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異世界転移したら俺じゃなくてスマホがチートでした  作者:


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砂糖を広める前に

「しかし……」


俺は完成したばかりの砂糖工場を見る。


「砂糖がここまで高単価だとは……」


『はい。私も想定外でした』


「一キロで荷馬車五台分だからな」


『はい』


「大量生産しても、当面はかなりの金額になるよな?」


『なると思われます』


「だよなぁ」


俺は少し遠い目をする。


「それなら、タタがあんなに嬉しそうなのも分かるか」


『はい』


「目が完全に金マークになってたもんな」


『私にも、そのように見えました』


「だな……」


俺は苦笑する。


「まあ、あまり無茶なことはしないと思うけど」


『はい。現時点では問題ないと思われます』


「兵も来てるし」


『はい』


「それに、もう作業の流れも覚えた」


俺は砂糖工場を見る。

兵士たちは、すでに自分たちだけで作業を進めている。


甜菜を運ぶ者。下処理をする者。

煮出す者。液体を煮詰める者。

出来上がった砂糖を確認する者。

それぞれが役割を分担している。


「これなら、俺がずっと付きっきりになる必要もないな」


『はい』


「やっと俺も手が空くな」


『そのようです』


「よかった……」


俺は大きく伸びをする。


「これで午後はのんびり――」


『誠様』


「……」


「何?」


『砂糖を使った新しいメニューを開発してみてはいかがでしょう』


「やっぱり?」


『いえ』


「ん?」


『やはり、やらない方がよいと思われます』


「お?」


俺は少し意外に思う。


「やらなくていいのか?」


『はい』


「何で?」


『砂糖は現在、この町にとって非常に高価な物です』


「まあ、そうだな」


『そして、製造量もまだ限られています』


「うん」


『その状態で新しい料理を作り始めると、砂糖の消費量が増加します』


「あー……」


『さらに、調理中に甘い香りが広がる可能性があります』


「……」


俺は砂糖工場を見る。


「香りか」


『はい』


「砂糖を煮詰めたり、お菓子を作ったりしたら……」


『町中の方が気付く可能性があります』


「そりゃそうだな。何だか分からないけど、甘い匂いがする。どこからだ?」


なんてことになれば。


「せっかく秘密にしてるのに、すぐバレるか」


『その可能性があります』


「なるほど」


俺は少し考える。


「じゃあ、まずは――」


『はい』


「村全体に砂糖を流通させる」


『その通りです』


「みんなが普通に砂糖を使うようになればいい」


『はい』


「そうすれば、後から砂糖を使った料理を作っても、そこまで不自然じゃない」


『合理的です』


「まずは砂糖そのものに慣れてもらう」


『はい』


「そして生産量が十分に増えたら……」


『料理や菓子への利用を増やす』


「なるほどな」


俺は頷く。


「急いで売るんじゃなくて、まず町の中で使う」


『はい』


「砂糖がある生活を普通にする」


『その通りです』


「それから外へ売る」


『はい』


「順番が大事なんだな」


『その通りです』


俺は工場を見る。


「しかし……」


『はい』


「砂糖一つで、こんなに慎重になるとはな」


『価値が高い物ほど、扱いには注意が必要です』


「だよな。ポテチの時とは全然違う」


『ポテトチップスは、ジャガイモ、油、塩が主な材料でした』


「しかも、売れすぎても困るほどじゃなかった」


『はい』


「でも砂糖は違う」


『はい』


「これ一つで、町の財政まで変わる可能性がある」


『その可能性があります』


「……」


俺は工場の中で働く兵士たちを見る。


「なら、今は任せるか」


『はい』


「俺は別のことを考える」


『それがよろしいと思います』


「とりあえず……」


「今日は砂糖を使った料理は作らない」


『賛成します』


「まずは村全体に砂糖が行き渡るのを待つ」


『はい』


「そして、十分に生産できるようになったら――」


『新しい料理を』


「だな」


俺は少し笑う。


「その時は、思いっきり甘い物でも作るか」


『期待しております』


「アイも味見できればいいのにな」


『残念ながら、私は味覚を持ちません』


「そうだったな」


俺は工場を眺める。

砂糖は、まだ町にとって特別な物だ。

だからこそ、今は焦らない。


少しずつ。町人たちの生活に砂糖を馴染ませていく。


そしていつか――砂糖が「貴重品」ではなく、「普通に使える物」になる日を目指す。


「……」


「それも、豊かになるってことなのかもな」


『はい』


今度こそ、俺は少しだけ肩の力を抜いた。


砂糖作りを任せられるようになったことで、ようやく誠にも新しい時間が生まれ始めていた。

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