目立つ砂糖工場
「あっという間に完成したな?」
俺は目の前に建つ建物を見上げた。
『驚きの速さです』
「だよなぁ……」
そこには、そこそこの大きさのレンガ造りの建物が建っている。
今のところ、この村で最大の建物だ。
「これ、目立ちすぎないか?」
『今のところは、そうですね』
「だよな」
周囲の建物と比べても明らかに大きい。
何より、新しく建てられたばかりなので余計に目立つ。
「まあ……何を作ってるかまでは、分からないだろうけど」
『はい』
その時。
「おーい!」
兵士たちが次々と工場へ入っていく。
原料を運ぶ者。道具を持っていく者。
作業場へ向かう者。
「……」
俺はその様子を眺める。
少し離れた場所では、町人たちも工場を見ていた。
「軍の施設か……」
「兵士が入っていったぞ」
「何か重要な物でも置くのか?」
そんな声が聞こえてくる。
「……」
「なるほど」
俺は少し頷く。
「町人からすれば、軍の施設にしか見えないか」
『その可能性が高いと思われます』
「タタも、上手くやったな」
『はい』
「これなら砂糖工場だとは思わないだろう」
『現状では、その可能性は低いです』
俺は工場を見る。
「しかし……ここまで考えてるのか?」
『いえ』
「え?」
『恐らく、たまたまです』
「……」
「だよな」
兵士が大勢いて。
その兵士たちが大きな建物へ入っていく。
それだけなら、軍の施設に見えて当然だ。
「じゃあ、俺も中に入るか」
『それはやめてください』
「なぜだ?」
『目立ちすぎます』
「そうか?」
『はい』
『誠様がこの工場へ入っていけば、町人からすれば「誠様がまた何かを始めたのでは?」という話になる可能性があります』
「……」
「確かに」
俺は工場を見る。
「でも、その前は兵隊さんたちと一緒にいたぞ?」
『恐らく、その時は町人も「何かの話し合いをしている」と考えていたと思われます』
「あー……確かに」
俺が兵士たちと話している。
それだけなら、砂糖とは結びつかない。
だが――俺が工場へ入る。
兵士たちがそこで働く。
さらに俺が出入りする。
そうなれば、
「誠が関わっている」
と考える人が増える。
「なるほどな」
『現在は、誠様が工場に関わらない方が自然です』
「じゃあ……」
俺は一歩下がる。
「これは任せっきりでいいな」
『はい』
「俺が作り方を教えたことは、兵士さんたちも知ってる」
『はい』
「でも、これからは兵士さんたちが作る」
『その通りです』
「俺は別のことをする」
『それがよろしいと思います』
俺は工場を眺める。
大きなレンガ造りの建物。
その中では、砂糖が作られている。
けれど、町人たちから見れば――
「軍の施設」
それで十分だ。
「……」
「なんか、俺が関わらない方が秘密を守れるって、不思議だな」
『誠様は目立ちますので』
「それ、褒めてないだろ」
『事実です』
「はいはい」
俺は工場に背を向ける。
「さて。俺は俺の仕事に戻るか」
『はい』
「ゴミでも拾ってくるかな」
『合理的です』
「砂糖工場を建てた翌日に、ゴミ拾いか……」
『どちらも町には必要です』
「まあ、そうだけどな」
俺は手引き台車を引きながら歩き始める。
後ろでは、兵士たちが砂糖工場へ出入りしている。町人たちも、特に不思議がることなく日常へ戻っていく。
大きな工場が一つ増えた。それだけのこと。
少なくとも今は――この町では、そういうことになっていた。




