表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった  作者: 鳥助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/38

22.命を賭けろ

 そこに、いるはずのない影が立っていた。


 扉の向こう。薄暗い廊下の奥に、メイド服を纏った人影。だが、その顔は仮面で覆われ、深く被ったフードが表情を完全に隠している。


 異様だったのは、その手に握られた剣。刃から滴る血が、ぽたり、ぽたりと絨毯に落ちている。


 部屋の前には、護衛騎士がいたはずだ。……いた、はずなのに。


 喉の奥がひくりと引きつる。血の量が、何を意味するのか理解してしまったから。


「そ、そんな……なんで? ここに、暗殺者が来るの……?」


 隣でルティアの声が震えた。顔から血の気が引き、目を見開いているはずだ。もう来ないと信じていた恐怖が、再び目の前に現れたのだから。


 本来、暗殺者が現れるのは死に戻りから一か月後。だけど、今回はまだ数日しか経っていない。……早すぎる。


 ルティアがメイドを排除するという行動を取ったからだ。未来を変えた。その歪みが、予定を前倒しにした。


 これが、未来を動かした代償。ぞくり、と背筋を冷たいものが這う。でも、立ち止まるわけにはいかない。


「ルティア様は、ここにいてください!」


 叫ぶと同時に、ベッドから飛び降りる。足裏に伝わる床の冷たさが、意識を鮮明にした。


 自分のメイド服に駆け寄り、隠していた二本のナイフを引き抜く。手に馴染む重み。呼吸を整え、刃先をわずかに持ち上げる。


 そして、ルティアと暗殺者の間に立った。


 距離は十数歩。仮面の奥から、じっと視線が突き刺さる。暗殺者は動かない。ただ、私を観察している。


 邪魔だ。そう言外に告げる、冷え切った気配。一瞬だけ、戸惑いの色が空気に混じった。標的の前に、想定外の障害が立ったからだろう。だが、それも刹那。


 次の瞬間、空気が変わった。濃密な殺意が、肌を刺す。呼吸が重くなる。心臓の鼓動が、どくん、と大きく鳴った。


 排除する。ただそれだけの、感情のない殺気。それがルティアに向けられていると理解した瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


 怖さよりも先に、怒りが込み上げる。また奪う気なの?


 背後で、ルティアの呼吸が乱れているのが分かる。その震えを感じた瞬間、迷いは消えた。


「……ルティア様には」


 低く、静かに告げる。


「指一本、触れさせない」


 言い切った瞬間、床を蹴った。一気に距離を詰める。視界が細く絞られ、暗殺者の喉元だけがはっきりと見えた。右手のナイフを逆手に構え、左手は牽制。


 初撃は速さ重視。一直線に踏み込み、斜め下から切り上げる。


 ――キィンッ!!


 甲高い金属音が室内を裂いた。暗殺者の剣が、紙一重で受け止める。衝撃が腕を痺れさせるが、止まらない。弾かれた勢いを利用し、体を回転させて二撃目を叩き込む。


 喉。心臓。急所だけを狙う連撃。だが、剣が閃くたびに、軌道を逸らされる。速い。重い。そして、無駄がない。


 次の瞬間、視界がぶれた。


 ――浅い。


 胸元に熱が走る。遅れて、血が滲む感覚。斬られた。だが、引かない。


 踏み込む。刃が私の肩を掠め、布が裂け、皮膚が切れる。それでも、至近距離に潜り込んだ。


「っ――!」


 左のナイフを、脇腹へ。少しの手応えを感じた。布と肉を裂く感触が、確かにあった。


 暗殺者の動きが、わずかに鈍る。その隙を逃さない。右、左、右。嵐のように刃を振るう。


 だが、その代償に、私の体も容赦なく斬り刻まれていく。太腿に鋭い痛み。腕に深い裂傷。血が飛び散り、視界の端を赤く染める。


 息が荒い。肺が焼ける。それでも、後ろには下がれない。背後には、ルティアがいる。守ると決めた。ルティアが傷つくくらいなら、死んでやり直す。


 剣が振り下ろされ、半歩ずらして受け流す。完全には避けきれず、脇腹が裂ける。視界が白く弾けるほどの痛み。


 大丈夫。ルティアが傷ついていなければ、それでいい。この痛みは自分だけのものだ。


「もうやめて、マナ! 私のために戦わないで!」


 その時、ルティアの叫び声が聞こえ――体を抱きしめられる。


「私のせいで傷つくのはやめて! お願いだから、私を見捨てて逃げて! これ以上、あなたが傷つくのを見るのが嫌なの!」


 叫びながら、ルティアは私を抱きかかえ、その場に蹲った。まるで自分の体で覆い隠すように。


 だめだ、そんなことをしたら。標的は、あなたなのに。


 顔を上げた瞬間、暗殺者の動きが変わった。剣を引き、代わりに懐へ手を差し入れる。次の瞬間、月光を弾く銀の軌跡が、いくつも宙に走った。


 投擲。一直線に、ルティアへ。


「ルティア様!」


 反射だった。ルティアの腕を振りほどき、無理やり前へ出る。体勢も何も整っていない。ただ、間に入ることだけを考えて。


 両手のナイフを振るう。


 キンッ、キィンッ――!


 飛来する刃を弾き落とす。だが、数が多すぎる。弾き切れない。


 その時、鋭い衝撃が腹部に突き刺さった。次いで、肩。太腿。


「ぐっ……!」


 息が詰まる。体の奥に、冷たい鉄が入り込む感覚。遅れて、焼けつくような痛みが爆発した。足が崩れて、膝をつく。


「いやあぁぁぁっ! マナ、マナ、マナ!」


 背後で、悲鳴が裂ける。体に突き立ったナイフの柄が、視界の端で揺れている。血が溢れ、床に滴り落ちる。


 でも後ろには、傷一つないルティアがいる。それだけで、十分だ。


「……無事、ですか……」


 振り返らずに問う。声が掠れる。


「なんで……なんでこんなこと……! 抜かなきゃ、血が……!」

「抜かないで……今は、だめ……」


 視界が滲む。けれど、仮面の奥の無だけははっきりと見えた。暗殺者は一歩も動かない。ただ、こちらを測るように見据え――ゆっくりと、再び懐へ手を入れた。


 嫌な予感が、背筋を走る。次の瞬間、複数の銀閃が空気を裂いた。狙いは、一直線。


 私ではない。――ルティア。


「っ!!」


 考えるより先に、体が動いた。最後の力を振り絞り、踏み込む。ぐらつく足を無理やり前へ出し、ルティアを押し倒すように抱き寄せる。


 そのまま、覆いかぶさった。直後。


 ドスッ――!


 鈍い衝撃が、背中を貫いた。一瞬、何が起きたのか分からない。遅れて、熱が爆ぜる。


 一本。二本。三本。何本も、何本も。背中に突き立つ感触が、骨を震わせる。


「――ぁ……」


 声にならない息が漏れた。肺がうまく動かない。空気が入らない。激痛が脊髄を駆け上がり、視界が白く弾ける。それでも、腕だけは離さなかった。


 ルティアを、強く抱きしめる。無傷だ。それが分かった瞬間、全身の力が抜けた。支えきれず、そのまま覆いかぶさる形で床に崩れ落ちる。


「いやぁぁあああっ! マナ、マナしっかりして!」


 耳元で、絶叫が響く。頬に、温かいものが落ちる。涙だと、ぼんやり理解する。


 ああ……泣かせちゃった。だめ、なのに。


「……無事、で……よかった……」


 喉に血が絡む。うまく息ができない。


 背中に刺さった刃が、心臓の鼓動に合わせて微かに震える。そのたびに、意識が遠のきそうになる。


「嫌……嫌よ……目を閉じないで……! 誰か、誰か来て! お願い、マナを助けて!」


 必死な叫びが、遠くなっていく。視界の端で、暗殺者がこちらへ歩み寄るのが見えた。


 力を振り絞って、床に倒れるルティアの上に覆いかぶさる。私は大丈夫。だけど、ルティアには指一本触れさせない。


「いやぁぁっ、マナァ、いやぁぁっ……!」


 大粒の涙を流し、曇った目で見上げている。そんな顔をさせないと誓ったのに、またさせてしまった。


 胸が締め付けられて、ナイフよりも辛い。でも、私は大丈夫。ルティアが傷つくくらいなら――私が死ぬから。


 精一杯の笑顔を浮かべて、安心させるように心を尽くす。


「絶対にあなたを守ります」


 そして、剣が私の体を貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載!

スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~

旧作

転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

追放を計画的に利用して自由を掴んだ王女、叡智と領地改革で無双する

転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした

スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜

ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる

元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~

異世界喫茶で再出発ライフ

ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する

推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする

過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった


この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

コミュ障クラフターの私、引き継いだ能力が異世界では規格外すぎて無自覚に無双してしまう件~地味に暮らしたいだけなのに、なぜか注目されて怖いんですが~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ