ジャムの噂
「よし」
完成したジャムを小瓶に分ける。
「これを、手伝ってくれた子供たちの家に持っていくか」
『はい』
俺は子供たちの家を一軒ずつ回った。
「これ、この前集めてもらった野苺で作ったジャム」
「ジャム?」
「パンに塗って食べるんだ」
「こう?」
「そうそう」
親御さんにも食べ方を説明する。
「薄く塗ってもいいし、好きな量で食べていい」
「なるほど……」
「甘いから、子供たちも喜ぶと思う」
「ありがとうございます」
「いやいや。材料を集めてもらったからな」
「子供も喜びます」
「なら良かった」
これで、ジャムを食べてもらえるだろう。
俺はそう思っていた。
◇
次の日。
「なっ!?」
朝から家の外が騒がしい。
「誠にいちゃーん!」
「ん?」
「野苺獲ってきたよ!」
「ぼくもー!」
「わたしもー!」
「……」
俺は目の前に集まった子供たちを見る。
手には――籠。
そして、その中には大量の野苺。
「……」
「お前ら、どうした?」
「ジャム作って!」
「私も!」
「僕も!」
「昨日の美味しかった!」
「もっと食べたい!」
「……」
俺は頭を抱える。
「なるほどな……」
『噂が広がった模様です』
「だよな……」
『「野苺を持っていくと、誠様がジャムを作ってくれる」という情報が、子供たちの間で共有されたと思われます』
「完全に広まってるじゃねーか」
「誠にいちゃん!」
「ん?」
「これもジャムにして!」
「こっちも!」
「いっぱいあるよ!」
「……」
俺は籠を見る。
昨日より多い。
「分かった!」
「出来たら家に持って行ってあげるから!」
「はーい!」
「ありがとう!」
「いっぱい作ってね!」
子供たちは嬉しそうに走っていく。
「……」
俺はその背中を見る。
「なんだか、仕事が増えたな」
『人気商品になったようです』
「まだ一日しか経ってないぞ?」
『子供たちの情報伝達速度は非常に速いようです』
「確かにな……」
◇
俺は集められた野苺を見る。
「これ、全部ジャムにするのか?」
『はい』
「昨日より多いぞ」
『需要が増加しています』
「ジャムが売れてるわけじゃないのに、需要だけ増えていくのか」
『現状では、誠様が無償で提供しております』
「……」
「そうだったな」
『今後、継続して製造する場合は、方法を考える必要があります』
「確かに。毎日俺が作って、毎日配るってわけにもいかない」
『はい』
「子供たちが自分で作るのは難しいし」
『保護者の方々であれば可能と思われます』
「なら――」
俺は少し考える。
「作り方を教えればいいか」
『はい』
「子供たちが集める。大人がジャムを作る。必要なら砂糖を販売する」
『その方が持続可能です』
「なるほど。俺が全部作るんじゃなくて、作れる人を増やす」
『その通りです』
「また同じだな」
『はい』
「最初は俺が作る」
「その後、他の人に教える」
『合理的です』
俺は笑う。
「これでジャムも村の中に広がっていくわけか」
『はい』
「砂糖がある。果物がある。そして作り方がある」
「……」
「意外と簡単に新しい食文化って生まれるんだな」
『生活に余裕が生まれたからこそ可能になったものと思われます』
「そうだな」
俺は再び鍋を用意する。
「よし。今日は昨日より大量に作るぞ」
『はい』
「でも――」
俺は集まった野苺を見る。
「次は誰かに作り方を教える」
『それがよろしいと思います』
「俺がジャム屋になる前にな」
『賛成します』
外から、子供たちの声が聞こえる。
「誠にいちゃーん!」
「ジャムまだー?」
「今作ってる!」
「はーい!」
俺は苦笑しながら、鍋に野苺を入れていく。
こうして、ジャムは誠の予想以上の速さで村に広がり始めた。
そして同時に――
「野苺を持っていけば、ジャムになる」
という、新たな噂まで町中に広がっていくことになった。




