ジャム作りを広める
俺は、完成したジャムを小瓶に分け、子供たちの家へ配達していた。
「はい、これ」
「ありがとう!」
「この前集めてもらった野苺で作ったジャムだ」
「どうやって作ったの?」
「作り方も教えておくよ」
俺は鍋を使うところから説明する。
「野苺を鍋に入れて、砂糖も入れる」
「それだけ?」
「うん。あとは弱火で焦がさないように、ゆっくりかき混ぜる」
「そんな簡単なの?」
「そう」
俺は頷く。
「まあ、相手は料理を毎日やってる人だから、俺が教えるまでもないと思うけど」
『その通りです』
「アイ、そこは言わなくていい」
『事実です』
「……」
俺は苦笑する。
「とにかく、そんなに難しくないから作ってみて」
「分かったわ」
「それと――」
俺は少し考える。
「野苺だけじゃなくて、他の木の実でも試してみて」
「他の木の実?」
「うん。甘い物が作れるなら、色々試した方が面白いと思う」
「なるほどね」
「自分たちで好きな味を探してみて」
「分かったわ!」
◇
次の家へ。
「ジャムを持ってきたよ」
「まあ、ありがとう!」
「作り方は――」
さらに次の家へ。
「野苺と砂糖を弱火で煮て……」
「焦がさないように?」
「そうそう」
また次の家へ。
「他の果物でも作れると思う」
「じゃあ、山にある実でも試してみようかしら」
「いいと思う」
同じ説明を、何軒もの家で繰り返す。
最初は俺が教えていたが、どの家でも反応は似ていた。
「そんなに簡単なの?」
「それなら私でもできるわね」
「他の実でも試してみようか」
「子供と一緒に作ってみようかしら」
『非常に良い反応です』
「だな」
「俺が全部作る必要もなくなるし」
『はい』
◇
「ふぅ……」
最後の家へ配達を終える。
「やっと配達終わった……」
『お疲れ様です』
「結構あったな」
『はい。村の家庭数も増えております』
「そうだよな」
最初の頃なら、こんなに配る場所もなかった。
今では家が増え、人も増え、町そのものが大きくなっている。
「しかし……」
俺は空になった手引き台車を見る。
「ジャムを配っただけなのに、結構疲れたな」
『新しい物を村全体へ広める作業ですので』
「確かに」
俺は空を見上げる。
「なんか、新しい物が出来るといいな」
『ですね』
「ジャムだけじゃなくてさ」
『はい』
「砂糖を使って、町の誰かが俺の知らない物を作る」
「そういうのも面白そうだよな」
『非常に興味深いです』
「俺が考えなくても、新しい物が生まれるってことだからな」
『はい』
「そうなったら、俺も食べてみたい」
『誠様が作る側ではなく、食べる側になるわけですね』
「それ、いいな」
『生活に余裕が生まれた証拠とも言えます』
「……」
「そうだな」
最初は、生きるために必死だった。
食べられる物を探して。
道具を作って。水を確保して。住める場所を作って。それが今では――
「新しい物が出来るのを楽しみにする余裕がある」
『はい』
「なんか、すごい変わったな」
『その通りです』
俺は台車を引きながら、家へ戻る。
その背中を見送るように――町のあちこちでは、さっそくジャム作りを始める家庭が出始めていた。
そして野苺だけではなく、別の果物や木の実を使ったジャムが生まれるのも、そう遠くないことだった。




