砂糖一キロの価値
「しかし……」
俺は完成間近の工場を見る。
「やたら工場建て終わるの早くないか?」
『そうですね。かなり優先している様子です』
「だよな」
基礎を作ったと思ったら、壁ができ。
壁ができたと思ったら、屋根までできている。
「いくらなんでも早すぎるだろ」
『それだけ砂糖の生産を重要視していると思われます』
「なあ、アイ」
『はい』
「この砂糖って……」
『はい』
「もしかして、とんでもなく高価なんじゃないか?」
『工場を短期間で建設しても採算が取れるほどの価値がある可能性があります』
「……」
「タタに聞いてみるか」
『はい。現在の価値を把握するには良い機会です』
「だよなー」
何となく怪しい。
砂糖を見つけた。兵士が来た。
工場が急ピッチで建つ。
どう考えても普通じゃない。
「タター!」
「はい?」
タタが振り返る。
「ちょっといいか?」
「何でしょう? 誠殿」
「なあ」
俺は単刀直入に聞く。
「砂糖って、一キロでどれくらいの価値があるんだ?」
「えーっと……」
タタが視線を泳がせる。
「まあまあです」
「……」
「なぜ目を逸らして答える?」
「いえ?」
「高価なんだろ?」
「高価であります!」
「それは理解してる」
俺は腕を組む。
「じゃあ具体的に教えてくれ」
「具体的に?」
「そう。砂糖一キロで、何がどれくらい買える?」
「えっと……」
タタがまた目を逸らす。
「色々たくさん……」
「だから!」
「なぜ目を逸らしながら答える!?」
『誠様』
「何だ?」
『具体的な物と比較した方が分かりやすいと思われます』
「なるほど」
俺はタタを見る。
「じゃあ聞き方を変える」
「はい」
『あの荷馬車は、何台と交換可能でしょうか?』
「え……」
タタが固まる。
「どうですかね……」
「お前……」
俺はタタをじっと見る。
「答えを知ってるな?」
「……」
「はけ!」
「やめてください!!」
タタが両手を上げる。
「答えます!」
「最初から答えろよ……」
タタは深呼吸する。
「はぁ……はぁ……砂糖一キロの価値は……」
「はい」
「荷馬車五台分です!」
「……」
俺は黙る。
「五台?」
「はい」
「砂糖一キロで?」
「はい……」
「……」
俺はアイを見る。
『かなり高価です』
「だよな」
『以前の荷馬車の規模から考えると――』
「うん」
『一台の荷馬車を、地球の大型輸送車両に近い物と仮定するなら』
「……」
『五台分は相当な価値になります』
「それでも、まだピンと来ないな」
『では、以前の記憶にある物と比較します』
「何?」
『荷馬車一台と軽トラック一台程度』
「は?」
俺は思わず聞き返す。
『砂糖一キロで、それらを購入できる程度の価値と推測します』
「……」
「それって――」
俺はタタを見る。
「めちゃくちゃ高価じゃねーか!」
「はい!」
「何で最初から言わないんだよ!」
「怖かったので……」
「何が!?」
「誠殿が驚かれるかと……」
「そりゃ驚くわ!」
『これなら、兵士を派遣した理由も説明できます』
「そうだな……」
砂糖一キロ。
それだけで、荷馬車五台。
あるいは、俺の知識で言えば大型車両に匹敵するほどの価値。
「……」
「そりゃ兵も来るわ」
『はい』
「そりゃ工場も急いで建てるわ」
『はい』
「そりゃタタも必死になるわ」
『その通りです』
俺はタタを見る。
「タタ」
「はい!」
「お前……」
「何でしょう?」
「最初からこの価値を知ってたな?」
「……」
「知ってたよな?」
「……はい」
「何で隠してた?」
「隠していたわけではありません!」
「じゃあ何だよ」
「言わなかっただけです!」
「それを隠してるって言うんだよ!」
「申し訳ありません!」
タタが頭を下げる。
「ですが!」
「まだ何かあるのか?」
「砂糖がこの村の特産品になれば――」
タタの目が輝く。
「村の収入は大きく増えます!」
「……」
「商人も増えます!」
「……」
「人も増えます!」
「……」
「町も発展します!」
「……」
「皆さんが豊かになります!」
「それは分かった」
俺はため息をつく。
「でも、お前……」
「はい?」
「金蔓だと思ってるだろ?」
「違います!」
『誠様』
「何だ?」
『表情を確認してください』
俺はタタを見る。
「……」
「めちゃくちゃ嬉しそうだな」
「違います!」
「絶対、金蔓だと思ってるだろ!」
「金蔓ではありません!」
「じゃあ何だ?」
タタは胸を張る。
「町を豊かにする大切な資源です!」
「言い方を変えただけじゃねーか!」
『非常に商人らしい発想です』
「アイまで……」
タタは真剣な顔になる。
「ですが、私は本当に、この町を豊かにしたいと思っています」
「……」
「砂糖は、そのための大きな武器になるのです」
「武器って……」
『経済的な意味では、間違っていません』
「まあ……」
俺は工場を見る。
これほど大規模な設備を作るほどの価値。
兵士を配置するほどの価値。
そして、それを大量生産できる可能性がある。
「砂糖一キロで、荷馬車五台か……」
『はい』
「だったら、確かに慎重に扱わないとな」
『その通りです』
俺はタタを見る。
「分かった」
「では――砂糖の生産は、しっかり管理してくれ」
「もちろんです!」
「ただし」
「はい?」
「金蔓とか考える前に、安全第一だからな」
「もちろんです!」
「……」
「本当だろうな?」
「本当です!」
『誠様』
「何だ?」
『信用については、現時点では保留を推奨します』
「だよな」
「聞こえてますよ!?」




