20.王女の権限(2)
「じゃあ、マナ。行ってくるわね。無理はしないでね。ちゃんと、休むのよ。それと、それと……」
「大丈夫です。ルティア様、いってらっしゃいませ」
私の目線に合わせて屈むルティアを急かすようにいう。後ろからも侍女に何かを言われ、不機嫌そうにふくれ面をする。
ようやく立ち上がると、こちらを振り返りながらもルティアは去って行った。その姿をメイド一同、お辞儀をしてお見送りをした。
「今日もルティア様はルナにぞっこんだったわね。モテる女は辛いわね」
「そ、そんなことは……。ただ、小さいから気を使ってくれるだけですよ」
「そんな風には見えないなぁ。でも、マナがいてくれるお陰で、ルティア様の機嫌がいいから大助かりよ」
「そうそう。前は公務で疲れて元気がなかったのに、今はあんなに元気に……。マナのお陰ね」
すると、メイドたちから誉め言葉が降ってきた。そうして頭を撫でられると、気が緩んでしまう。
「そんなルティア様のためにもお部屋は綺麗にしておかなくちゃね」
「他の雑用も完璧にこなさなくちゃ」
「今日もバリバリ働くわよ」
「はい!」
全員で気合を入れると、掃除道具を持ってルティアの部屋に入っていった。今日もいつも通りの日々が始まる。
◇
「よし、今日は完璧!」
掃除も終わり、備品の管理も終わり、休憩時間という名の修行も終えた。その後は素早く体を拭いて、着替えて、私室の前に立ってルティアを待つ。
昨日のように、汗のままルティアの前に出ることもない。これなら、きっと迷惑はかけないはずだ。
そうして一人で待っていると、続々と休憩が終わったメイドたちが姿を見せた。
「あら。マナ、今日は早かったのね」
「はい。昨日のようにならないように早く来ました」
「そうよねぇ……汗を嗅がれるなんて恥ずかしくて耐えられないもの」
「じゃあ、今はどんな匂いがするか確認しちゃおうかしら?」
「や、やめてください!」
からかわれると、他のメイドがおかしそうに笑う。そのまま並びながら、ルティアの帰りを待つ。しばらく雑談をしていると、廊下の向こうからルティアの姿が見えた。
すると、途端にメイドたちは姿勢を正して、表情を引き締める。こういう時はちゃんとするから、信用できる人たちだ。私も同じようにルティアを待った。
そして、ルティアが目の前に来ると――。
「おかえりなさいませ、ルティア様」
「えぇ、ただいま」
メイド一同お辞儀をしてお出迎えをする。すると、ルティアの声だけが聞こえてきた。どうやら今日は昨日のように抱きつきはしないらしい。
そのことにホッとしつつ、顔を上げた。そこへ、侍女がスッと前に出てきた。
「マナ以外に話があります。着いてきてください」
その言葉に皆で不思議そうな顔をする。侍女は歩き出すと、慌てたように他のメイドが後を追っていった。
どうして、私以外を呼んだのだろう? その答えを求めるためにルティアを見ると、ルティアはこちらを見て微笑んでいた。
「あの三人が気になる?」
「はい……。どうして、私以外なんでしょうか?」
「だったら、お部屋でお話しましょう」
ルティアは私の手を握り、部屋へといざなった。手を引かれるままについていくと、椅子に座らされ、ルティアは屈んだ。
「マナ、これで大丈夫。暗殺者はいなくなったわ」
「どういうことですか?」
いきなりそんなことを言われて驚いた。もしかして、ルティアは暗殺者の正体に気づいていたとか?
「マナがメイドの中に暗殺者がいるって言ったから――全員解雇したわ」
「えっ……」
「明日中にはいなくなっている。これで、マナが死ぬことがなくなったの」
……そ、そんな。全員を辞めさせた? 関係のない人も?
「でも、全員が暗殺者なわけじゃ……」
「一人ずつ調査していたら、時間が足りないわ。だから、マナを守るためには強引な手段が必要だと思ったの。大丈夫、他の仕事の斡旋をしておいたから、困ることはないわ」
ま、まさか……昨日言っていたことってこれのこと? これだと暗殺者はここには来れない。ということは、ルティアは守られた?
「これでマナが傷つくことはないし、痛い思いをしなくてもいい、私を守って死ぬこともない。これで、平和な日常が入ったわ」
うっとりとした様子で言った。じゃあ、これ以上ルティアが曇らなくて済む?
「新しいメイドが入るまで、マナには苦労をかけると思う。出来るだけ早く新しいメイドを入れるから、今は辛抱してちょうだい」
「それは大丈夫です。ルティア様を支えるのは苦労ではないので」
「そう言ってくれて嬉しいわ。私はマナがいればそれでいいのだけれど、身の回りの事を全部やってもらうのは気が引けるの。だから、我慢して頂戴」
ちょっと不安そうだけど、それを和らげるために頷いて見せた。すると、パァッと明るい表情になり、抱きついてきた。
「これからはずっと一緒よ!」
これで、ルティア様が曇らなくなったのは良い話だ。少し、ホッとした気持ちになりながら、その体を抱きしめ返した。




