砂糖を守る兵士
数日後。村の入口が少し騒がしくなっていた。
「ん?」
俺が見に行くと、見慣れない一団が立っている。
「兵士か?」
『はい』
人数は十五名ほど。
先頭には隊長らしき人物。その隣には副隊長。
その後ろには、武装した兵士たちが並んでいる。
「本当に来たのか……」
『はい』
「砂糖がこれほど大事になるとはな……」
『兵を配置するほど高価な物であると推測します』
「それは俺でも分かる」
俺は苦笑する。
「でも、大量に作れば安くなるんじゃないのか?」
『その可能性はあります』
「なら、作ればいい」
『問題があります』
「何?」
『この国、あるいは周辺地域全体での砂糖の流通量が不明です』
「……」
「確かに」
俺たちが、
「三キロ作った!」
と言っても、それがこの世界でどれほどの量なのか分からない。
「こっちでは一ヶ月分かもしれないし」
『はい』
「逆に、国全体で見れば少量かもしれない」
『その通りです』
「そもそも、どれくらいの人が砂糖を使ってるのかも分からない」
『はい』
俺は砂糖の入った容器を見る。
「これがどれくらいの価値なのか、俺には判断できないな」
『現状では困難です』
「だよなぁ」
◇
兵士たちは、村の中へ案内されていった。
隊長はタタと話をしている。
「何を話してるんだろうな?」
『砂糖の保管場所や警備体制などについて確認している可能性があります』
「なるほど」
俺は少し離れたところから眺める。
「しかし……砂糖を手に入れようとする奴が出てくる可能性もあるのか」
『高いと思われます』
「だから兵を配置した」
『そのように推察します』
「……」
砂糖なんて、俺にとっては料理に使う物。
甘い物を作るための物。それくらいの認識だった。だが、この世界では違うらしい。
「これだけで兵が来るんだもんな」
『はい』
◇
「そういや、あれから砂糖は作ってるけど……」
『はい』
「三キロくらいにはなったか?」
『現在、その程度です』
「三キロって言っても……」
俺は袋を見る。
「これがどれくらいの価値なのか、さっぱり分からん」
『私も判断できません』
「アイでも?」
『この世界の市場価格や流通量が不明です』
「だよな」
俺は少し考える。
「タタに聞いてみるか?」
『……』
「どうした?」
『推奨はしません』
「やっぱり?」
『はい』
「何で?」
『現在のタタ様は、砂糖の話になると非常に積極的です』
「……」
「確かに」
『正確な価値を聞いた場合、誠様が想定していない規模の計画が始まる可能性があります』
「怖いな……」
『また、現在の村人全体に砂糖の価値が知られた場合も注意が必要です』
「パニックになる可能性がある?」
『はい』
「そりゃそうか」
突然、
「この粉はものすごく高価です!」
なんて知らされたら、今まで普通に暮らしていた村人たちは驚くだろう。
「だったら、今は知られない方がいいな」
『その方が安全と思われます』
「でも……」
俺は自分の手を見る。
「俺一人だと、作るのにも限界があるぞ?」
『その通りです』
「三キロ作るだけでも結構大変だった」
『現在は誠様が製造を担当しております』
「これを十キロ、百キロってなると……」
『現在の方法では困難です』
「だよなぁ」
俺はため息をつく。
「結局、タタがどうするかだな」
『はい』
「大量生産の準備をするって言ってたけど……」
『どのような方法を取るかは、まだ不明です』
「まあ、とりあえず――」
俺は砂糖を作るための材料を見る。
「俺は作り続けるか」
『はい。それがよろしいかと思われます』
「作れるうちに作っておく」
『はい』
「その間にタタが生産体制を整える」
『その流れが合理的です』
「よし」
俺は鍋を用意する。
「じゃあ、今日も砂糖作りだ」
『はい』
◇
鍋に水を入れる。甜菜を切る。鍋へ入れる。
「……」
火を入れる。
「しかしなぁ」
『はい』
「砂糖を作ってるだけなのに、兵士まで来るとはな」
『価値の大きさが想定以上だった可能性があります』
「この町、どうなっていくんだろうな」
『現時点では予測が困難です』
「だよな」
鍋から湯気が上がる。
俺は木べらを手に取った。
「まあ、考えても分からないか」
『はい』
「なら、今できることをやる」
『その通りです』
「砂糖を作る」
『はい』
俺は鍋をかき混ぜる。
「後は……」
遠くを見る。
村の入口には、まだ兵士たちの姿がある。
「タタが何を始めるのか、待つとするか」
『それがよろしいかと思われます』
砂糖という小さな粉。
それが、この町にどれほど大きな変化をもたらすのか。
今の誠には、まだ分からなかった。




