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この物語の作者を当ててください  作者: 週休七日


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2/7

清書係

 二時間前には、五人とも同じ食卓についていた。


「先生の本には、いつも店の一等地を使っています」


 夏帆が言った。


「ありがたいね」

「半分は本です」

「残り半分は?」

「発売延期のお知らせです」


 修一が笑った。


 真壁は頭を下げながら、皿に残っていた唐揚げを修一へ譲った。


「今度こそ出します。本当に。今夜、完成原稿をいただければ」

「人が食ってるときに締切の話をするなよ」

「食べていないときは、先生、電話に出ないでしょう」


 犬飼まで口元を緩めた。


 窓の外では雨が降っていた。


 住宅地の坂を上がったところにあるこの家は、夜になると、隣家の明かりより木々の影の方が近くなる。

 紬が立って、暗い窓のカーテンを閉めた。


「紬さんの分、なくなりますよ」


 夏帆が隣の椅子を引いた。


「あとでいただきます」

「あとで食べる人の分は、だいたいなくなるんです。書店員の差し入れで学びました」


 紬が席に戻ると、真壁が小さな皿を寄せた。

 唐揚げが二つ残してあった。


「先生だけじゃなく、紬さんにも栄養をつけてもらわないと。今回も大変だったでしょう」


 紬が答えるより先に、修一が言った。


「もう最後の一枚だけです。あとは清書。紬は、それが早いからね」


 真壁がうなずいた。


「字もきれいですしね。先生の字より読みやすい」

「俺に似てきたんだよ。ずっと写してるから」


 紬は箸をそろえた。


 夏帆が修一へ顔を向けた。


「今度のお話、最後はどうなるんですか」


「聞いたら売れなくなるだろう」

「読まなくても売りますけど、読めば、もっと売ります」


 修一はグラスを持ち上げた。


「主人公の女が、夫を許す」


 夏帆は相槌を打たなかった。


「夫に利用されて、人生をめちゃくちゃにされた女が、最後に全部を許すんだ。やっぱり読後感はよくないと」


 紬の箸が、皿の縁に触れた。


 小さな音だった。


「許さないと、後味が悪いんでしょうか」


 修一が妹を見た。


「何だよ。最後に揉めるなよ」

「揉めているんじゃなくて」

「人を許す話は売れるんだよ。なあ、真壁」


 真壁はグラスの水を一口飲んだ。


「そこまでの書き方次第でしょう。先生の作品ですから、最後は先生が決めることです」


 犬飼が箸を置いた。


「現実の事件だと、人を許したかどうかまでは、報告書に書けませんけどね」


「だから小説があるんでしょう」


 修一が言った。


「現実でできないことを、やるために」


 紬は、何も言わなかった。


 食事が終わると、修一は真壁を連れて書斎へ行った。


 食器を下げていた紬が廊下を通りかかったとき、書斎のドアが閉まった。

 完全に閉まる直前、修一の声が聞こえた。


「明日、会社に全部話す。もう先延ばしにはしない」


 真壁の返事は聞こえなかった。


 八時五十五分。

 二人は書斎から出てきた。


 修一は紬に向かって、


「最後、言ったとおりに清書して持ってきて」


 と言い、自分だけ書斎へ戻った。


 真壁は玄関で腕時計を見た。


「近くで少し仕事を片づけてきます。十時に戻りますので、それまで先生をよろしくお願いします」


「先生のお守りを頼まれたのは、初めてですね」


 犬飼が言った。


「こちらは二十年目です」


 真壁は笑った。


 紬が傘を渡すと、彼は声を落とした。


「先生、少し気が立ってるけど。君のことを頼りにしてるからだよ」


 紬は傘から手を離した。


「……はい」


 九時。

 真壁は家を出た。

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