けた。
映斗はその言葉を聞きながら、あの戦闘を思い返していた。久世の剣が通じなくなった場面も、異常個体が攻撃の仕方を変えた場面も、カメラ越しに見ていた。あのときの映像を、もう一度じっくり確認できたら面白そうだ。そんなことを考えていると、職員が次の説明に移った。
「なお、高尾ダンジョンについては、異常事象の発生原因が特定できていないため、引き続き一般探索者の立ち入りを制限します。再開時期については、安全性が確認され次第、改めてお知らせします」
映斗は小さく頷いた。原因が分からない以上、仕方のないことだろう。もっとも、あのダンジョンで撮影できなくなるのは、少し残念だった。
◇ ◇ ◇
「それでは、実際の戦闘記録をご覧いただきます」
職員の言葉に、映斗は顔を上げた。モニターに映し出されたのは、見慣れた映像だった。高尾ダンジョンの六階層。薄暗い通路の先で、黒い巨体がゆっくりと動いている。映斗が撮影した映像だ。
異常個体が低い咆哮を上げる。続いて、久世が地面を蹴った。剣が振るわれ、硬いものがぶつかり合う音が会議室に響く。異常個体の腕が動き、久世がそれをかわす。画面は激しく動く二人を追いながらも、攻撃の瞬間を逃さず捉えていた。
映斗は無意識に画面へ集中した。あの場面では、もう少し右に寄れたかもしれない。久世が踏み込む直前、足元まで入れておけば、動きの速さがもっと伝わったはずだ。
異常個体が火球を放つ場面では、爆発に合わせてカメラを引いている。悪くはない。ただ、壁に炎が広がるところまで収められれば、攻撃範囲の大きさがもっと分かりやすかっただろう。映斗がそんな反省をしている間にも、映像は進んでいった。
久世が攻撃をかわし、懐へ踏み込む。鋭い斬撃が走った直後、敵の動きが変わった。
職員が映像を一時停止する。
「こちらをご覧ください。攻撃を受けた直後、異常個体は腕の位置を変えています。この後、同じ方向からの斬撃に対して防御行動を取るようになりました」
説明に合わせて映像が再生される。異常個体の腕が久世の剣を弾き、火球が通路を照らした。画面の中で久世が身を翻す。その姿は、炎の明かりに照らされながらも鮮明に映っていた。
映斗は映像を見つめたまま、少しだけ首を傾げた。撮影中は気付かなかったが、あの場面ではレンズに細かな埃が付着していたらしい。画面の端に、わずかな光のにじみが見える。
帰ったら、もう一度清掃しておこう。そう考えたところで、斜め後ろから小さな声が聞こえた。
「……すごくない?」
映斗は映像から視線を動かさず、意識だけを声のする方へと向けた。どうやら声の主は、先ほど会釈を交わした短剣使いの少女のようだ。隣の水魔法使いも、モニターから目を離さずに頷いている。
「うん。あんなに動いてるのに、全然見づらくない」
「久世さんの動き、こんなにはっきり見えるんだな……」
大剣使いの少年も、感心したように呟いた。
映斗は少し不思議に思った。久世の動きがすごいのは、確かにそのとおりだ。けれど、撮影そのものについては、まだ改善できるところがいくつもある。
映像は終盤へ差しかかっていた。異常個体が両腕を広げ、身体の各所から炎が噴き出す。久世が一気に間合いを詰めた。次の瞬間、四つの斬撃が走り、異常個体の巨体が大きく揺らぐ。轟音とともに身体の内側から炎が噴き上がり、黒い巨体が崩れ落ちた。
画面が暗転する。会議室に静けさが戻った。
「以上が、討伐時の記録映像です」
職員はモニターを操作し、先ほどの資料へ画面を戻した。
「今回の調査では、この映像からも多くの情報を得ることができました。撮影に協力していただいた山陰映斗さんにも、改めて感謝申し上げます」
突然名前を呼ばれ、映斗は顔を上げた。
「えっ、あ、はい」
慌てて頭を下げると、近くに座っていた久世が小さく笑った。
「あの状況で、よくあそこまで撮れたもんだ」
映斗は困ったように頬を掻いた。
「久世さんが戦ってくれたからです。俺は撮ってただけなので」
「その撮るだけってのが、なかなかできねえんだけどな」
久世はそれ以上何も言わず、前方へ視線を戻した。映斗も椅子に座り直す。
報告会はその後、質疑応答を経て終了した。異常個体の正体は依然として分からず、高尾ダンジョンの立ち入り制限も続く。明らかになったことより、まだ分からないことの方が多いようだった。
◇ ◇ ◇
報告会が終わると、会議室には椅子を引く音や、資料を片付ける音が広がった。映斗も配布資料をバッグにしまい、席を立つ。帰ったら機材の点検をして、また撮影の募集を探そう。そう考えながら出口へ向かおうとしたところで、背後から声を掛けられた。
「あの、山陰さん!」
振り返ると、先ほどの三人が立っていた。声を掛けてきたのは、大剣使いの少年だった。
「俺、桐谷岳っていいます。この前、高尾で会ったの、覚えてますか?」
「はい。負傷した人たちを運ぶのを手伝ってくれた方ですよね」
「そうです! 覚えててくれたんですね」
岳は嬉しそうに笑った。
「私は白瀬瑞希です。こちらは風間凛花」
「よろしくね、山陰さん」
「山陰映斗です。よろしくお願いします」
改めて挨拶を交わすと、岳は待ちきれない様子で身を乗り出した。
「あの、さっきの映像なんですけど、あれ本当に山陰さんが撮ったんですよね?」
「はい。そうですけど」
「すごかったです! 俺たちもあの戦闘、少しだけ見てたんですけど、あんなに見やすく撮れるものなんですか?」
映斗は一瞬、返事に迷った。あの映像は、自分としては反省点も多い。ただ、岳の目があまりにも真剣だったので、適当に答える気にはなれなかった。
「そうですね……。久世さんの動きが速かったので、追いかけるというより、次にどこへ動くかを考えながら撮っていました」
「次にどこへ動くか?」
「はい。ずっと後ろから追っていると、動いた瞬間に画面から外れちゃうんです。だから、踏み込みそうな方向に少し余裕を持たせたり、相手との距離が分かる位置を選んだりしてます」
映斗はバッグの肩紐を持ち直しながら続けた。
「あと、戦っている人だけを大きく映せばいいわけでもなくて。相手の攻撃がどこから来るのか分からないと、見ている人も状況を理解しにくいので」
話しているうちに、あの日の戦闘が頭の中によみがえってきた。久世が踏み込む瞬間の足運び。異常個体が腕を振り上げる動作。火球が放たれる直前の、わずかな間。
どこにカメラを置けば、あの迫力がもっと伝わっただろう。
「本当は、もう少し引いた方がよかった場面もあるんですけどね。あのときは通路が狭かったので、画面に収められる範囲が限られていて……」
そこまで話して、映斗ははっとした。三人が黙ってこちらを見ている。
「あ、すみません。ちょっと話しすぎました」
「いやいや、全然!」
岳は勢いよく首を振った。
「むしろ、もっと聞きたいくらいです。俺たち、今までドローンで撮ってたんですけど、そんなこと考えたことなかったんで」
岳の言葉に、映斗は頷いた。
「ドローンにも良いところはありますよ。広い範囲を映せますし、パーティー全体の動きも分かりやすいですから。ただ、戦っている人の細かな動きや、その場の迫力を伝えるなら、人がカメラを持って撮った方が良い場面もあると思います」
「なるほどなぁ……。そういう違いがあるんですね」
岳が感心したように頷くと、映斗は少し考えてから言葉を続けた。
「……実は以前、皆さんの配信を見たことがあるんです」
「えっ、俺たちの配信ですか?」
「はい。大剣と水魔法、それから二本の短剣を使った三人の連携が印象に残っていて。あのときも、こういう角度から撮ったら面白そうだなって考えてました」
思い返すと、自然と撮影の構図が浮かんでくる。
岳が大剣を振るう瞬間には、少し低い位置から見上げるように撮りたい。瑞希の水魔法は、手元で水が形を成すところから映せば、発動までの流れが伝わるはずだ。凛花の素早い動きも、移動する先を予測してカメラを向ければ、画面の中で見失わずに済む。三人が連携する場面では、誰を中心に据えるかによって映像の印象が大きく変わるだろう。
「山陰さん?」
瑞希に呼ばれ、映斗は我に返った。
「あ、すみません。前に配信を見たときのことを思い出してました」
「何か気になるところがありましたか?」
「いえ、皆さんの戦い方が面白かったなと思って。撮るなら、いろいろ試してみたいなって」
そう言うと、凛花が興味深そうに首を傾げた。
「例えば?」
「そうですね。桐谷さんが大剣を振るときは、少し低い位置から撮ると迫力が出ると思います。白瀬さんの魔法は、手元から水が形になるところを入れたいですし、風間さんは移動が速いので、動き出す前から進む方向を画面に入れておきたいですね」
映斗は言葉を選びながら説明した。
「三人が同時に動く場面も、撮る位置を変えるだけでかなり印象が変わると思います」
話し終えると、岳はしばらく黙っていた。瑞希と凛花も顔を見合わせている。
何か変なことを言っただろうか。映斗が少し不安になったところで、岳が勢いよく口を開いた。
「や、山陰さん!」
「はい?」
「今度、俺たちの探索を撮ってもらえませんか!」
予想していなかった言葉に、映斗は目を丸くした。
「えっ、俺がですか?」
「はい! 一回だけでもいいんです。さっきの映像を見て、俺たちもあんなふうに撮ってもらいたいって思ったんです」
岳は真剣な表情で続けた。
「今までドローンで十分だと思ってたんですけど、山陰さんの話を聞いたら、全然違う映像になるんじゃないかって」
隣で瑞希が小さく息をついた。
「岳、いきなりすぎるでしょ。山陰さんにも予定があるんだから」
「あ、そっか。すみません!」
「それに、正式にお願いするなら報酬の話もしないと」
瑞希は映斗に向き直った。
「突然で申し訳ありません。もしご都合が合えば、一度だけ私たちの探索を撮影していただけないでしょうか。報酬は通常のカメラマンの方と同じように、探索収益から分配する形で考えています」
「私もお願いしたいな」
凛花が笑顔で続けた。
「さっきの映像、すごく格好よかったし。私たちがどう映るのか、ちょっと見てみたい」
三人の視線が映斗に集まった。映斗はすぐには答えなかった。
頭の中には、先ほど思い出した蒼星の配信が浮かんでいる。岳の大剣が振り下ろされる瞬間。瑞希の水魔法が敵を捉える場面。凛花が素早く敵の背後へ回り込む動き。あのとき、画面を見ながら何度も考えた。
自分なら、こう撮るのに。
それを実際に試せる機会が、目の前にある。映斗は自然と口元が緩むのを感じた。
「……ぜひ、お願いします」
岳の表情がぱっと明るくなった。
「本当ですか!」
「はい。ちょうど次の撮影先を探していたところでしたし、皆さんの戦闘は前から一度撮ってみたいと思っていたので」
「よっしゃ!」
岳が思わず拳を握る。瑞希は呆れたように笑い、凛花も楽しそうに肩を揺らした。
「よかったね、岳」
「うん。でも、まずは日程を決めないと」
「ああ、そうだった!」
岳は慌ててスマートフォンを取り出した。
そこからは、瑞希を中心に話が進んだ。高尾ダンジョンはまだ立ち入りが制限されているため、次の探索では別のEランクダンジョンを利用する予定だという。日程と集合場所を確認し、報酬についても通常の分配方式で合意した。
連絡先を交換したところで、岳が改めて頭を下げる。
「それじゃあ山陰さん、次の探索、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「私たちも楽しみにしています」
「格好よく撮ってね、山陰さん!」
凛花が冗談めかして言うと、映斗は思わず笑った。
「頑張ります。皆さんの戦闘、できるだけ良い映像にしたいので」
その返事に、岳は嬉しそうに頷いた。
◇ ◇ ◇
協会を出る頃には、空が少しずつ夕方の色に変わり始めていた。
映斗は駅へ向かいながら、スマートフォンを取り出した。画面には、先ほど交換した『蒼星』の連絡先と、次の探索予定が表示されている。久しぶりに決まった撮影の仕事だった。しかも、相手は以前から撮ってみたいと思っていた三人だ。映斗は歩きながら、頭の中でカメラの位置を考え始めた。
岳の大剣を撮るなら、少し低い位置がいい。ただ、振り抜いた後の動きまで入れるには、横方向にも余裕が必要だろう。瑞希の魔法は、発動前から撮っておきたい。凛花の動きは速いから、足運びをよく見ておかないといけない。
三人が連携する場面では、誰を中心に置くかで映像の印象が変わるはずだ。考えれば考えるほど、試してみたい構図が増えていく。
映斗はスマートフォンをポケットにしまい、少しだけ歩く速度を上げた。帰ったら、まずは『蒼星』の過去の配信をもう一度見てみよう。今度は、自分がカメラを持ってあの場に立つつもりで。
そう考えるだけで、次の探索が待ち遠しかった。
読んでいただきありがとうございます。
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