新メニュー誕生
「あちぃ……」
俺は鍋をかき混ぜながら、額の汗を拭った。
「ケチャップに、とろみがついてきたぞ!」
『いい感じです。味見をしてください』
「おっ!」
俺は少しだけすくって味を見る。
「……」
「いい感じ……かな?」
『まだ熱いので、正確な判断は難しいと思われます』
「だよな」
『冷えた状態を想像して味見をしてください』
「うーむ……」
もう一度味を見る。
「当たらずとも遠からず……ってところか?」
『……まあ、いいでしょう』
「なんだよ、その微妙な反応」
『味覚は人それぞれです』
「確かにな」
俺は再び鍋をかき混ぜる。
「しかし……ミィナは行ったきり戻ってこないな」
『そうですね』
「マヨネーズ持って帰っただけなのに」
『ポテチ屋のメニューに追加したい商品が御座います』
「何?」
『ポテト月見カット揚げです』
「あー!アレな!マヨネーズとケチャップか!」
『その通りです』
「しかし、ケチャップは熱いままじゃダメだな」
『はい』
「明日にでも持っていくか」
『それがよろしいと思います』
◇
次の日。
「……」
「ミィナ、結局戻ってこなかったな」
『そうですね』
「まあ、いいか」
俺は昨日作ったケチャップを見る。
「さて……」
蓋を開ける。
「冷えてるな」
スプーンですくってみる。
昨日より、とろみが増している。
「おっ」
少しだけ味を見る。
「……」
「近い!」
『近いですか?』
「かなり近い!」
『では成功と判断します』
「よし!早速、ポテチ屋に新メニュー追加だ!」
『はい』
俺はケチャップを容器に入れる。
「持っていくか」
◇
「おうおう!」
ポテチ屋に着くと――
「既に行列かよ!」
朝からかなりの人が並んでいる。
「ミィナもいるな?手伝ってるのか?」
俺は声をかけようとする。
「ミィナー!おー……」
しかし。
「……」
すでに調理場では、見覚えのある物が作られていた。
「……」
「アイさんや」
『はい』
「もう月見カット揚げが出来てるが……」
『私も驚いております』
「誰が考えたんだ?」
俺が近づくと、ミィナがこちらを振り向いた。
「誠!」
「お前が思いついたのか?」
「いや。ここの主婦さんだ!」
「主婦さん?」
「昨日、マヨネーズを持って帰って、みんなで色々試してたんだ」
「それで?」
「これが美味いってなって!」
ミィナが目の前の皿を指差す。
「ポテトにマヨネーズをかけて、さらにこれ!」
「……」
俺は出来上がった月見カット揚げを見る。
「なるほど」
「昨日から販売してるぞ!」
「昨日から!?」
『非常に早いです』
「俺より先に完成してるじゃねーか……」
「俺はマヨネーズ作りをやってる!」
ミィナが胸を張る。
「なるほどな。で、これがケチャップ」
俺は持ってきた容器を出す。
「昨日煮てたやつだな!」
ミィナが覗き込む。
「ちょっと食ってみる!」
「どうだ?」
ミィナは少しだけ舐める。
「……」
「うーん!これもうめーな!」
「よし!」
『誠様!』
「皆まで言うな!」
『……』
「ケチャップ作りだろ?」
『はい』
「分かってるよ」
俺はため息をつく。
「主婦さんを借りて、教えるか」
『それがよろしいと思います』
「ミィナがマヨネーズを覚えて主婦さんたちが新しい料理を考えて、俺がケチャップを教える」
『理想的な流れです』
「俺がずっと作る必要はないんだな」
『はい』
「なら、教えるか」
俺はポテチ屋の中を見る。
昨日まで、ただポテチを売っていた場所。
それが今では――マヨネーズを使った新メニューが生まれ。さらにケチャップまで加わろうとしている。
「食べ物って、面白いな」
『組み合わせによって、新しい料理が生まれます』
「しかも俺が考えなくても、村の人が勝手に考え始めてる」
『はい』
「これも、豊かになったってことか」
『その通りです』
俺は主婦さんたちにケチャップの作り方を説明する。
「トマトを潰して玉ねぎとニンニクを細かくして干し柿を入れて、ゆっくり煮込む。焦がさないように」
「なるほど!これなら私たちでも作れそうね」
「そうだろ?」
『はい。誠様の役割は、最初のきっかけを作ることです』
「……」
「俺の仕事って、案外それなのかもな」
『はい』
「作って終わりじゃない。作り方を広めて。後はみんなに任せる」
『合理的です』
「なら――」
俺は鍋を主婦さんたちに渡す。
「ケチャップ作りは頼んだ!」
「任せて!」
元気な返事が返ってくる。
「……」
俺は少し離れた場所から、ポテチ屋を見る。
人が並んでいる。新しい料理が生まれている。
村人同士で工夫している。
そして、それがまた新しい商売になっている。
「最初は俺が作っただけなのにな」
『現在は、村の人々が自分たちで発展させています』
「……」
「いい流れだな」
『はい』
ポテチ屋の前には、今日も長い行列ができていた。




