砂糖生産計画
「誠殿! それでは打ち合わせを行います!」
「……」
タタから打ち合わせをしたいと言われ、時間を空けておいた。
「で、例の件ってのは理解している」
「まあ、そうです。例の件です」
「例の件と言えば……」
「砂糖です」
「だよな」
あえて「砂糖」とは口にしない。まあ、今言ったけど。今のところ、この場にいる全員が理解している。
目の前にはタタ。そして隊長と副隊長。
二人とも、いつになく神妙な面持ちだ。
「それでは、今後の予定について説明します」
タタが羊皮紙を広げる。
「この隊長以下の部隊で、例の物を生産します!」
「え!?」
俺は思わず隊長を見る。
「守るためじゃないの?」
「守るためですよ!」
「……?」
『誠様。タタ様の言っていることは、確かに理にかなっています』
「そうなのか?」
『はい』
タタが説明を続ける。
「まず、この兵士の方々に例の物の製造工程を覚えていただきます」
「兵士が?」
「はい!」
「でも、兵士って守るのが仕事じゃ……」
「だからこそです!」
「どういうこと?」
タタは胸を張る。
「兵士の方々なら、製造方法について外部に情報が漏れる可能性を抑えられます!」
「あー……」
『情報管理という意味では合理的です』
「つまり、兵だから秘密を守れるってことか?」
「その通りです!」
タタは満足そうに頷く。
「そして、まずはこの村全体に例の物を十分に流通させます」
「村全体に?」
「はい」
「何で?」
「急に大量の商品が外へ出れば、当然注目されます」
「確かに」
「ですが、まず村の中で十分に流通させておけば――」
「村では普通に使われている物になる」
「その通りです!」
『中途半端な量が突然流通して混乱するより、まず内部で需要と供給を安定させる方針と推測します』
「なるほどな」
「そして、その後です!」
タタが羊皮紙の次の部分を指差す。
「さらに人員を投入します!」
「人を増やすのか」
「はい!」
「それで?」
「輸出品へ!」
「……」
俺は少し考える。
「うーむ……それの方がいいのかな?」
『はい。合理的だと思われます』
「アイもそう思うか?」
『はい。まず村内で十分な量を確保し、価値を把握する。その後、余剰分を輸出する方が安全です』
「なるほど」
「いきなり外へ大量に売り出すんじゃなくて、まずこっちを固めるわけか」
『その通りです』
「それならいいんじゃないか?」
「では!」
タタが俺を見る。
「誠殿には、隊長以下全員に製造工程を教えていただきたいです!」
「全員?」
「はい!」
隊長が立ち上がる。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ……」
俺は隊長を見る。
「兵士に砂糖の作り方を教えることになるとはな」
「我々も重要な任務だと理解しております!」
「そうか……」
『誠様』
「何だ?」
『製造工程を一度覚えてしまえば、誠様の負担も減ります』
「ああ、それは助かる。なら、俺が実際に作りながら説明するよ」
「ありがとうございます!」
タタが深々と頭を下げる。
「全員が覚えましたら、工場を新たに建設します!」
「工場?」
「はい!」
「もう建てるのか?」
「というか――」
タタが外を指差す。
「建てています!」
「……」
俺は窓の外を見る。
「……」
「本当だ」
『進行が早すぎます』
「だよな……」
外では、すでに何人もの職人が動いている。
レンガを積み。基礎を作り。
建物の形が少しずつ出来上がっている。
「いつの間に……」
「もちろん!」
タタが満面の笑みを浮かべる。
「動ける時に動くのが一番です!」
「……」
『非常に行動が早いです』
「流石ですね、アイ殿も!」
「そこ褒めるところなのか?」
「それで!」
タタはさらに羊皮紙をめくる。
「工場が完成すれば、安定した生産が可能になります!」
「なるほど」
「原料の栽培量も増やします!」
「畑も?」
「もちろん!」
「そして、加工した物を保管する倉庫も必要になります!」
「倉庫まで?」
「はい!」
「商人との取引場所も!」
「……」
「輸送用の荷馬車も!」
「おい」
「そして――」
タタが目を輝かせる。
「村のかねづ……を――」
「……」
「ん?」
「……」
「今、金蔓って言おうとしなかったか?」
「いえいえ!」
「絶対言おうとしただろ」
「違います!」
『誠様』
「何だ?」
『恐らく、かなり近い単語を考えていたと思われます』
「アイまで!」
「私は!」
タタが慌てて手を振る。
「村の財源確保と言いたかっただけです!」
「まあ……結果的には同じか」
「そうです!」
「開き直ったな」
「村が豊かになるのですから、良いではありませんか!」
「まあ、それはそうだけど」
タタは再び真剣な顔に戻る。
「砂糖は、この村の未来を変える可能性があります」
「……」
「だからこそ、慎重に、そして確実に進めたいのです」
隊長も頷く。
「我々も、その任務を果たします」
「分かった」
俺も頷いた。
「じゃあ、まずは作り方からだな」
「はい!」
『誠様』
「分かってる」
「今日から砂糖の先生だな……」
『適任だと思われます』
「料理人じゃなかったのかよ」
『今回は製造技術の指導者です』
「……」
また仕事が増えた。
だが――これまで俺一人で作っていた砂糖が、これからは多くの人の手によって作られる。
そして、やがて町の特産品になる。
「まあ……」
「町が豊かになるなら、悪くないか」
『はい』
その隣では、すでにタタが次の指示を出している。
「工場の進捗を確認してください!原料の畑も増やします!倉庫の場所は――」
「……」
「本当に動きが早いな」
『はい』
砂糖工場が完成するより先に――タタの計画だけが、どんどん先へ進んでいた。




